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「……まあよい。お主がたぐいまれなるツワモノであることは、認めてやろう。ジーグをこのように一瞬で倒したのじゃからな。だが、同時に粗暴で礼儀を知らぬ男であることも間違いないじゃろう。何やら、ワシに頼みごとがあってきたようじゃが、お主の言うことなど、ワシは聞く耳は持たんぞ」
亀妖精はそう言うと、また不機嫌そうに俺から顔をそらしてしまった。
「いや、そこを何とか……ベルガドさん?」
「いやじゃ! 何も聞こえんのじゃ!」
って、聞こえてるじゃねえかよ、クソ亀妖精が。
「ふん! お主の頼みなど、どうせワシに祝福を与えられたいとかじゃろ?」
ぎくっ!
「ワシに会いたがる人間は昔からそれが目当てと決まっとるからのー」
「そ、そうか。話が早くて助かる――」
「やらんぞ」
「え」
「祝福なんか、お主なんぞにくれてやるものか! それが目的ならば、あきらめて帰るんじゃな!」
亀妖精はあっかんべーしながら俺に言い放った。
「ちょ、待て……待ってください。そこをなんとか……」
やべえ。せっかくここまで来たのに、ヒューヴのゲロのせいですべてが台無しになりそうだ。俺、何のために今までがんばってきたんだよ。どうりゃいいんだよ!
と、そのとき、
「待ってください、ベルガド様! こちらのトモキ様は決して悪い人ではありません!」
「そうです、ベルガド様。彼はこう見えても、偉大な勇者なのです」
と、ユリィとヤギが言った。
さらに、
「トモキどのはその強大な力で多くの人々を救った、素晴らしいお方だ」
「ちょっと性格に問題があるけど、決して悪人ではなくてよ、ベルガド様」
と、キャゼリーヌとサキも言った。
おお……みんなが俺を助けてくれる! 多少言葉遣いに気になるところはあったが、感動で胸がいっぱいになる俺だった。持つべきものは仲間だなあ。ゲロまみれで倒れてるバカもいるけどさ。
「偉大な勇者? 多くの人々を救った? ふうむ……もしやこの男、ただ強いというだけではないのか?」
亀妖精も俺の仲間たちの言葉に興味を持ったようだった。
「よし、ならば、お前たちの心の中にある、ウソ偽りのない記憶を見させてもらうぞ」
そう言うと、亀妖精は何やら体を光らせ始めた。そして、そのままユリィから順番に、俺の仲間たちに触れて行った。
やがて、全員に触れ終えたところで、
「なんと! 暴虐のなんちゃらと言うのは、そんなにハタ迷惑なやつじゃったのか! そして、それをこの男が倒したのか!」
と、亀妖精は俺を見て、驚きの声を上げるのだった。
「はっは。俺の偉大さがよくわかったようだな」
「そうじゃのう。ワシ昔から人間大好きじゃし? 背中の上で人間に生活させてるくらいじゃし? その人間たちを暴虐のなんちゃらの脅威から救ったお主は、間違いなく偉大な勇者と言えるじゃろうな!」
「おお!」
なんか知らんが、ここに来て俺への好感度が爆上げしたみたいだぞ! やったぜ、熱い手のひら返し!
「ただ、普段の素行はあまりよくないようじゃの。酔った勢いで二つの国の軍隊を壊滅させるとか、いかがわしい店でハメを外して乱痴気騒ぎとかは、さすがにどうかと思うのじゃが?」
「う」
そういう恥ずかしい記憶もばっちり伝わってるのかよ! やめてよね、もう!
「まあよい。お主が、ワシの祝福を受けるにふさわしい人間であることは、よくわかった」
「マジで!」
「マジじゃ。ワシは昔からワシが実力や功績を認めたものにしか、祝福を与えんのじゃよ? 誰でも彼でも祝福を与えるもんじゃないのじゃよ? それはさすがに、ありがたみがなさすぎるしのー」
「そうか! じゃあ、さっそく俺を全力で祝福してくれよ!」
「無理じゃな」
「え」
「ワシ、寿命間近やし? 誰かに祝福を与える力はもう残っておらんし?」
「ちょ……それはないだろ!」
今までの努力は、そして、今の俺たちのやり取りはいったいなんだったんだ! 無理ならせめて初めからそう言えよ!
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