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 キャゼリーヌと一緒にヒューヴ落下地点に降りると、すでにそこには警察の連中が集まっていて、気絶しているヒューヴを抱きかかえて連行しているところだった。とりあえず死んではいないようだ。まあ、腐っても俺の昔の冒険者仲間だし、一般人よりはだいぶ打たれ強いはずだしな。


「そちらのお方、容疑者確保にご協力ありがとうございます。事情聴取と懸賞金受け取りの手続きがありますので、ぜひのちほど、クルード警察署のほうにお越しください」


 警察の連中は俺たちにそう言うと、ヒューヴを連れて俺たちの前から去って行ってしまった。俺とキャゼリーヌも近くにいたヤギを回収して、ザレの村に戻った。そして、そこで俺たちの帰りを待っていたユリィとザックと合流し、ことの顛末を話した。


 その後、俺たちはクルードの街に戻り、適当な宿で一泊したのち、クルード警察署に行った。事情聴取とやらがめんどくさいが、懸賞金四百万ゴンスもらえるんだから行かない選択肢はないのだった。


 だが、警察署に入って担当の刑事に会ったとたん、


「勇者様、実は面倒なことになっていまして……」


 と、刑事は困惑気味に俺に言うのだった。警察は俺が勇者アルドレイだってことはすでに知っている様子だった。まあ、あのおっパブで派手に身バレしたからなあ。


「面倒なことってなんだよ?」

「……それは、実際に容疑者にお会いになっていただければ、おわかりいただけるかと思います」


 刑事はそれだけ言うと、ヒューヴが捕まっている留置場に俺たちを案内した。


 行ってみると、ヒューヴは確かにその一角にある檻のついた小部屋に監禁されていた。今は部屋のすみっこで体育座りしてうずくまっている。すでにボウガンと魔弓は没収されているようで、ほぼ丸腰のようだ。また、その首には魔力を封印する首輪がつけられており、両手も手錠で拘束されている。


「おーい、ヒューヴ! この俺がわざわざ会いに来てやったぞー!」


 俺は檻ごしにヒューヴに呼び掛けた。


 だが、


「……え? ヒューヴってぼくのこと?」


 ヒューヴは顔を上げ、捨てられた子犬のような目で俺を見てこう言うのだった……。


「なんだお前? いきなり『ぼく』とか、キャラ変わり過ぎだろ!」

「そんなこと言われても……ぼく、何も思い出せなくて……うう」


 と、今度は泣き始めるヒューヴだった。


「何も思い出せないだとう! それってつまり――」

「はい。どうやらあの男は記憶喪失になってしまったようです」


 刑事は憂鬱そうにため息をついた。


「おそらく、勇者様があの男を確保される際、頭に強い衝撃を与えたことが原因でしょう。それで、彼の記憶は……」

「う」


 俺のせいか! 俺があのとき思いっきりやつの頭を蹴ったせいなのか!


「このままでは取り調べにならないので、我々もほとほと困り果てているのです。ぜひ勇者様のお力で彼の記憶を取り戻してください!」

「え、なんで俺が?」

「ももいろネクタルという店の店員の証言によると、あの男と勇者様は旧知の仲だというではないですか。ならば、我々が何かやるよりも、勇者様が直接語り掛けたほうが彼の記憶が戻りやすいのでは?」

「いや、そんなこと急に言われても……」


 そもそも記憶喪失になる前から、記憶力あやしいやつだったしなあ。


「おい、ヒューヴ! お前本当に何も思い出せないのかよ?」

「うう……ぼく、何もわかんない……。何も思い出せないダメなやつなんだ……」


 と、またしても泣き始めるヒューヴだった。単に記憶が初期化されただけではなく、人格まで別人に変わっているようだ。昨日フルチンで暴れてたバカはどこだよ。


「治療系の魔法でなんとかならないのか、アレ?」

「それが、人の記憶に直接干渉するような術は相当高度で繊細なものらしくて、なかなか難しく……」

「お手上げかよ」


 この世界の警察も使えねえなァ。


「わかった。俺がなんとかしてみるから、とりあえずこの檻を開けてくれ」

「は、はい!」


 刑事はすぐに檻を開けた。俺はそのまま中に入り、うずくまっているヒューヴの前まで来ると――その顔面を思いっきり殴った!


「ゆ、勇者様、いきなり何を――」

「こういうのはもういっぺん殴れば戻るんだよ。ショック療法ってやつだ」


 俺はそう言うと、すぐに倒れているヒューヴの口に回復薬ポーションをねじこんだ。よし、これで体の傷はプラマイゼロだ。あとは記憶のほうだが……。


「な……なんなんですか? ここ、どこですか? 私、なんでここにいるんですか?」


 と、身を震わせながらヒューヴは言うだけだった。どうやらリセットには成功したがまた違うキャラ出てきたみたいだな。


「じゃあ、もう一回っと」


 ガッシボカッ! 勇者はヒューヴを殴ったのち、回復させた!


「わ、わしはなぜこんなところにおるんじゃい?」


 あ、なんかまたハズレのキャラが出てきた。やり直し。ガッシボカッ!


「自分はなぜこんなところにいるでありますか?」


 またハズレかよ。しかもラックマン刑事みたいなキャラになりやがって。はいはい、やり直し。ガッシボカッ!


「オッホッホー! わたくしは人呼んで『月光の椿』!」


 誰だよ、知らねえよ。やり直し。ガッシボカッ!


「しょ、小生はなぜ――」


 ハズレ、やり直し! ガッシボカッ!


「拙者には倒さねばならぬ仇敵が――」


 ハズレ、やり直し! ガッシボカッ!


「あ、あの、勇者様、いつまでこんなことを続けるおつもりで……」

「うっせえな! SSR引くまで俺の人格ガチャは止まんねえんだよ!」


 だんだん手が疲れてきた。とっとと当たり出ろよな、もう。

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