362
「なんでお前がこんなところにいるんだよ!」
開口一番、尋ねずにはいられなかったが、
「なんでだと聞きたいのはこっちですよ! トモキ君、なんでちゃんと約束通りに僕のところに来てくれないんですか!」
と、質問を質問で返されてしまった。うざいことこの上ない。
「約束ってなんだよ? 意味わからんぞ」
「ほら、トモキ君、前に僕に言ったじゃないですか。次の新月の夜に、僕の呪術の研究に付き合ってくれるって」
「あ」
そういえば、そういうやり取りもありましたね……。
「今日は新月の夜ですし、僕、昼間からずっとトモキ君が来るのを待っていたんですよ。でも、夕方になってもちっとも来ないし! トモキ君、完全に僕との約束を忘れていたでしょう!」
「いや、忘れてたというかなんというか……」
人間、一秒でも早く忘れ去りたいことってあるよね。
「そういうわけで、僕のほうからトモキ君に会いに来たわけなんです」
「いや、そういうわけでって、お前なんで俺の居場所わかったんだよ?」
「陛下が教えてくださいました」
「え」
「今日のことを陛下に相談したら、魔法でトモキ君のいる場所を調べてくださったんですよ。本当におやさしい方ですよね、陛下は」
「あいつ、余計なことしやがって……」
明らかに俺をおちょくることに全力だよな、あのロリババア。
「あと、陛下は僕のベルガドへの緊急入国の手続きもしてくださいましたし、呪術の特別使用許可書も僕にくださったんですよ。ほら! これで今夜はいろんな呪術が使いたい放題ですね!」
と、着ている教師の制服のポケットから紙切れを出して俺に見せつける男だった。相変わらず達筆すぎて何も読めんが、この紙切れ一枚でこの男は今夜、呪術解禁らしい。
「ただ、ツァドだけは許可が下りなかったんですよね。なんででしょうかねー」
「……なんでやろうなあ」
理由がわかりすぎてつれーんだが?
と、そこで、
「ツァドじゃと? なぜそのような物騒な名前が出てくるのじゃ?」
亀妖精がぎょっとしてこっちに飛んできた。
そして、
「なんじゃ、この男は! 邪気に満ち満ちているではないか!」
リュクサンドールを見てさらにぎょっとしたようだった。まあ、さすがにベルガド本人なら、こいつがやべーやつなのは一目でわかるか。
「あ、はじめまして、そこの小さいお方。僕は、リュクサンドール・ヴァン・フォーダムといいまして――」
「そうか、さっき垣間見た、この者たちの記憶に登場する、邪悪な呪術師の男か!」
と、亀妖精はヤギやユリィを見ながら言う。
「いや、僕は邪悪ではないです。真摯な呪術師です」
「うむ。自覚がない邪悪ほど、たちの悪いものはないのう」
確かに。さすが海千山千亀万年。含蓄のある言葉だ。
「おい、アル、なんだよこの白髪のおっさん?」
と、ヒューヴが尋ねてきた。
「トモキどののお知り合いというのなら、ぜひ紹介していただきたいものだな」
と、キャゼリーヌも何やら興味津々だ。
一方、変態女は、
「ハァイ、サンディー。久しぶりね」
と、陽気にリュクサンドールに手を振るのだった。そういや、こいつら知り合いだったか。
とりあえず、俺はヒューヴとキャゼリーヌにリュクサンドールのことを簡単に説明した。その間、リュクサンドールはヤギとユリィと変態女それぞれに再会のあいさつしていた。
「というわけでトモキ君、これから呪術の研究に付き合ってもらいますよ」
そして、あいさつが済むとすぐにこう言ってくる男だった。ブレねえなあ、もう。
「なあ? 呪術の研究よりも、実際に敵に呪術をぶっ放すほうが有意義じゃねえか?」
「敵? 僕が呪術を使っていい敵がいるんですか? どこに?」
と、リュクサンドールは思いっきり俺の言葉に食いついてきた。やっぱ呪術使いたくてうずうずしてるんだな、こいつ。
「敵はあの滝の裏だよ。俺たち、これからそこにいる魔物を倒しに行くんだ。お前も来いよ。今夜は呪術使いたい放題なんだろ」
「あ、つまり、僕の呪術が必要なんですね、トモキ君は!」
「ま、まあな……」
呪術は正直ノーサンキューだが、とりあえず四人いないと入れないらしいからな。
「わかりました。一緒に行きましょう! 僕の呪術の輝きを信じて!」
「いや、輝いてないだろ。暗黒そのものだろ」
というわけで、俺、ヒューヴ、変態女、リュクサンドールというメンバーで、滝の裏にあるという封印窟に入ることになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます