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それから俺たちはワンダートレントたちのところに戻った。ユリィの歌をやつらに聞かせればこのミッション?はコンプリートらしいからな。
だが、俺たちが戻った時にはワンダートレントたちはほとんど理性を失ったヤギに食い尽くされていて、一体だけになっていた。しかも、その一体も食われかけていた。
「ちょ、待て! これは食うな!」
俺はあわててその野獣をワンダートレントから引きはがした。なお、ヒューヴのやつは近くに転がって眠っていた。
「あんたらも、いや、あんたも黙って食われるままになってんじゃねえよ! あっというまに壊滅寸前じゃねえか!」
「はは、ご心配なさらずとも、我々の仲間は他の場所にもたくさんいますから。ここにいる我々がすべて食べられたぐらいでは、何の問題もないのです」
「いや、俺としては問題あり過ぎなんだが! まだ俺の話の途中だったんだが!」
そうそう。ここにいる連中が消えたら、また一からワンダートレント探さないといけないからな。めんどくさいよね、それ。
「あら? 勇者様が抱えているのは、もしかしてカプリクルスかしら?」
と、変態女が何やら野獣に興味を示したようだ。
「そうだけど、今は真ん中のツノが折れてただの凶暴なヤギだぞ」
「まあ、それはかわいそうに。すぐに治してあげないとね」
変態女は野獣の頭に向けて手をかざし、何やら詠唱し回復魔法を使ったようだった。たちまち、その折れたツノが元通りになった。
そして、当然、ヤギも正気に戻り、
「……こ、ここはいったいどこだ? なぜ俺はトモキに抱えられているのだ?」
と、困惑しはじめた。
「お前、あの谷でツノが折れて、えらいことになってたんだぞ」
「えらいこと? なんだそれは?」
「何も覚えてないのかよ。お前、ほぼ害獣だったんだぞ」
俺は苦笑いしながら、ヤギを地面におろした。
「そ、そうか……。何やらお前たちに色々迷惑をかけたようだな。すまない」
「気にしないでください、レオローンさん。ケガでちょっと具合が悪かっただけなんですから」
と、ユリィがしょんぼりしているヤギにあたたかい声をかけた。相変わらずやさしいな、ユリィは。
「……ところで、トモキ。こちらの女性は?」
「ああ、お前は知らないか。この女はユリィのお師匠さんだよ」
と、俺は変態女をヤギに紹介した。
「はじめまして、カプリクルスのイケメン君。私はサキ。よろしくね」
「俺はレオローンといいます。こちらこそ、よろしくお願いします」
ヤギのやつ、変態女には妙に礼儀正しかった。さっきまで、カタコトで暴れまわってたくせにさ。
俺はそれからヤギに今までのいきさつを簡単に説明すると、改めてユリィをワンダートレントの前に差し出した。
「さあ、もう一度さっきの歌を歌ってくれ、ユリィ」
「は、はい!」
ユリィは一瞬、気合を入れるように シャキーン!とした顔になると、すぐに歌い始めた。もちろん、さっきと同じ歌だ。全然音痴に聞こえない、まともな歌だ。
「お、おお……」
ワンダートレントもその歌声に聞き入っているようだった。さっきまでとはまるで反応が違った。辛辣な批判を言ってくる気配はまったくない。
よし、この感じならうまくいきそうだな!
やがて歌は終わった。
「おい、今のこいつの歌はちゃんとベルガドに届いたんだろうな?」
「はい、もちろん。今の聖なる乙女の歌に私の心は大いに震え、それはすなわちベルガド様のお心をも震わせるのでございます」
と、微妙に意味の分からんことを言うワンダートレントだった。
「じゃあ、さっそくベルガドと話をさせてくれよ。今の歌でもう起きたんだろ?」
「ええ、もうすでに、ベルガド様のお心はこちらに上がってきているのでございます」
「上がって?」
「……う!」
と、そこで、ワンダートレントは何か苦しそうにうめきはじめた。同時に、その細長い体の一部が光って点滅し始めた。
「そちらの方、さあ早く、私のこの光る部分を切ってください!」
「え、切っていいのか?」
「はい、一思いにすぱっとお願いします!」
「はあ……?」
なんだろう、このイベント。なにかすごいデジャヴを感じる。
「じゃあ、まあ、遠慮なく」
俺はゴミ魔剣に捕食禁止と命じたのち、それで言われた通り光る竹を一刀両断した。
すると、そこから何かとてもまばゆい、光るものが飛び出してきた! うお、まぶし!
「……ほわぁ、ワシの眠りを妨げるのはどこのどいつじゃい?」
やがてこんな声が聞こえてきた。見ると、俺たちの目の前には、手のひらサイズの超小型の少女が浮いていた。まるで妖精だが、その背中には羽はなかった。亀の甲羅を背負ってるだけだった。
「まさかとは思うが、お前がベルガドか?」
「そうじゃ。ま、正確にはその思念体なんじゃがのー」
と、亀妖精(ベルガドの思念体)は、にっこり笑って俺に答えた。
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