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「うわっ! なんでお前、翼もないのにこんなところまで来るんだよ!」
俺が空中を駆け上がってヒューヴの近くまで行くと、ヒューヴはぎょっとしたようだった。
「はっはー。翼なんかなくてもこれぐらい魔法でなんとかなるんだよ!」
「魔法?」
「ああ、俺の靴に空中を歩けるようにする魔法をかけてもらったからな」
「へー」
と、言うや否や、いきなり俺の靴に向かって矢を放ってくるヒューヴだった。うわっ! あぶねえ! とっさにそれをかわした。
なお、ヒューヴの射撃攻撃は昨日と同様ポンチョの下からだったので、使っている武器は見えなかったが、おそらくこいつは十五年前と同じように簡易式のボウガンを左手の肘に装着してるんだろう。確か、威力は弱いが速射性に優れたやつだ。
「お、お前! 話をしてる途中にいきなり攻撃するなよ!」
「いやだって、その靴どうにかしたらお前落ちるっぽいじゃん? 狙うしかないじゃん?」
「そ、そういう相手の弱みに付け込むようなことはよくない――」
「えー? 敵の弱点狙うとか、めっちゃ当たり前のことじゃん。お前、バカなの?」
「う……」
バカにバカと言われることほど腹立たしいことはないが、確かにその通り過ぎて反論できない! くそう! さすが俺の昔の冒険者仲間。バカとはいえ、戦闘でのとっさの判断はまともすぎる!
と、俺が歯ぎしりしていると……、
「でも、さっきからオレの攻撃、お前に全然当たらないな? お前、もしかして、めっちゃ戦闘慣れしてるほうなのか?」
バカなりに俺のただならぬ戦闘能力に気づいたようだ! おお! さすが俺の昔の仲間!
「そうだよ! 昨日も言ったけど、俺はお前の昔の仲間のアルドレイだよ!」
「えー、お前がアル? うっそだー」
「嘘じゃないから!」
「いや、嘘だ! アルの一番の親友だったオレにはわかる! アルは確か、童貞をこじらせてチンコが腐って死んだはずだからな!」
「ちょ、お前、人の死因をテキトーに作ってんじゃねえよ!」
昨日と言ってること違うし! 何が一番の親友だよ! 相変わらずデタラメな記憶力だぜ!
「俺の死因はそんなんじゃないの! 姫に告白した直後に刺されて死んだの!」
「え? 『俺の死因』って何?」
「えっ」
「お前、生きてるじゃん? 死因とかあるわけないじゃん。バカなの」
「ち、ちがっ! だから一度死んで生まれ変わったって説明しただろ!」
「オレそんなん知らねえし? 生まれ変わりとかあるわけないし?」
「あるよ!」
「ねーよ」
ヒューヴは昨日のように俺にあっかんべーしてきた。お前ほんとに四百歳なのかよ。いちいち言動がガキすぎるだろ、クソが。
「だいたい、お前が本当にあのアルなら、なんでオレに石とか投げてくるんだよ? 昔の仲間じゃねえのかよ?」
「いや、それはお前が急に逃げるからだろ!」
「だって、逃げなきゃ警察に捕まるじゃん?」
「逃げるようなことするお前が悪いだろ!」
「なんだよー! お前、オレにそんなに偉そうなこと言えるほど、立派なやつなのかよ?」
「当然だろ! 俺はあのアルドレイなんだぞ!」
「えー、なんかお前、すっごいワルのにおいがする……」
「う!」
さすが半分動物みたいな男だぜ。俺が元死刑囚であることはなんとなく察してやがる。おそるべし野生の勘。
「も、もういい! ベルガドの祝福のことはすっかり忘れちまってるし、俺が誰だかもわかってねえし、お前はもう用済みだ! とっとと俺に捕まりやがれ! 懸賞金のためになァ!」
俺はゴミ魔剣を鞘から抜くと、ただちにヒューヴに斬りかかった。うおおおっ、懸賞金四百万ゴンスのために、その首置いてけえっ!
だが、その俺の攻撃はむなしく空を斬るだけだった。ヒューヴにさらっとよけられてしまったのだ。
「ぬううん……相変わらずすばっしこいやつめ」
と、俺はとっさに悔しがってみせたが、内心は違うことを考えていた。確かにヒューヴは素早い。単純に敏捷性だけなら俺と互角かそれ以上かぐらいには早い。能力値はDEXに全振りみたいなやつなのだ。
ただ、今の俺の攻撃が外れた理由はそこにあるわけではなかった。そう、どうやら今の俺は、地上にいるときほど素早く動けないようなのだ。今の攻撃も実際かなりダメダメだったし。
原因はきっと靴にかけられた空中歩行とかいう魔法だ。この魔法はおそらく、俺の足の動きにあわせてその都度足の裏に反発力を発生させているんだと思うが、俺の動きが速すぎるとその処理が遅れて、一瞬「足が沈む」ような状態になるようなのだ。これが痛い。踏ん張りがきかないなんてもんじゃねえ。
そういや、ヤギのやつ、この魔法を使ったとき「効果はあまり期待するな」と言ってたな。それはつまり、こういうことだったってわけだ。俺の速さに対応しているほど上等な魔法じゃないっていう……。そもそもこういう移動系の魔法って無属性だったはずだが、ヤギのやつは明らかに土属性キャラだよな。おそらくあいつは、この手の移動系の魔法は得意なほうじゃないんだろう。
「お前、そんなヘナチョコ攻撃で、よく自分がアルだって言えたな。うっけるー!」
と、ヒューヴは少し離れた高みから俺を嘲笑った。
「うるさいっ!」
俺だって好きでこんなヘナチョコやってんじゃねえんだぞ! 何も知らないからって調子に乗ってんじゃねよ、バーカバーカ!
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