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「では、お師匠様。いったいどういうふうに歌えば、聖なる力を込められるんでしょう?」


 素直なユリィは、サキの言葉を特に疑った様子もなく尋ねた。音痴問題はもうこいつの中では解決したことになったらしい。


「そうね……。もしかしたら、違う歌ならきっと……」


 と、なんだかためらいがちに言うサキだった。


「違う歌? いったいどういう歌を歌えばいいんでしょう?」

「あなたが知ってるはずの歌よ」

「え? それはどういう――」

「ちょっとそこで待ってて。いったんお風呂から上がって、話すわ」


 と、そこでビデオ通話は切れてしまったようだった。これってこっちからだけじゃなく、相手からでも一方的に切ることもできるんだな。マジでどういうシステムなんだ。


 まあいい。どうせすぐに、向こうからまた連絡が来るんだろう。俺たちはそのままそこで待った。


 だが、直後、俺たちの目の前に現れたのは魔法陣だった。そして、そこから変態女が出てきた。なんと折り返し連絡をよこすのではなく、ワープ魔法で直接こっちに来やがったのだ。


 ただ、その恰好は、普段の全裸に鎖だけとは違っていて、バスローブ姿だった。長い黒髪も、濡れたまま結わずに背中に流している。風呂上がりですぐ来たのは間違いなさそうだ。


「お師匠様!」


 ユリィはサキを見るやいなや、ぱっと顔を明るくし、そばに駆け寄った。


「さきほどの通信はベルガド国外からの座標だったはず……。その距離を一瞬で移動してくるとは、なんと高度な術式の使い手だろう」


 そして、キャゼリーヌはそんなサキの挙動にびっくりしているようだった。確かに、普通の魔術師じゃこんなことできないだろうな。やっぱり、露出狂の変態でもグレートトフルな大魔法使い様には違いないようだ。


「つか、国外から一瞬でここに来たってことは、入国審査とかどうなってんだよ? お前、ただの密入国者じゃねえか」

「だいじょうぶよ。私、ベルガドには過去に何度も来たことあるから。そういう手続きは、私の場合、事後申請でもなんとかなるの」

「私の場合、ね……」


 こいつもしかして、すげー権力者か? こんな密入国が事後申請で許されるとかさあ。俺はかなり苦労してこの国に来たのにさあ。(※苦労の大半は自業自得ですヨ?)


「……まあいい。それより、さっきの話の続きだよ。早くユリィに、まともに歌える歌を教えてやってくれよ」

「ええ、そうね」


 と、サキはそこで、ユリィを胸に抱きよせた。


「ユリィ、これからあなたの心に直接歌のイメージを送るわ。そのままじっとしてて」

「はい……」


 ユリィは目を閉じ、サキの豊かなおっぱいの間に顔をうずめた。おおう……、いろんな意味でうらやましい光景だ!


 二人はしばらくそのまま無言で抱き合っていたが、やがて離れた。


「どう、ユリィ? 歌えそう?」

「はい!」


 ユリィの答えはしっかりしていた。今のハグで、ちゃんと歌のイメージは伝わったようだ。変態女、今度はテレパシー魔法でも使ったのか。


「じゃあ、さっそく歌ってみますね」


 ユリィは変態女から離れ、目を閉じた。そして、歌い始めた。


 驚いたことに、今度はとてもきれいな歌声だった。俺の知らない歌だったので正しい音程はわからないが、ひどく音が外れているようには聞こえなかった。ただ、歌詞の意味はよくわからなかった。俺の知らない言語だった。響きからして古代語だろうか?


「すごいじゃないか、ユリィ! 今度は完璧に歌えてるじゃないか!」


 歌が終わった後、俺はユリィに拍手せずにはいられなかった。さっきの破滅的音痴がウソのようだ。


「あ、ありがとうございます……」


 ユリィも自分の歌声に感動しているようだ。うれしそうに笑いながら、やがて涙を流し始めた。


「はは、なんだよ。泣くほどうれしいのかよ」


 俺は笑った。


「いえ、その……うれしい気持ちも確かにあるんですけど、それだけではなくて……」

「なんだよ?」

「なんだかすごくなつかしい気持ちになって、胸が熱くなってくるんです」


 そう言いながらも、ぽろぽろと目から涙をこぼしつづけるユリィだった。


「ユリィ、この歌はあなたが子供のころに歌っていたはずのものよ」


 そんなユリィに、サキが小声でささやいた。

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