319
俺の渾身の反撃をかわした後も、ヒューヴは俺の真下から次々に矢を放ってきた。まためんどくさいアングルからの攻撃だ。矢をよけながら徐々に下に降りていき、ヒューヴの真正面に移動した。
まあ、当然その立ち位置でもやつの攻撃は止まらないわけだが……。クソッ、どうすりゃいいんだよ? このまま一方的に相手の攻撃を受け流しているだけだと、そのうちやつの魔弓の矢が尽きてタイムオーバーだ。なんとしてもその前に、やつを仕留めないと。
だが、正攻法でまっすぐやつに突撃しても、俺の攻撃はまず当たらないだろう。今の俺には移動に難があるし。それに、仮に今の俺が地上にいて問題なく動けるとしても、それでやつに正面から突撃して攻撃が当たる確率はせいぜい六割ぐらいだろう。それぐらい、あいつは速い。
つまり、正面から攻撃を仕掛けるのは無謀ってことだ。せめて何かやつの視界をさえぎるような遮蔽物でもあればいいが、あいにくここは空の上。何もありゃしねえ。雲すらなくて、青い空がひろがっているばかりだ……。
あと使えそうなものは上着のポケットに入っている小石三個だ。これをやつに投げれば、その直後、やつはこっちに必ず反撃してくる。つまり、相手の攻撃のタイミングをこれでコントロールすることができる。また、三個連続で投げれば、もれなくこっちに三連射してくるだろう。三発の射撃にかかる時間だけ、やつをその場にとどめておくことができるんだ。
だが、それで今の俺に何ができる? 例えばその三発の間に一気にジャンプしてやつの懐に潜り込むというやり方も考えられるが……どう脳内シミュレーションしてもジャンプした直後にやつの矢の的になる未来しか見えねえ。まっすぐ直進しての移動じゃなく、アーチ状に弧を描いての移動になるから、どうしても到達までの時間にロスが生じるし。
やはりもっと何か、やつの動きを一瞬でも止めるような何かを見つけないと。でも、やっぱりここは空の上で何もない。頭上にはただ、俺たちをさんさんと照らす太陽があるだけだ……って、んん? 待てよ?
「……使えそうなものがあったじゃねえか、一つだけ!」
俺はニヤリと笑った。そして、直後、ゴミ魔剣にある指示を出した。
『そんなんで本当にうまくいくんですかネー?』
「さあな? 今はやるしかねえよ」
そう、迷っているヒマはない。やるしかないんだ。
俺はただちにその作戦を行動に移した。まずはポケットの小石を三発連続でやつに投げつける!
当然、反撃の矢がこっちに飛んでくるわけだが、その一発目をよけた直後に俺は素早く、本当にもう自分でもびっくりするぐらいの素早さで右の靴を脱ぎ、少し前の空間に投げた。それはすぐに空中でピタッと止まった。
よし、体重をかける「足場」ができた! あとは――これだ! 右の靴を投げると同時に俺の指示通りに長い棒状に形を変えていたゴミ魔剣を握りしめると、俺はただちにその足場に棒の先端を押し付けた。そして、そのまま棒高跳びの要領で上に高く飛んだっ! びよーんっ!
俺がそうやって高く飛んだときには、すでにヒューヴの三回の反撃は終わっていたようだった。すぐにやつは真上の俺に向かって矢を構え始めた。
だが、直後――やつの顔をしかめ、手の動きを止めた。そう、俺の向こうには光り輝く太陽があったから。そのまぶしさにやつは目がくらみやがったのだ!
ハハッ! まさに俺の狙い通り!
俺は空中で体をひねらせムーンサルトすると、そのまま両足をそろえてヒューヴの頭に勢いよく「着地」した。回転しながら全体重を乗せて、ドーンッ、とな!
「ぐはあっ」
さすがにこの頭頂部へのムーンサルト勇者キックは効いたようだった。ヒューヴは白目をむき、そのまま下に落ちていった。
「よし、勝ったぜ!」
と、俺は思わずガッツポーズを決めたが、俺も普通に落下中だった。左足に履いてた靴も、今の攻撃のショックで吹っ飛んで脱げてしまったし。
うーん、さすがにこの高さだと落ちた時にちょっと痛いかなあ? とりあえず空中で五点着地の準備をした。
だが、そこで俺の体は何者かに背後からひょいと抱きかかえられた。
「勇者どの、大活躍であったな」
と言いながら俺を回収したのはキャゼリーヌだった。どうやら、背中からジェットパックみたいなのを出して飛んでいるようだ。
「あのように不利な状況下でも勝利を収めるとは、さすが伝説の勇者どのだ」
「いやー、それほどでも」
あんなのしょせん、素早いだけのザコですしぃ?
「衣服もそのように脱げてしまって、さぞや激しい戦いであったのだろうな」
「い、いや、これは……」
と、そこで俺はフルチンであることを思い出し、あわてて上着を脱いで腰に巻き付けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます