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「あなたが勇者アルドレイ様ですね。はじめまして、わたくし、シャンテリーデと申します。以後お見知りおきを」


 突然現れた有翼人の女はまっすぐ俺のところまで来て、言った。有翼人といってもヒューヴとは違って翼が二対、四枚生えており、肩の下あたりから一対二枚、腰のあたりからさらに小さい翼が一対二枚あった。


 また、その長い髪はピンク色で、翼は部分的に青かったりオレンジ色だったりで、全体の色彩はまるで南国鳥のようにカラフルだった。年齢は二十代半ばくらいだろうか。透き通るようなマリンブルーの瞳をした、派手な顔立ちの美人だ。肌は白く、やや長身で、体つきはすらっとしていながらも胸はそれなりにあり、背中が大きくあいたデザインの白いワンピースを着ている。


「シャ、シャンテリーデ様? なぜこのようなところに?」


 刑事はその女を見てぎょっとしたようだった。


「いったい何だよ、この女? あんたの知り合いか?」


 と、刑事に尋ねてみると、


「え、勇者様はご存じないのですか? 彼女はあのシャンテリーデ様ですよ?」


 さらに刑事は驚いたようだった。いや、あのシャンテリーデ様とか言われても、説明になってないんだが。どのシャンテリーデ様だよ。


「勇者様、わたくしシャンテリーデは、このベルガドでしがない芸事でその日暮らしをしている、歌う翼セイレーンでございますわ」

「ふーん? ようは吟遊詩人や大道芸人みたいなもんか」


 と、俺がうなずくと、


「勇者様、彼女をそのへんの吟遊詩人や大道芸人と一緒にされてはいけません。彼女はこのベルガドで最も名高く人気のある歌姫ですよ」


 すかさず刑事が補足説明してきた。


「歌……姫、ね……」


 姫という言葉を聞いて、思わずサブイボが出てしまった俺だった。ただの比喩表現だとはわかっているが、相変わらず姫という単語には恐怖しか感じない。


「ようはベルガドの芸人カーストのトップのスーパースターってことか」

「そうですね。特に彼女のファンは貴族や大商人など、上流階級の方たちが多いそうです」

「まさにセレブだな」


 なるほど。ただの芸人ってだけじゃなくて、社会的にも強い影響力を持っていそうな女だ。


「……で、なんでそんな女が、こんなところに来たんだよ?」

「それはもちろん、こちらのジーグ様をお救いするためですわ」


 セレブ有翼人の女、シャンテリーデはそう言うと、床に膝をついているヒューヴの前にしゃがみこみ、その頭を自分の胸に抱きよせた。


「うはあ」


 突然その豊かなおっぱいに包まれて、ヒューヴはとろけるような笑顔になった。くそ、なんだよいきなり。うらやましいなあ。


「ああ、あなたはやはりあの伝説のジーグ様なのですね。こうしていると、あなたの体から力強い魔力が伝わってくるのを感じますわ」

「うんうん。オレ、あのジーグだよお……えへへ」


 何がジーグだよ。お前、昨日までそのこと忘れてたんだろうがよ。


「というわけで、刑事様。すぐにこのジーグ様の保釈手続きをお願いしますわ」

「え、保釈? しかしこの男は懸賞金四百万ゴンスの凶悪犯でして、さすがにそれは――」

「保釈金ならわたくしが支払いますわ。いくらでも」

「い、いくらでも?」

「お近づきのしるしに、わたくしからあなた個人に特別にプレゼントを差し上げることも可能ですわ」

「え、あ、はい……そういうことでしたら、すぐに保釈手続きを……」


 何やらわいろをほのめかされて、刑事はあっという間にシャンテリーデの言いなりになったようだった。大丈夫か、この国の警察。


 やがてすぐに刑事と巡査は俺たちを置いてどこかに行ってしまった。保釈手続きに必要な書類でも取りに行ったんだろうか。


「おい、お前、なんで俺やそこのバカの正体を知ってるんだよ?」


 とりあえず、シャンテリーデに聞いてみた。


「わたくしのもとへは、このベルガドでのありとあらゆる情報が集まるようになっているだけですわ」

「ふうん? 特権階級ってやつか」


 やはりこの女、ベルガドでは相当な大物には違いなさそうだ。


「勇者様がベルガドの祝福というものをお探しだということも、わたくし、存じてますわ」


 と、シャンテリーデは青い瞳をあやしく光らせながら言った。


「その様子だと、あんたはベルガドの祝福について何か知ってそうだな?」

「まあ、ほんの少しは」

「そうか。じゃあその『ほんの少し』ってやつを俺に教えてくれよ」

「……では、勇者様。これからぜひわたくしたちの館にいらしてください。そこでゆっくりお話ししますわ」


 シャンテリーデはヒューヴをさらに胸に抱きよせながら言った。

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