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「ヒューヴ! やっぱりこんなところにいやがったか!」


 俺はすぐにやつのもとに駆け寄った。


 だが、


「あれ? なんでお前、オレの名前を知ってるんだ? どっかで会った?」


 なんと、ヒューヴのやつ、もう俺のこと忘れてやがる! 相変わらず鳥頭すぎい!


「昨日、大学の研究室で会ったばかりだろ!」

「ああ、あのときの」


 と、そこでようやく俺のことを思い出したようだった。


「で、オレになんか用?」

「なんか用、じゃねえっ? お前、古文書持って逃げだだろ! あれ俺に渡せよ!」

「えー、あんなの欲しいのお前? なにさまー?」

「盗人のお前に言われたくないよ!」


 いやまあ、過去のことを考えると、俺も人のことは言えないのだが。


「お前はあれに書いてある財宝のありかが知りたいんだろう? だったら、俺たちのほうで解読してそれを教えてやるからさ。俺たち、別に財宝には興味ないし」

「え、解読って何?」

「えっ」

「オレ、普通に読めたけど、あれ?」

「えっ!」

「でも、財宝のありかなんて書いてなかったんだよなあ」

「そ、そう……」


 やっぱり伝説のジーグの遺した財宝なんてなかったんだね。なるほど、なるほど……じゃ、ねえっ!


「お前、なんで読めるんだよ、古文書?」

「いや、これぐらい読めるだろ、普通に」


 と、言いながらヒューヴは無造作にポンチョの内側から古文書を出して、俺に投げ渡した。


 こんなにもあっさりとイベントアイテム(?)を手放すことといい、いったいどういうことだろう? とりあえず、ページを開いて中を見てみたわけだったが、


「こ、これは……!」


 俺は愕然とした。ここに書かれている字、めっちゃ汚い癖字で、全然読めない!


「な? たいしたこと書いてないだろ?」

「いや、そんな判断できる状態じゃないんだが……」


 俺は他のみんなにも古文書を見せてみたが、誰もその文章を読むことができないようだった。古い新しい以前に、字が汚すぎる。


 だが、同時に、俺はその字の汚さに見覚えがある気がするのだった。そう、ずっと前に、これと同じ汚い字を見たような……?


 いやでも、これが書かれたのは今から三百年前だぞ? 伝説の存在になっている男の書いたものだぞ? それが……そんなわけ……あるはずが……。


 と、そのとき、


「あ、ヒューヴさんって、有翼人みたいですけど、どういう種類の有翼人なんですか? 有翼人にもいっぱい種族がありますよね?」


 と、受付の女がヒューヴに尋ねてきた。


「ああ、オレは古代種になるかな。古代翼人エインシャント・ウイングってやつだよ」

古代翼人エインシャント・ウイング? うわあ、すごいですね! 希少な純血種じゃないですか! わたし、そんな方と初めて会いました!」

「だろ? オレってばマジレアキャラだしぃ」


 ヒューヴはニヤニヤ笑っている。ふーん、そういう種族名あったんだな、こいつ。ただの有翼人としてしか認識してなかった俺には初耳の情報だった。


古代翼人エインシャント・ウイングの方って確かすごく能力が高いんですよね? あと、すごく長命だって聞きましたけど、ヒューヴさんは何歳ぐらいなんですか?」

「えーっと、四百歳ぐらいだったかな」

「まあ、長生き!」


 なんだと! てめえそんなにジジイだったのかよ! 見た目よりは歳食ってるとは知っていたが、そんな歳だとはさすがに知らなかったぞ。あのティリセより年上なのかよ。


「そんなに長生きされてるのなら、このベルガドにも何度か来たことあるんじゃないですか?」

「うん、あるよ。三百年くらい前に」


 え? 三百年前? なにそれ?


「へえ、そんな昔にここでいったい何をされてたんですか?」

「トレジャーハンターだよ。よく覚えてないけど、いっぱい稼いだっぽい?」


 なん……だと!


「あ、あと、そのときの名前は今とは違ってたかな。あのときのオレの名前は――」

「ちょ、ちょっと待てい!」


 俺はあわてて二人の会話に割り込んだ。


「ヒューヴ! てめえさっきから何言ってんだよ! そ、その口ぶりだと、まるでお前自身が伝説の――」

「うん、オレ、ジーグだよ」


 有翼人のバカはけろっとした顔で答えた。

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