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「ちょ、待て! 俺にこんな趣味はないぞ!」


 さすがにこのコスプレは意味が分からなすぎる。いったいどういうことなのか、あわてて周りを確認した――ら、すぐ近くに、さっき別れたばかりの謎火星人が立っているのに気づいた。その触手の中にはしっかりラジカセもある。


「お前、ここでも出番あるのかよ」


 とりあえず、そいつに近づき、その持つラジカセのスイッチを入れた。ここから音楽が流れている間はゆっくり話をしていられるからな。


「はっは。私はあくまでここのステージの説明係。さきほどのステージの彼とは別の触手さ」

「そっくりさんってわけか。その音楽の効果は同じなんだろうな?」

「ああ、それはもちろん。安心してくれたまえ。これは、このファイナルステージまで来た人に時間を気にせず説明を聞いてもらうためのものだからね」

「ファイナルか」


 ついにこのクソゲーもここで終わるのか。まあ、ファイナルってタイトルについてても、延々続編が出てるゲームもあるけどさ。


「……で、なんで俺はこんな格好なんだよ? つか、そもそもここはいったいなんなんだよ?」


 俺は改めて周りを見回した。俺たちが立っている場所は、なぜか野外に見えた。足元はごつごつした岩がむき出しになっていて、すぐ目の前には川があり、向こう岸にわたるつり橋がある。その先には森が広がっているようだ。……ここ、本当に遊具の中なのか?


「いいかい、今の君は結婚式会場に向かっている花嫁だ」

「え、なにその設定?」

「つまり君は、多くの苦難を乗り越え、新郎の待つ会場にたどり着かなくてはいけない!」

「聞けよ」


 まあ、この格好でゴールを目指せってことはなんとなくわかったが。


「ここで大事なのは、君のその花嫁衣装だ。花嫁が身にまとうドレスは純白と決まっているからね。会場に着くまで、決して汚されてはいけない。そう、絶対に何があっても!」

「ようするに、これを汚さずにゴールに行けば、このステージはクリアってことか?」

「まあそうだね。さすがここまで来た男だ。理解が早い」

「なるほどな」


 設定はアレだが、ルールはわかりやすくていいな。


「なお、今の時点で君の残り時間は四十八秒だ」

「え、そんだけしかねーのかよ」


 意外と俺、ピンチじゃねえか!


「会場に着くまでに、さまざまな敵が君のドレスを汚さんと襲い掛かってくることだろう。ここでの破壊行為は禁止だが、これを使って自らのドレスを守ることだけは禁止ではない。さあ使いたまえ、花嫁よ」


 と、謎火星人は触手の中からブーケをにゅるっと取り出し、俺に手渡した。ただ、普通の花束ではなく、何かの金属でできた造花のようだった。あと、ちょっぴり粘液まみれでぬるぬるしている……。


「おい、このブーケ自体が最初からお前の粘液で汚れてるんだが? これでドレスが汚れるのを防げとか話がちょっとおかしくない――」

「さあ、花嫁よ、新郎の待つ会場へ急ぐのだ!」


 と、謎火星人はつり橋の向こうの森を触手で指し、消えた。持ち時間を消費しない音楽も当然鳴りやんだが、その代わりのように、ブーケに残りの秒数が浮かび上がった。こっからはタイマー付きか。


「よーし! とっととゴールまで行くぜ!」


 ドレスの裾をまくりあげて結び、動きやすい格好になると、俺はそのまま一気に川をジャンプで飛び越え、森に突入した。その一瞬、川から何か噴き出してきたようだったが、それは当然、俺の着ているドレスにかすりもしなかった。

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