345
「うっはー、なんかいっぱい出てきた! 今日はクマ鍋だな!」
と、ヒューヴはパンダもどきを一瞬で獲物と判断したようだった。いきなりボウガンをやつらに向けて撃ちやがった。
「ちょ……待てっ! 殺すな!」
俺はあわてて、それらのボウガンの矢をゴミ魔剣で叩き落とし、パンダもどきに当たるのを防いだ。
「なんだよ、アル? クマ肉食いたくないのかよ? ちょっとクセがあるけど、ヤギ肉よりは美味いはずだぞ?」
「いや、こいつらワンダートレントの生息場所を知ってる可能性が高いから! まずは情報を引き出してから――」
「ワンダートレント? なんだそれ?」
「え」
「それ美味いのか?」
「お、お前はさっき俺たちが話してたことも忘れたのかよ!」
そもそも、それが目的で俺たちはここまで来たんだろうがよ!
「いいからお前はここでじっとしてろ。肉ならあとで俺が食わせてやるから!」
「お、そっかー。アルがオレのかわりにあいつら仕留めてくれるんだな。サンキュー」
「ああ。だからお前は動くなよ? 絶対に動くなよ?」
俺はバカの肩を揺さぶり必死に念を押した。バカは「わかったぜー」とユルさマックスの返事だったが。信じていいのか、こいつ。
と、そのとき、
「グオオオッ! オマエタチ、オレノテキ! コロス!」
と、俺がリードを持っている野獣が突然暴れだし、リードを引きちぎってパンダもどきに突撃して行った!
「おいバカ、やめろ! あっちに行くな!」
「え、オレは動いてないけど?」
「そっちのバカじゃない!」
バカという言葉に反応した鳥人間のほうのバカにツッコミながら、俺はあわてて野獣を止めに行った。
「どうどう! 落ち着け、レオ!」
と、なだめながら野獣の体を持ち上げた。もう少しでパンダもどきと接触するところだった。
「ハナセ! ヤツラハ、オレノテキ、コロス! ミンナ、コロス!」
野獣は足をじたばたさせながら、なおもパンダもどきに殺意をむき出しにしている。普段の冷静沈着なお前はどこに行ったんだよ。
だが、そこで、パンダもどきたちが俺の腕の中の野獣を見てぎょっとしたようだった。
「グオォ……カプリクルス……」
どうやらやつら、この野獣のことを知っているようだ。言葉も話せるようだ。
と、一瞬思ったわけだったが、
「カプリクルス、レジィゾ、エベババ、ヴィルッソ」
「オオルンガ、ゲゲマルシ、ロシ、カプリクルス!」
「ナソ! ナソ! カプリクルス!」
何話しているかさっぱりわからん! 魔獣語かよ。「カプリクルス」だけ固有名詞だから人間の言葉と共通の発音なのか。
「おい、レオ。こいつらなんて言ってるんだよ?」
「オレヲ、コロストイッテイル! ノゾムトコロダ! オレモ、ヤツラヲ、コロス!」
「一応あっちの言葉はわかるのか」
まあ、この感じじゃ通訳には使えそうにないかなって。
「他にこいつらの言葉がわかる人ー。手を上げてー」
「あ、オレわかるぜ? こいつら、太もものあたりの肉が美味いって言ってるぞ」
と、またバカが適当なこと言っている。予想はしてたが、こいつほんと役に立たねえな。
「トモキどの、私は魔獣語翻訳アプリならすでにインストール済みだ。さらに、リアルタイム通訳し、疑似AR機能で字幕を空中に投影することも可能だ」
「おお!」
さすがキャゼリーヌ。どっかのバカと違ってめっちゃ使えるな。
「じゃあ、頼むわ」
「ああ」
キャゼリーヌは左目の眼帯を外し、パンダたちのほうにうっすら光を放った。よくわからんが、これで字幕が出るようになるのかな。
「じゃあ、ついでにこっちの話も通訳してくれ。『俺たちはワンダートレントを探してる』ってな」
「了解した。ルルゥ、ギギア、レ、ワンダートレント……」
と、キャゼリーヌはパンダたちに魔獣語で話しかけた。
すると、パンダもどきは何やら返事をしたようで、
『ハッ、笑止千万! 人間風情に我らの獲物のことを話す道理などないわ!』
『貴様らはここで我らに食われ、果てるがよい!』
『我らが怨敵、そこなカプリクルスとともにな!』
と、それらの胸元に次々と字幕が浮かび上がってきた。なんか妙に堅苦しい翻訳だな。これじゃ、うちの野獣だけバカみたいじゃないの。いや、実際バカなんですけど。
「そこをなんとか頼むよ。用が済んだら、お前たちにもワンダートレントを食わせてやるからさ」
『何をたわけたことを! 人間ごときの話に耳を傾ける我らではないわ! 恥を知れ!』
『甘言で我らをそそのかし、スキを見て捕獲し見世物にする気であろう!』
うーん、やっぱりこいつらパンダかなって。
「いや、マジでかくかくしかじかな事情でして、ワンダートレントとやらの可食部分?には俺たちまったく興味ないんですよ? そこは信じてくれないかなって」
『信じられるものか! カプリクルスを連れた人間の言うことなど!』
パンダもどきたちは取り付く島もない。なんか、人間以上にカプリクルス族を憎んでいるような雰囲気だ。
「なあ、レオ。お前たちの種族は、あいつらとなんかあったのか?」
「アイツラ? ケルジャンのコトカ?」
「ああ、こいつら、ケルジャンって種族名なんだな」
パンダじゃないか、さすがに。
「ケルジャント、オレタチ、カツテハゲシク、アラソイアッタ……」
と、野獣は何やら遠い目をして語り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます