309
「ええっ、ヒューヴさんって、あの伝説のジーグなんですか?」
と、驚きの声を上げたのは受付の女だった。
「ああ、そうだぜ。よく覚えてないけど、ここにも来たことあるんじゃねえの?」
「え、でも、今の名前とは違いますよね?」
「うん、なんか色々あって名前変わったっぽい?」
「色々?」
「いやー、それもよく覚えてないんだよね」
ヒューヴはへらへらと笑う。
「ちょ、ちょっと待て! お前なんでそんなに記憶が不確かなのに自分がジーグだって言えるんだよ!」
俺はつっこまずにはいられなかった。こいつ、さっきからあやふやなことしか言ってねえじゃねえか、ふざけんな。
「あ、それな! 実はオレも今朝まで自分がジーグだって忘れててさあ」
「今朝?」
「そう、昨日おっぱい店で遊んだ後、そのへんの木陰で野宿して、朝になってそのへんの池の泥水で顔を洗ってた時にはっと思い出したんだよ。そういや、オレ、ジーグだったなって」
「な……なにそれ?」
やべえ。バカ特有のふわっとした喋り方すぎて理解が追い付かねえ。
「ヒューヴ。ゆうべ、そのおっぱい店で考古学者のおっさんと会ったのは覚えてるよな?」
「あー、あのおっさん、考古学者だったのか。口臭かったな」
「い、いや! そんないらん記憶思い出さなくていいから! お前確か、そのおっさんとジーグの日記について話をしたよね?」
「うん、財宝のありかが書いてあるってあの口臭いおっさん言ってたぞ」
「それで、そのときは思い出さなかったの? 自分がジーグだったってことは?」
「うん」
「で、一晩たった後、時間差で思い出した?」
「うん」
「……って、反応遅すぎだろ! 恐竜かてめえは!」
普通はジーグの日記の話をされたときに思い出すもんじゃねえのかよ!
「で、オレ、自分がジーグだって思い出したわけじゃん? だから、口臭いおっさんのところに日記を取りに行ったんだよ。日記も、日記に隠し場所が書かれてるらしい財宝も、全部オレのものだしな」
「そ、そう……」
それが昨日の犯行の全貌か……。あくまで自分のものだから取り戻したという主張。盗人の自覚ゼロかよ。
いや、そもそも本当にこいつは伝説のジーグとやらなのか?
「お前、自分がジーグだって言うのなら、何か証拠あるのかよ?」
「え、そんなのあるわけないじゃん。あれから三百年もたってるんだぞ。お前、バカなの」
「バカはお前だろうがよ!」
バカにバカって言われるとめちゃくちゃイラっとするんですけど!
「トモキ、彼はこの難解な文字を読み解くことができただろう。それは、一つの証拠にはならないだろうか」
と、ヤギが古文書をツノで指しながら言った。確かに、書いた本人じゃなきゃ、こんなクソ汚い字はそうそう読めない気がする。
いやでも、それだけでジーグ本人だと決めつけるのはまだ早いような……?
と、そのとき、
「あー、ありました、ありました!」
受付の女が大きな声を出した。見ると、古びた帳簿のようなものを見ている。
「これは、このトレジャーハンター協会に代々伝わる登録者たちのリストなんですけど、これを見る限り、確かに三百年前にロ・イン・ジーグという人の名前があります!」
「? それがどうしたんだよ? 実際、ジーグはここで昔ハンターやってたんだから、そこに名前があるのも当然だろ?」
「いえ、このリストは、なるべく登録者ご本人に直接名前を記入していただいていたようなんですが、実はジーグさんご本人の署名の筆跡が、ヒューヴさんの字とよく似てるんです!」
受付の女は羊皮紙でできているらしい分厚い登録者リストと、さっきヒューヴに書いてもらった書類を並べて俺たちに見せつけた。見るとなるほど、登録者リストの一か所だけ異常に汚い字があり、それはヒューヴがさっき書いたはずの文字とよく似ている。ついでに、今俺の手元にある日記の文字ともそっくりだ。
「え、えっと……筆跡鑑定の結果、このバカは間違いなくあの伝説のジーグ?」
「だろ? オレって、やっぱ伝説の男だったじゃん?」
ヒューヴは再びへらへら笑った。
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