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まあ、ヤギが落ち着いたようなので、俺はそのまま、そう、ヤギを頭に乗せたまま谷を飛び越え、みんなと一緒に森の奥に進むことになった。ヒューヴもすぐに戻ってきた。バカのくせになぜ毎回きちんと戻ってくるのか。帰巣本能か。
「なあ、アルが頭に乗せてるソレ、食う以外になんか使い道あるのか?」
「あるに決まってるだろ。つか、いい加減こいつを食うことを忘れろ」
と、バカに答えたものの、本当に頭上の野獣がこれから役に立つかはよくわからない俺だった。だって、ヤギのやつ、今は近くのバカ以上にバカになってるみたいなんだもの。カタコトなんだもの。
やがて、そんな感じで俺たちはワンダートレント生息地と思われるゾーンに突入した。
「……捜索の前に、まずはワンダートレントの基本情報を確認しておこう」
キャゼリーヌはそう言うと、左目のプロジェクターでワンダートレントのイラストを空中に投影して説明し始めた。といっても、イラストはやはり「ほぼ竹」だったわけだが。
そして、そのイラストを見るやいなや、
「グオオオッ! ワンダートレントッ! クウッ! オレ、クウッ!」
俺の頭上の野獣はうなり声をあげ、そのイラストに突進していくのだった。まあ、実体のない映像だから、当然野獣はすり抜けるだけだったんだが。
「落ち着け、レオ。それは絵だ。二次元だ。そんなもんに興奮するな」
と、俺は野獣をなだめたが、なんだか自分でも妙に胸が痛い言葉だった。俺ってば、この世界に来るまではただの絵の女に興奮してたからな……。
「エ……? コレハ、マボロシダトイウコトカ?」
「そうだよ。本物はこの森のどこかにあるんだ。それをこれから俺たちで探すんだよ」
「ソウカ! ホンモノ、サガシテ、クウノカ!」
「いや、食べないから!」
なぜ近くのバカといい、食欲でしかものを考えられないんだ。
「……オレノ、トモダチ。ワンダートレントクワナイノカ? キライカ?」
と、今度は俺を切なそうに見ながら、急にしゅんとした野獣だった。
「いや、好きとか嫌いとかじゃなくてだな、俺たちはこれからそのワンダートレントと話をしに行くんだよ。それなのに、そいつを食べちゃったらダメだろ? 話ができないだろう?」
「ハナシ……グヌゥ……」
と、わかったようなわからないような、あいまいな感じで首をかしげる野獣だった。大丈夫か、こいつ。
「まあ、俺の話が終わったら食ってもいいからさ」
「ソウカ! オマエ、ワンダートレントトハナシスル! ソノアト、オレ、ワンダートレントクウ! サスガ、オレノトモダチ! コノホウホウナラ、フタリトモ、シアワセ!」
と、ようやく納得したような野獣だった。
「トモキ様、いくらなんでも、この方法はワンダートレントさんたちに対してひどいのでは?」
と、ユリィが耳打ちしてきたが、
「まあ、俺もそこまでするつもりはねえよ。今のレオにはああでも言っておかないとな」
と、答えておいた。実際俺としては、その竹もどきのモンスターが野獣に食われようとどうでもいいが、そのやり方だとユリィには嫌われそうだからなあ。
その後も、俺たちはキャゼリーヌからワンダートレントについての説明を受けたが、竹もどきとはいえモンスターなだけに、夜には動き回るのだという。これが
「ということは、昼間のうちに群生地?を探し出しておいて、夜になって話をするのがいいな」
と、俺が言うと、ユリィとキャゼリーヌはともにうなずいた。残りは話をまともに聞いていなかったらしく無反応だったが。
やがて、そんな感じで「ワンダートレント捜索大作戦最終ミーティング」は終わり、俺たちは再び歩き出した。先頭はヤギだった。今はこいつの嗅覚と野生の勘が頼りだ。ヒューヴの三百年前の記憶とかあてにならなさすぎだし。
ただ、ワンダートレントを発見したとたんに暴走されても困るので、野獣の首にロープをつけてその先端を俺が持つことになった。まるでリードだ。ヤギの散歩かよ。
しかし、そうやってしばらく歩き回っても、竹モドキの集団は発見できなかった。森って言っても広いしなあ。
「おい、ネム。お前も捜索に協力しろや」
そういやゴミ魔剣にも魔物レーダー機能があったことを思い出し、言ってみたが、
『ワンダートレントっつうのは魔法耐性高めなモンスターなんで、遠距離からのサーチは厳しいですネー』
ということだった。ザックが遺跡で迷子になった時と同じか。こいつ、本当に肝心な時に役に立たねえな……。
と、思いきや、
『あ、デモォー、ワンダートレントに詳しそうなモンスターなら、すぐ見つけられるっすヨ?』
などと言うではないか。
「ワンダートレントに詳しいモンスターって、俺が今リード持って散歩させてる野獣のことだろ?」
『ノンノン。実はこの森には、ワンダートレントを特に好んで食べるモンスターがいまして』
「つまり、そいつを探して尋問すれば、ワンダートレントのいる場所もわかるってことか?」
『デスネー。ツノの折れたカプリクルス族一匹に頼るよりはよっぽど効率的ですぜ?』
「……だろうな」
ツノが折れてなきゃ頼りになるやつなんだけどなあ。
「じゃあ、そいつの場所を探せよ」
『あ、探す必要ないっす。もうすぐ近くに来てますからネ?』
「え――」
と、その直後、森の木々の間から、数頭のモンスターの群れが現れた!
それはクマの姿をしたモンスターだった。色は白黒のツートンカラーだった。というか、
「パンダじゃん!」
そう、そのまんまなモンスターたちだった。
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