337

 こ、こんな時間に、ユリィのやつ、いったい何の用だろう?


 その声を聞いたとたん、胸がどきどきしてくる俺だった。部屋には当然俺一人しかいないし、ちょうど多目的に使えそうな大きなベッドもあるし。


「お、おう! いったい何の用なんだぜ?」


 なんか動揺のあまり、どっかのイキリチビみたいな口調になっちまったZE!


「トモキ様にお話ししたいことがあって……。少しお時間いただけますか」

「話したいこと?」

「昼間、言いそびれちゃったことです」

「ああ、あれか」


 幼女の乱入でうやむやになったけど、確かにこいつ、俺になんか言おうとしてたよね、愛の告白……かどうかはわからんけど。


「そ、そうか。とりあえず、そこじゃ話もしづらいし、部屋の中に入って来いよ」


 俺はいったんベッドから抜け出て、改めでそのへりに腰掛けて言った。


「はい。ありがとうございます」


 やがてすぐにユリィは部屋の中に入ってきた。いつものローブ姿ではなく、シャンテリーデに用意されたらしいシュミーズのような寝間着の上にガウンを一枚ひっかけただけの格好だった。髪も今はポニテではなくストレートにおろしている。


 うう、おやすみバージョンのユリィもかわいいなあ。ますます胸が高鳴ってきた。


「と、とりあえず、座れよ?」


 俺はベッドを手でぽんぽんと叩きながら言った。


「……失礼します」


 ユリィはすぐにそこに、そう俺の隣に腰かけた。お風呂の後、何か香水でも使ったんだろうか、今日のユリィはすごくいいにおいがした。


「な、なんだよ、話って! 俺、眠いんだからな! 話なら手短に頼むぜ!」


 なんかもう、恥ずかしさのあまり、ひたすらぶっきらぼうな口調になってしまう。


「その前に、少し手をかしていただけますか?」

「こ、こうか?」


 俺は言われた通り右手を差し出した。ユリィはすぐにそれを手に取り――いきなり自分の胸に押し当てた。


 むにゅっ!


「……!?」


 と、俺は思わず特攻ぶっこみの拓ばりに「!?」となってしまった。こ、この状況でなぜ俺に胸を触らせてくれるんだ、ユリィ! 俺を誘っているのか、ユリィ!


 しかし、ユリィの顔を見ると、何やら目を閉じ精神集中しているような感じだ……?


「あ、あの、ユリィさん?」

「あ、ごめんなさい。いきなりこんな失礼なことをしてしまって」

「いや、別にこれぐらい失礼ってことは……」


 むしろ大歓迎なんですけど!


「ああ、でも、この姿勢だとよくわからない気がします」

「え? 姿勢?」

「……ちょっと、ベッドをお借りしますね」


 と、言うやいなや、ユリィは今度は俺のベッドの上にあおむけに寝転がった。


 そして、


「トモキ様、このまま私の上に来てくれませんか?」

「え、上?」


 上上下下左右左右BAの上? その上なの?


「はい、私の上に覆いかぶさるような感じで……お願いします」

「わ、わかった!」


 やっぱこの子、俺を誘ってるよね! そうとしか考えられないよね、うひょう! 鼻息を荒げつつ、すぐにその通りにした。


 すると、ユリィは再び俺の右手を取り、自分の胸に押し当てた。むにゅっ。再びそのやわらかーい感触が伝わってくる。


 ただ、やはりユリィは何かに神経を集中させているように目を固くつむっているのだった。こ、これはどういう状況なんだ? この顔だと俺を誘っている感じではない? さっぱり意味が分からんぞ!


 と、俺が幸せと戸惑いを同時に感じていると、


「ああ、やっぱり! トモキ様にこうされると、お母さんのことをよく思い出せそうな気がします!」


 ユリィはやがて眼を開け、朗らかに俺に言った。


「お母さんことを思い出せる?」

「はい! 実はわたし、またちょっとお母さんのことを思い出したんです!」

「マジか!」


 よかったなあ、こいつずっと記憶がないの気にしていたもんなあ。俺も自分のことのようにうれしくなり、笑った。


「で、どんなこと思い出したんだよ?」

「はい。子供のころのわたしは、お家の庭で遊んでいました。お母さんは、そんなわたしの近くで、洗濯物を干していました。よく晴れた、いい天気の日のようでした」


 ユリィはとてもうれしそうに言う。


「あと、そのときのわたしは一人じゃなかったんです。わたしと同じ歳くらいの小さい女の子と遊んでいました」

「ふうん? きょうだいか?」

「いえ、そんな感じじゃありませんでした。たぶん、近くに住んでいるお友達だったと思います。顔はまだよく思い出せないんですけど……」

「そうか。幼馴染ってやつか」


 やっぱユリィにも、そういうちゃんとした子供時代あったんだな。よかったあ。ずっと記憶が空白のままじゃなくて。


「思い出せたのは、今のところまだそれだけです。でも、わたし思うんです。わたしがそのことを思い出せたのは、トモキ様がこうしてくれたおかげじゃないかって」


 ユリィはそこで再び俺の手を自分の胸に押し当てた。強く。


「こうしてって……あ、そうか」


 そういえば、前にもこんなことしたっけ。遺跡を出た後、ユリィと話し込んで、なんか話の流れでおっぱいの検証作業?が始まって……。


「もしかして、あの直後に、母ちゃんのことを思い出したのか?」

「はい。きっとわたし、トモキ様の手からお力をいただいたんだと思います。だって、トモキ様はすごくお強い、世界一頼りになる勇者様ですから!」

「い、いや、さすがに俺にそんな力は……」


 ユリィのやつ、相変わらず直球すぎて、照れくさくなってくる。


「じゃあ、今こうしているのも、あのときの状況の再現のつもりか?」

「はい」

「そ、そうだよな……」


 誘われてるわけじゃなかったか、俺。はあ。


 と、俺が内心がっくりしたそのとき、


「あ、でも……。それだけじゃないかもです……」


 ユリィは何やら顔を赤くしながら言った。


「それだけじゃないって、なんだよ?」

「い、いや、その、変な話なんですけど、わたし、トモキ様にこうしてさわっていただけるのは……そ、その、うれしいです……」

「え!」


 いきなり何言ってるの、この子? なんか俺も顔が熱くなってくるんだけど!


「もう少しだけ、こうしててもらえますか?」

「あ、ああ」


 再び胸が高鳴ってきた。なんせ俺たち、密室に二人きりで、しかもベッドの上なんだからな!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る