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「……まあ、そっちの事情はわかった。そろそろベルガドの祝福について俺たちに話してもらおうか?」
俺は改めてシャンテリーデに尋ねた。そうそう、もとはといえばその話を聞くためだけにここに来たんだっけ。余計なことにイラついている場合ではないのだ。
「はい。もちろんお話ししますわ。ただ、わたくしの知っていることは本当に、ほんのわずかなので、勇者様のご期待にお答えできるのかわからないのですけれど」
「それでも構わねえよ。知ってること、洗いざらい全部白状してもらおうか」
俺はソファの前のローテーブルをどんと叩いて言うと、
「まあ、なんだかわたくし、罪人になってとがめられているみたいですわね」
シャンテリーデはおかしそうに笑った。うう、焦るあまり、思わず言動が荒っぽくなっちまったぜ。
「勇者様、わたくしが知っていることで、おそらく世間一般にあまり知られていないであろうことは二つありますわ。一つは、ベルガドの祝福そのものに関する誓約のことです」
「誓約? 祝福を受けるときに、何か誓いを立てさせられるってことか?」
「はい。実はベルガドからその祝福を受ける者たちはみな、ベルガドと固く誓い合うそうですわ。ベルガドの祝福の詳細について、決して誰にも教えない、と」
「口封じかよ」
「まあ、またなんだか穏やかではない言い方ですわね」
「い、いや、口止めとも言うか。はは……」
なんでさっきからヤクザみたいな物言いしかできないのかな、俺氏……。
「じゃあ、ベルガドの祝福の詳細がよくわかってないのは、みんなその誓いを守っているからなのか」
「そうでしょうね。一説によると、その誓いを破って口外すると祝福の効果がなくなるのではないかと言われてますわ」
「そうだなあ。人にうっかり喋って、祝福の効果がなくなるのだとしたら、絶対に誰にも言わないよなあ」
と、俺がうなずいたところで、
「つまり、オレがベルガドの祝福についてしゃべらないのは、そういうことなんだなあ」
近くのバカが知った風なことを言いやがった。いや、お前は単に何もかも忘れてるだけだろう。誓いのことすらも。
「で、もう一つのあんたが知ってることってのはなんだよ?」
「ベルガドがなぜ三百年前に休眠状態になったか、ということですわ」
「へえ、何か理由があるのか」
「ええ。ベルガドが休眠状態になった理由はとてもシンプルです。彼女、そうベルガドという名前のレジェンド・モンスターは、そろそろ寿命を迎えるのですわ」
「寿命? つまりそろそろ死ぬから、ここの亀は弱って休眠状態に入ったわけか?」
「そうですね。まあ、そろそろと言っても、彼女が寿命をまっとうするのはあと二百年はかかると言われていますが」
「また気の長い話だな」
そもそも、あと寿命が二百年ってところで「そろそろ死ぬ」って、どんだけ長い時間を生きてるんだよ、この亀は。
「じゃあ、もうベルガドの祝福とやらのサービス提供は終了か……」
俺は重いため息をついた。色々回り道をしてここまで来たのに、まさかのサ終とは。
だが、そこで、
「いいえ、そうとも限りませんわ。なんらかの方法でベルガドの力を取り戻すことができれば、きっと再び人々に祝福を与えることも可能だと思いますわ」
と、シャンテリーデは強い口調で言い切るのだった。なんだか、俺以上にベルガドの祝福に執着しているような雰囲気だ。
「でも、そのなんらかの方法ってなんだよ? ここの亀は寿命で弱ってるんだろ? 若返りのツボでも押してやれってか?」
「まあ、それは素晴らしいアイデアですわね。このベルガドのどこかに、そのようなものがあるかもしれませんし」
「あ、あるかなあ?」
人体ならわかるが、亀だろ? さすがに亀にツボ治療は……。
と、そこで、
「バカだなー、そういうのは本人に直接聞けばいいんだよ」
シャンテリーデの隣でバカがまた知った風な口調で言った。
「ヒューヴ、お前人の話聞いてたのか? その本人が眠ってて聞けないから、俺たちは悩んでるんだろうが」
「え、寝てるなら起こせばよくね?」
「え」
「たぶん、オレも昔はそうやってベルガドの祝福を受けた気がするんだなあ」
「それはねーから!」
こいつまた適当なこと言いやがって。お前に祝福を与えた後、ベルガドは休眠状態になったって話だっただろうがよ。
「だいたい、眠ってるところたたき起こされたら、普通は嫌な気持ちになるだけだろ。そんなんで祝福なんか与えてもらえるわけねえよ」
「いえ、そうとも限りませんわ、勇者様」
と、シャンテリーデは俺に言った。
「実は、ベルガドの眠りはとても浅いようで、年に数回は何らかの原因で目覚めているようなのです。その後、すぐにまた眠ってしまうようですが」
「マジか。起こしちゃっても許されるのか」
寿命間近っていうし、縁側で日向ぼっこしながらうとうとしている老人みたいなもんなのか。
「ただ、仮に彼女が眠りから目覚めたとして、地上に生きるわたくしたちは彼女とコンタクトを取る方法がありませんわ」
「亀なら頭の部分に行って、話しかければいいんじゃねえか?」
「……それが、ベルガドの頭の部分は、はるか昔から甲羅の中に引っ込んでいて、誰もそれを見たことがないそうなのです」
「引きこもりかよ」
腐ってもディヴァインクラスのモンスターのくせになあ。
「じゃあ、今までベルガドの祝福を受けたやつらは、どうやってベルガド自身と話をしたんだ?」
「バカだなー。そういうのも直接本人に聞けばわかることだろ?」
と、また近くのバカが言った。まるで他人事のように。
「そうだな、確かに本人に直接聞くのが早いな?」
俺はソファから立ち上がり、ヒューヴの隣に行くと、その頭をわしづかみにした。
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