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「というわけでヒューヴ、いや伝説のジーグ君。もう一度ちゃんと当時のことを思い出してみようか?」


 俺はヒューヴにこれでもかと顔を近づけ、にらみつけながら言った。


「えー、三百年も前のことなんか、思い出せるわけないだろー?」

「昨日のことすらろくに覚えてないくせに、よく言うぜ」


 いったいこいつの無駄に長い寿命はなんのためにあるんだろうな?


「いいから、当時のことを思いだぜ! なんでもいいから!」


 俺はヒューヴの頭を強く揺さぶった。


「ジーグ様、わたくしのほうからもお願いしますわ」


 シャンテリーデも、何やら切羽詰まった表情でヒューヴに迫る。


 すると、


「んー、そうだなあ? シャンテちゃんと一晩一緒のベッドで寝たら、何か思い出せる気がするんだよなあ?」


 と、バカがまたふざけたこと言ってるんだが?


「そんなことで記憶が戻るわけねえだろ! お前、女との結婚の約束すら忘れてたじゃねえか!」

「そんなの、ヤってみなくちゃわからないだろ。ほら、ヤればデキる!って言うじゃん?」

「お前はヤることしか考えてねえだけだろ!」


 俺はイライラのあまり、ヒューヴの頭をローテーブルに叩きつけた。なんでよりによってこんな超絶バカの記憶に、俺の運命がゆだねられてるんだ。


 と、そこで、


「ああ、そうですわ。確か、こういう物忘れには電撃系の治療魔法がいいと聞いたことがありますわ」


 シャンテリーデが何やら思い出したようだ。


「ジーグ様が昔の記憶をお忘れになっているのも、物忘れの一種だと言えますし、きっと記憶専門のお医者様ならなんとかしてもらえるはずですわ。わたくし、すぐに手配しますわ」

「へえ、記憶専門の医者がいるのか」


 マインドアサシンかよ。いや、それは忘れさせるほうか……。


「でも、警察でも記憶への干渉は難しいって聞いたんだが、そこいらの医者にこのバカの大昔の記憶のサルベージができるのかよ?」

「きっと大丈夫ですわ。このベルガドにいらっしゃるのは、あの名門のラスーン家で修業をされたというお医者様ですから」

「ラスーン家? あれ、なんかどっかで聞いたことのあるような名前だな?」

「お、俺の家の名前だぜ……勇者様……」


 と、近くでザックがぼそっと言った。見ると、とても気まずそうな顔をしている。


「ああ、そっか。お前、そのラスーン家の出身だったなあ!」


 あれから色々ありすぎて、こいつの名字なんてすっかり忘れてたわよ。


「確か、お前のジジイなら電撃魔法で人間の記憶操作もラクラクできるって話だったよな?」

「ああ……そうだぜ?」

「じゃあ、お前、ジジイをここに呼べよ」

「な、なんでそうなるんだぜ!」

「このバカの昔の記憶を掘り起こすために決まってんだろ」


 俺はそのバカの頭をローテーブルに押し付けながら言った。


「い、医者ならこのベルガドにもいるんだぜ? そいつを頼ればいいと思うんだぜ?」

「いや、話を聞く限り、そいつはただお前の家で修業しただけのやつじゃん。本店からのれん分けした支店みたいなもんじゃん。やっぱこういうとき、頼れるのは本家本元の本物の能力だと俺は思うんだが?」

「お、俺はあの家とはもう縁を切ったんだぜ……」

「切ったんならまた結べばいいだろ。簡単な話だ」

「まあ、なんだか素敵な言い回しですね。さすが勇者様ですわ」


 シャンテリーデはにっこり笑う。しかし、ザック本人は相変わらず浮かない顔だ。まあ、家出少年としては当然の反応か。自分から勝手に家を飛び出しておいて、また勝手に家に連絡するとか、気まずすぎるよな。


 ただ、だからといって俺はここであきらめるわけにはいかないのだ!


「というわけでキャゼリーヌ。今すぐザックの実家に通信してくれ」

「ちょ……何が『というわけで』なんだぜ、勇者様!」

「うっせーな。気まずいならお前はそのへんで置物になってろ。話は俺がするから」


 突然駄々っ子のようにしがみついてきたザックを振り払うと、俺は改めてキャゼリーヌに通信を依頼した。

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