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「おい、ヒューヴ! 俺はこれからお前をぶっ倒す! ただ、お前がベルガドの祝福についてちゃんと思い出すのなら、特別に生かしておいてやってもかまわん!」


 ゴミ魔剣を再び構え、俺はやつに最後の警告をしたが、


「はは。お前にオレが殺せるわけないだろー」


 ヒューヴは空中で宙返りしながら鼻で笑うのだった。ぐぬぬ。相変わらず人をなめたやつだ。


「じゃあ、もうどうなっても知らねえぞ!」


 俺はそのままヒューヴに斬りこんだ。今度は「素早く足を前に出すと魔法の処理が追い付かずに一瞬足が沈む」という現象をしっかり計算に入れたうえで。


 結果、さっきよりはずいぶんマシな動きになったが……それでも俺の攻撃は当たらなかった。やはりそこらのザコが相手ってわけではないのだ。異常に素早い上に反応速度もチートレベルだ。


 しかも、俺の剣を紙一重でよけた直後、やつは俺にボウガンで反撃してきた。ゼロ距離からの射撃だ。


 しかもしかも、よりによってそれは俺の目めがけて発射されやがった。うわ、他の部位はともかく、そこは俺でも痛い! とっさに顔を前に突き出して、ボウガンの矢を歯でキャッチした。


「え……」


 ヒューヴは瞬間、俺のその白刃取りならぬ白歯取りにびっくりしたようだった。スキあり! さらに頭を前に突き出し、その間抜け面に頭突きをかました!


 ごんっ!


 ただちにヒューヴの体は十五メートルほど後ろに吹っ飛ばされていった。俺は舌打ちした。地上ならこれで決着がついてもおかしくない一発だったが、ここはさすがに空中。打撃攻撃の威力は今みたいに後ろに逃げて激減するようだ。


 当然、ヒューヴも、


「いってえな! お前、いきなり変な攻撃するなよ!」


 鼻血が出ている顔を手で押さえながら、元気よく俺に抗議してくるのだった。このぶんじゃ、ほぼノーダメか。やっぱ剣で斬りつけないとダメだわ、このバカは。


「いちいちうるせえな。どう戦おうと俺の自由だろ」

「ああ、確かに」


 と、なぜかそこで納得する男だった。


 そして、


「でも、なんか今のお前の戦い方といい、話し方といい、オレの知っている誰かに似ている気がする……」


 俺が誰だかようやく思い出しかけたようだ。おお!


「そうだよ! 俺は昔のお前の仲間のアルドレイだよ!」

「マジで?」

「マジマジ! マジ卍!」

「うーん? やっぱなんか違う気がする……」

「って、なんでそこで後ろに下がるの! お前自身の勘を信じて、もっと俺のところに踏み込んでこいよ!」

「いや、オレの知っているアルはもっと動きにキレがあった! お前はやっぱりニセモノだ!」


 と、叫ぶや否や、またしてもボウガンの矢を俺の靴めがけて発射してくる男だった。今度は連射で。


「相変わらず、うっとうしいヤツだぜ」


 俺はそれらを華麗なステップでかわす……ことはしなかった。ヤツの射撃は高速過ぎて、ハンデを抱えたまま足を動かしても回避できないととっさに判断したので、その場から一切足を動かさず、ゴミ魔剣でボウガンの矢を叩き落としていったのだ。


「あれ? お前なんで、そんなアルみたいなことができるんだ?」


 その俺の剣さばきに、ヒューヴは改めて驚いたようだった。


「だから、俺はアルドレイだって言ってるだろ!」

「いやー、それはないかなー」

「あるって!」

「うーん? でもお前、さっきオレのこと倒すって言ったじゃん? オレの一番の親友のアルは、オレにそんなこと言うわけないし?」

「言うから! アルドレイ君、ちょっと口が悪いだけだから! 心はお前への友情で満タンだから!」

「ないわー」


 と、やつはまたしてもボウガンで俺の靴を狙って連射攻撃してきた。ちくしょう、こいつなんで人の話をちゃんと聞かないんだよ! 再びゴミ魔剣でそれらを払った。


 やっぱりこいつ、俺の靴を射撃でぶっこわして、俺を下に落とすつもりなのか。だからそこを集中して狙って……。しかし、理由はわかっても、こうも足元ばかりを狙われては一歩も動けない俺だった。当然、このままではやつに近づくこともできない。


 もしかすると、やつの特殊能力鷹の目ホークアイで俺の靴が弱点表示されているのかもしれないな。つまり、やつは自身のその能力のままに俺の靴めがけて集中攻撃してるってわけだ。だとしたら、何か他の場所の弱点を目立たせれば、そっちに狙いがそれるかも?


 いやでも、他に狙われそうな弱点なんて俺にあったっけ……って、あったよ! 一つだけ!


「ヒューヴ、今から俺のすることをよく見ていろ!」


 俺は高らかに叫ぶと、ゴミ魔剣を握りしめ、それで自分の履いているズボンとパンツをずたずたに切り裂いた!


 直後、あらわになる俺の下半身! 白日のもとにさらされる俺の弱点! 俺のちんこ!


「え、お前なんでいきなり脱いでるの? バカなの?」

「うん!」

「えっ」

「ここにお前の矢が当たると俺は問答無用で死ぬだろう! 痛みで! さあ、遠慮なく撃ってこい、バッチコーイ!」


 俺は腰を振り、やつを挑発した。太陽の光に照らされながら振り子のように揺れる俺のちんこ。

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