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「トモキ様、みなさんとのお話はいいんですか?」
ユリィは俺が
「いいんだよ。どうせたいした話はしないんだから」
俺は笑って、ユリィの腕をつかんで庭の片隅の人気のないところに行った。
だが、そこでふと思いついて、俺はユリィを懐に抱えて大きく上に跳んだ。
「きゃっ!」
と、ユリィは一瞬悲鳴を上げたが、俺はそのまま館の屋根の上に降りて、ユリィを懐から降ろした。
「……び、びっくりさせないでくださいよ、もう!」
「すまん、すまん」
驚かすつもりはなかったんだなあ、はは。
「ところで、トモキ様はなんで急にこんなところに?」
「ここからならきっといい眺めだろうって思ってさ。見ろよ」
俺は眼下に見える庭を指さした。ここの庭には色とりどりの花が咲いており、屋根の上から見ると、まるでカラフルなじゅうたんが広がっているようにきれいだった。また、まだ日没までには時間があり、空は青く澄んでいて、太陽もさんさんと輝いていた。
「わあ、本当ですね。色んなお花がいっぺんに見れて、すごくきれいです」
ユリィもその光景にたちまち笑顔になった。喜んでもらえてよかったあ、えへへ。
「でも、本当にいいんですか? ヒューヴさんのお相手をしなくても? トモキ様の昔のお友達でしょう?」
「いいんだよ。あいつは俺の相手をしているより、女の相手をしているほうが楽しいに決まってるからな」
俺は笑った。だいぶ離れたとはいえ、遠くからはまだヒューヴとそれを囲む女たちの声が聞こえてくる。
「それに、あんなやつと手合わせしたって、何の練習にもなりゃしねえ。時間の無駄だよ」
「そうでしょうか? お二人ともすごく楽しそうにやりあっているように見えましたけど?」
「え、楽しそうにしてた、俺? あのバカとやりあってるときに?」
「はい。お二人とも、なんだか小さい男の子がチャンバラごっこをしているときみたいに、すごくはしゃいでいるように見えました。あ、もちろん、お二人の動きはすごく早くて、チャンバラごっこって感じじゃ全然なかったですけど」
「……そうかあ?」
まあ、言われてみると確かに、さっきはちょっと楽しかったような気がしないでもない。あんなバカでも、一応昔の仲間だしな。一応な。
「わたし、あんな顔のトモキ様が見られて、なんだかとてもうれしくなってしまいました」
「そ、そうか?」
いきなりそんなことをとびきりの笑顔とともに言われると、照れくさくなってくるじゃあないか……。俺、マジでどんな顔してたんだろう?
「そ、そんなことより、今は花でも見ようぜ、ユリィ!」
なんかもう、ドキドキのあまりぎこちなく話題を切り替えちゃう俺だし。
「ええ、本当にきれいなお花ばっかりです。きっとこの館のみなさんが、大切に育てているんですね」
ユリィはゆっくりと庭を見まわしながら言った。そのきれいな横顔を見ていると、俺はますますドキドキしてきた。花よりもお前のほうがずっときれいだよ、と、声に出して言いたくなってくる。
まあ、今の俺にはそんなこと言えないんだがな。呪いがなあ。はあ……。
ただ、さっきみたいな状況でユリィが不安にならないようにするためには、やっぱり俺のほうからちゃんとユリィに告白しないとダメなんだ。ユリィは自分に自信がない子だから。だから、俺の口からはっきりと「俺にとってはお前が一番!」って言ってやることが、ユリィの自信につながるはずで、ひいてはそれがユリィの人生の幸せにもつながる、はず……それはわかってるんだがなあ。俺、あいにく今は呪われてて、誰かに告白なんてできる立場じゃないんだよなあ。はあ……。
やはり今は、ワンダートレントという竹もどきのモンスターに望みを託すしかないのか。早く呪いを解いて、ユリィを底知れぬ劣等感から解放してやりたい。
と、そんなようなことを考えていると、
「あ、トモキ様、見てください。あそこ」
ユリィが庭の一角を指さしながら俺に言った。
その指さすほうを見ると、何やら白い花が咲き乱れている場所のようだった。花を咲かせているのはツル植物らしく、ひたすらに地面を這い樹木にからみついている。また、白い花の咲いている場所の中央には小さい小屋があるようだったが、その外観もすっかり白い花で覆いつくされていた。
「さっき、ここで働いている女性の一人に聞いたんですけれど、あの花は特にシャンテリーデさんが大切にされているものだそうで、他の方は立ち入ってはいけない場所らしいですよ」
「へえ、近くで見るときれいなのかな?」
遠目には白い点々がいっぱい広がっているようにしか見えんのだが。
「なんでも、ランの一種らしいです」
「ランか。もしかしてめちゃくちゃ高級な花なのかな?」
金持ちのセレブ芸能人が育ててる花だしなあ。話の通り、あそこには近づかないほうがよさそうだ。うっかり花を枯らしてしまったりしたら、すごい損害額になりそうだしな。
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