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や、やっぱり俺、何かしたほうがいいのかな……。
ユリィのおっぱいはとてもやわらかく、寝間着ごしにそこに手をおいているだけで、体が熱くなり、頭がとろけそうだった。なんかだんだんユリィの瞳もうるんできて、うっとりした顔になってきているし?
いやでも、今の俺はまだ幸せになってはいけない身……。ここは耐えなければ!
そう、今までいろいろやってきて、だいぶ呪いの解除に近づいてきているところじゃないか、俺。おそらく、もうちょっとでゴールなんだから、今は我慢するしかない……ああ、でもユリィかわいいな、ちくしょう! いいにおいするし! おっぱいもやわらけえし!
と、俺がユリィの体の上で悶々としていると、ユリィはふと目を閉じた。
ハッ……これは「キス待ち顔」?
と、一瞬また胸が高鳴ったが、ユリィのことだからどうせ寝落ちしたんだろうと、すぐに考えを改めた。前はそうだったしな。
だが、よく見ると、ユリィの両手は胸のすぐ下で固く組まれていて、寝落ちしているふうではなかった。閉じられた瞳のまつげも、わずかに震えているように見える。
こ、これは……本物の「キス待ち顔」! 間違いない!
なんかもう、心臓がバクバクしてきて、わけわからん感じになってきた。ど、どうしよう? 目の前で女の子がこんな顔してるんだから、男としてはキスするべきだよな? 女の子に恥をかかせないための礼儀ってやつだよな。そう、あくまで礼儀。それ以上の何ものでもない……。行くぞ、ユリィ。俺の唇をやさしく受け止めておくれ……。
って、俺は何をやろうとしてるんだッ! 礼儀だろうが何だろうが、この状況でユリィにチューしたら俺幸せ過ぎて、呪いが発動しちゃうじゃないの! 前世みたいにまたひどいことになってもいいのかよ、俺!
いや、でも……口と口を合わせたぐらいでは、まだ呪い発動しないかも? こんなん、人によってはあいさつの一種だしな? そうだよ、いやらしい行為でもなんでもないんだ。まあ、俺はまだ誰ともキスしたことないし、キスは挨拶でもなんでもなくて、普通にいやらしい行為なんだが……ああ、もう、マジでどうすりゃいいんだ、俺!
と、そのとき、
「あ、そうだ。トモキ様、わたし試してみたいことがあったんです」
ユリィが何か思い出したようで目を開けた。
「た、試したいこと?」
チューかな? チューだよな? お前ってば、俺とチューしたいんだよな? しようよ、チュー!
「ここじゃ、危ないかもしれないので、ベランダでやってもいいですか?」
「そ、そうだな。初めてはベランダでするほうが雰囲気あっていいよな」
チュー。
「ありがとうございます。では、失礼します」
ユリィはそう答えると、すぐに俺の下から抜け出し、ベランダのほうに行ってしまった。俺もあわててその後を追った。
ベランダに出てみると、すでに日はとっぷり暮れていることもあり、夜風は冷たかった。あたりも真っ暗だが、庭には魔法の照明がところどころ灯されていて、花々をきれいにライトアップしていた。うむ、俺たちの初キスにはもってこいの、ムーディーな光景だ!
だが、ユリィのやつ、なぜか俺と向かいあおうとせず、ベランダの隅っこに右手を突き出して、何か集中しはじめている様子だ……?
「お前、何してるんだ?」
「発火の魔法です」
「え?」
「ほら、わたし、また少しお母さんのことを思い出したじゃないですか。だから、また少しだけ、魔法がうまく使えるようになっている気がするんです」
「ああ、そういえば……」
お前、そういう体質だったよなあ。なんだか、体からどっと力が抜けてしまった。結局、お前は俺とキスしたいわけじゃなかったのかよ。俺の心の準備は万端だったのにさ!
ま、まあいい。これはこれで、ユリィにはすごく大切なことなんだし。
「で、どうなんだ? 前よりは短い時間で火が出せそうか?」
「え、えーっと……」
ユリィは微妙な反応だ。
「まあ、さすがに思い出してすぐに変化が現れるもんでもないか」
俺は笑った。
だが、その直後、ユリィの右手から淡い光が出た!
「わあっ!」
ユリィはびっくりして、後ろに尻もちをつきそうになった。俺はあわてて、その体を後ろから支えた。
ユリィの右手から出た謎の光は、丸い光の玉になって、人魂のように空中にとどまっていた。
「なんだこれ? 炎か?」
だが、その光の玉に手をかざしてみても、特に熱くはないようだ。
「なあ、ユリィ。何の魔法だよ、これ?」
「さ、さあ……?」
「わかんねえのかよ」
俺は再び笑った。なぜ魔法を使った当の本人にもわからないんだ。
「じゃあ、発火の魔法は失敗して変なの出ちゃっただけか」
「失敗……」
「あ、いや! これはこれで使えそうな魔法じゃないか! 照明になるし!」
落ち込みはじめるユリィを、俺はあわててフォローした。失敗という言葉は禁句だったか。
「それに、光る以外にも、何か効果があるのかもしれないし?」
俺は再び手を伸ばし、今度はその光る玉に触れてみた。すかっ。それはやはり実体ではないようで、なんの感触もなかった。ついでに、熱くも冷たくもなかった。
ただ、なんだか妙に気持ちが安らぐ気がした。そう、俺の中にたまったモヤモヤやストレスを、玉の光がきれいに洗い流してくれるような……?
やがて、光はすっと消えた。
「ユリィ、たぶん、これすごい魔法だぜ」
「え、本当ですか!」
とたんに、ユリィは激しく食いついてきた。はは、相変わらず単純なやつめ。
「なんかさ、触ってると、癒される感じがしたんだよな。これってきっと、人をリラックスさせる魔法なんじゃないか?」
「本当に? わたしの魔法でそんな効果が……」
たちまち、感動で目をキラキラさせるユリィだった。まあ、ようやく発火以外の新しい魔法が使えるようになったんだから、当然か。
「よかったな、ユリィ! お前、今日だけですごいレベルアップしたぞ!」
「はい!」
俺たちは手を握り合い、喜び合った。よほどうれしいのだろう、ユリィはすっかり涙目だった。そして、そんなユリィを見ていると、俺もなんだか感動で涙が出てきそうだった。ほんとによかったなあ、ユリィ。
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