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 翌朝、俺たちはすぐにそこから出発した。この島の中央にあるというガウラ山を目指して。キャゼリーヌというナビのおかげで、道に迷うことは特になかった。


 ただ、そこまではけっこうな距離があり、俺たちがガウラ山のふもとについたのは、その日の夕暮れ間近で、さらに、咆哮の滝に着いたのは日が落ちてからだった。


 咆哮の滝はその名の通り、かなり激しい水流の滝のようだった。暗くて滝の全貌はよく見えなかったが、音だけでもそれがよくわかった。しかし、亀妖精のやつ、こんなところに俺たちを呼び出して、何のつもりなんだろう……?


 と、首をかしげていると、


「おお、やっと来たようじゃのー」


 という声とともに、どこからともなく、亀妖精が俺たちの前に現れた。


「で、ここでいったい何をするんだよ?」


 俺は開口一番尋ねたが、


「お主! ワシの言いつけをちゃんと聞いておらんかったのかの! ツワモノを四人集めてこいと言ったじゃろ!」


 と、なんか急に亀妖精はキレはじめた。


「いや、ちゃんと四人以上いるだろ」

「数があってればいいという問題ではない。ツワモノと呼べるのは、お主とジーグと、そこの女しかおらんではないか」


 亀妖精は俺とヒューヴと変態女を順番に指さしながら言う。


「え? じゃあ、その三人以外は――」

「問題外じゃな!」


 亀妖精はユリィ、キャゼリーヌ、ヤギを見て、きっぱりと言い切った。


「そ、そうか、私では力不足か……」

「すまないトモキ、俺はお前の力にはなれそうもない……」


 キャゼリーヌとヤギはとたんにしょんぼりしてしまった。ユリィだけは、あまりショックを受けてない様子で、そんな二人の反応を何やら気にしているようだったが。


 そうか、こいつらは強いといっても、俺たちほどじゃねえか。俺は伝説の勇者様だし、ヒューヴはその仲間だし、変態女もレーナの魔術師ギルトの元ギルド長だったりして、だいぶ一般人とはかけ離れてるしな。


「つか、なんで四人じゃないとダメなんだよ。まず説明しろ、そこの亀」

「そこは、四人一組ではないと入れないのじゃ」

「そこ?」

「この滝の裏にある封印窟のことじゃ」


 亀妖精は滝のほうを指さして言う。


「ふーん、この滝の裏になんかあるのか」


 ファンタジーのお約束だなーって。


「で、その封印窟ってなんなんだよ?」

「いにしえの時代から、悪しき魔物や邪悪な人間たちを封印してきた場所じゃ」

「ようはゴミ捨て場か」

「まあ、そんなもんじゃな」


 あ、いいんだ、その解釈で。


「今までその者たちは、ワシの力で封印しておったんじゃが、最近はワシ、寿命間近じゃろ? いい加減封印の力を使い続けるのも辛くなってきたんじゃよ」

「……つまり、俺たちにその封印されているやつらを全部片づけてほしいってわけか?」

「そうじゃよ! 理解が早くて助かるのー」

「ようはゴミ掃除かよ」


 話はわかるが、めんどくせえな。


「ここにいる者たちをすべて倒せば、ワシもお主一人に祝福を与える力ぐらいは取り戻すはずじゃよ?」

「マジか!」


 そうと決まれば、めんどくさがってはいられないぜ! ようはモンスター退治だし。それって、俺にとっちゃ超得意分野だし。こんな仕事、ちゃちゃっと片づけて祝福ゲットだぜ。


「あ、でも、強いやつがあと一人いるんだっけ……?」


 俺たちと同じくらいのな。そんなやつ、そのへんにいるわけもないしなあ。


「なーなー、アル。ティリセやエリーをここに呼べばよくね?」


 と、バカが俺に言った。


「うーん。ティリセは無理だろうな。どこにいるかわからんし、そもそも俺、前にあいつをめちゃくちゃ怒らせたしな。それに、エリーもどうかな? 連絡先はわかってるんだが、あいつ今の仕事忙しそうだしなあ」


 そもそもエリーはパワータイプではなくテクニシャンタイプだから、この亀妖精が認める強さの持ち主かどうかもわからんし……。


「勇者様、だいじょうぶよ。きっと最後の一人はすぐにここに来るわ」


 と、サキが俺に言った。


「すぐに? なんでそんなことわかるんだ? あんた、誰かここに呼んだのか?」

「私は誰も呼んでないわよ。ただ、その近づいてくる気配は感じるもの」


 サキはそう言って、夜空を指さした。今夜は月のない夜で、星だけがきらきらまたたいていた……って、んんん? 月のない夜ってことはだな、まさか……まさかとは思うが……。


「なあ、その最後の一人ってもしかして、空飛んでこっちに来てる?」

「そうね。すごい速さだわ」

「で、でしょうね……」


 たちまち悪い予感で胸がいっぱいになる俺だった。


 そして、直後、その予感は見事に的中した。いきなり空の彼方から、超高速で何かが俺たちの前に飛来してきたのだ。


 ドォーンッ!


 それはやはりミサイルの着弾のようだった。


 やがて、


「いたたた……。また着地に失敗してしまいました」


 そんな声とともに、ミサイルそのものだったその男はゆっくりと立ち上がった。その顔にはよく見覚えがあった。


 そう、突如俺たちの前に現れたのは、リュクサンドールだった。

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