312
トレジャーハンター協会を出た後、俺はすぐに近くの建物の屋根の上に飛び乗り、ヒューヴを探した。
すると、かなり遠くの上空にその飛ぶ姿を発見した。すでにその体は砂粒ぐらいの大きさにしか見えなくなっている。ちょっと目を離したすきに離れすぎだろ。逃げ足早すぎかよ。
「おーい、ヒューヴ! 戻ってこーい!」
ダメもとでその場で叫んでみたが、戻ってくる気配は当然なかった。そもそも距離があり過ぎて俺の声が届いているのかもあやしい。
「くそ! 手間かけさせやがって!」
俺は舌打ちし、すぐさま屋根から飛び降り、やつのほうへ走った。全速力で走った! 一瞬でザレの村を出て森に入り、木をなぎ倒し沼を飛び越えながら走った! うおおっ! 今は少しでもやつに近づかないと!
やがて、俺はやつの真下にまで迫った。これ以上はさすがに高さがあるので近づけない。俺はやつと違って空は飛べないのだ。どうする俺……って、こうするしかねえか!
「うおおおっ! 届け、俺の魔球ッ!」
と、叫ぶと同時に近くに落ちていた石をヒューヴに投げつけた。強肩勇者のハイパースローだ!
まあ、当然それは当たらなかったわけだが。俺の狙いは正確で速度も申し分なく、普通に飛ぶ鳥なら余裕で落とせるタマだったが、なんせ相手はあのヒューヴだ。この俺のかつての冒険者仲間だ。たとえ背後からの奇襲だろうと、これだけ離れた場所からの投擲攻撃は当然見切ってかわせるに決まっている。俺と一緒にあの暴マー倒しに行った仲なんだしなあ。
ただ、その投じた一石をよけられることは、俺の想定の範囲内だった。俺の狙いはそこにはなかったからだ。
そう、やつの昔の仲間である俺は知っていた。射撃のプロであるやつには、ある習性があるということを……。
と、直後、ヒューヴのやつは実際にその習性をあらわにした。こっちに向かって、矢で反撃してきたのだ。
俺は当然それを難なくかわしたが、内心はほくそ笑んでいた。やっぱりそうだ。ヒューヴのやつ、「飛び道具で攻撃されたらとりあえず反撃せずにはいられない」という習性は十五年前と何も変わっちゃいねえ!
「はっはっは! バカめ! 今は反撃なんかせずに全力で逃げるときだろうがよお!」
俺は高笑いしながらさらに石をヒューヴに投げ続けた。やはりそれらは回避されたが、投げた石の数だけきっちり反撃の矢が飛んできた。当然、その間、やつは一切移動していない。俺が石を投げている間はその場に足止め(空中だから翼止め?)されている状態だ。
まあ、俺も当たらない石を投げているだけではまるであいつに近づけないわけなんだが……が! 大丈夫、俺は一人じゃない。ザレの村に置いてきた頼もしい仲間たちがいる。俺がヒューヴを足止めしているうちに、あいつらがここに駆けつけてきて、この状況をなんとかしてくれるだろう? ……だろう? 信じてるからな! 頼んだぞ、俺の仲間たちぃ!
と、そんな他力本願な感じで、ひたすら石を投げ続け、反撃の矢をよけ続けていると、やがて、
「トモキ、それではやつは落とせないだろう」
と、ヤギが俺のもとに駆け寄ってきた。うおおっ、本当に俺の仲間キター! しかも一番使えそうなやつ! やったあっ!
「いやだって、あいつ上にいるし、石投げるぐらいしかできねえだろ」
まあ、ただ足止めしてただけなんですけどね。こっちの攻撃少しも当たらんし。
「だったら、俺が魔法でお前を上に届けよう」
「おおっ!」
ありがてえ! 痒い所に手が届く、これぞまさに俺の仲間!
「じゃあ、頼む! お前の超魔法で俺をバシっと上に飛ばしてくれ!」
「ああ」
と、直後、ヤギは何か魔法を詠唱したようだった。とたんに俺の履いている靴が青白く光った。
「お前の靴に空中歩行の魔法をかけておいた」
「空中歩行? このまま歩いて上空にのぼれるのか?」
「ああ。ただ、これはあくまで急場しのぎだ。効果はあまり期待するな」
「いや、空中を歩けるだけでも大助かりだぜ。サンキュー!」
俺は近くに落ちていた石を数個素早く拾ってポケットに入れると、そのまま足を上にあげ、空中を駆け上がった! 真上に! 一気に! ヒューヴのいるところに向かって!
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