311
「あの、トモキ様」
と、そこで、ユリィが俺の服の袖を引っ張った。
「ヒューヴさんがジーグというお方だというのは、とてもよいお話ではないでしょうか」
「え、なんで?」
「ご本人に直接ベルガドの祝福について聞けるじゃないですか」
「あ、そうか!」
俺はそもそもそれを求めてここまでやってきたんだっけ。あんなバカが伝説の男であってたまるかという思い込みにとらわれて、すっかり忘れてたぜ。
「おい、ヒューヴ。話はよく分かった。このさい、お前が伝説のジーグだってことは特別に認めてやろう」
「だろ? オレってマジすげーやつじゃん?」
ヒューヴは胸を張ってドヤ顔で言う。お前それ、昨日の朝まで忘れてたことじゃねえのかよ。
「そうだな。確かにお前はすごいやつだ。なんせ、ベルガドの祝福とやらを受けた人間らしいからな」
「え、なにそれ?」
「えっ」
「何の話だかオレ全然わかんないんだけど? お前、いきなりそんなこと言うとか、バカなの」
「バカはお前だよ!」
バカほど他人のことバカって言う法則でもあるのか、こいつ!
「学者先生が言ってたんだよ! 伝説のジーグがベルガドの祝福を受けた最後の人間だってことを!」
「えー、そんなのオレ知らない。人違いじゃねえの?」
「どう考えても間違ってるのはお前の記憶のほうだろう!」
バカなんだから! この子、本当にバカちんなんだから! ぷんすか!
「いいから、思い出せよ! ベルガドの祝福について!」
「いや、そんなこと急に言われても……」
俺がポンチョの胸倉をつかんで揺さぶると、ヒューヴは目を白黒させた。この様子じゃ、本当に何も覚えてない感じか。クソッ。
「じゃあ、これにベルガドの祝福について書いてあるか確認してみろよ」
俺はジーグの日記をヒューヴに返した。これを読めるのは今のところ書いた本人しかいないからな。
「……これにそんなこと書いてあったかなあ?」
ヒューヴは首をかしげながら、その日記のページをぱらぱらめくった。
そして、
「うーん? やっぱりその日遊んだ女の子の名前と、その日食べたもののことしか書いてないなあ」
と、ふざけたことを言いやがった。何その日記の内容? お前、伝説作っているときでも、女とメシのことしか考えてなかったのかよ。
「いいから、それ以外に何か書いてないか探せよ!」
「えーっと、あとは、お金を借りた人の名前とか――」
「三百年前の借金とかどうでもいいだろ!」
「あと、その日の天気とか――」
「提出締め切り前に急いで書いた夏休みの絵日記かよ!」
そうそう、天気のネタは鉄板だよね。最近はネットで簡単に過去の天気を調べられるし。
「うーん……。やっぱりどこにもないなあ。ベルガドの祝福のことなんか」
ヒューヴは再び首を傾げた。
と、そのとき、
「有翼人ヒューヴ、そこを動くな!」
と、叫びながら、数人の男たちがトレジャーハンター協会の入り口から中に入ってきた。見ると、みんな軍服のようなぱりっとした服を着ている。
「なんだよ、あんたら?」
「我々はクルード警察の者だ!」
男の中の一番偉そうなやつが、身分証のようなものを掲げながら名乗った。
「で、警察がなんでここに?」
「先ほど、そちらの女性から通報があったのだ。ここに指名手配中の犯人が現れたと!」
警察の男の一人が、受付の女を指さしながら言うと、
「すみませんねー。指名手配中の方がうちに来ることはわりとよくあることなので、マニュアル通りに対応させていただきました」
受付の女はにっこり笑って俺たちに言った。なるほど、この女は俺たちが話をしているスキにでも、こっそり通報したんだろう。まあ、実際ヒューヴの手配書出回ってるしな。
「というわけでそこの有翼人、おとなしく我々と一緒に来い!」
「えー、捕まれってこと? そんなの、ヤダー」
ヒューヴはとたんに十歳児のようにダダをこね、
「オレ、指名手配とかそんなの知らないもんね!」
と、叫ぶや否や、いきなり近くの窓をぶちやぶって外に飛び出してしまった!
「……に、逃げた!」
当然、一瞬の出来事過ぎて呆然とする警察の男たちだ。
「ちっ、めんどくせーな。人がせっかく大事な話をしてたのによお」
俺はいらいらしながら警察の男たちをにらみつけた。
「おい、ポリ公。確かあいつには懸賞金がかかってたはずだよな。俺が今からあいつを追いかけて捕まえたら、それもらえるのか?」
「あ……ああ、もちろんだとも!」
「そうか、そいつはやる気が出るってもんだぜ!」
俺は直後、トレジャーハンター協会を飛び出した。あいつにかけられた懸賞金は四百万ゴンスだ。死神電話でまた浪費しちまったし、ぜひ回収しておかないとなァ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます