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 その後、ニンジンスティックのおかわりおっぱいを楽しんだ後、俺はようやくこの店に来た目的を思い出した。


 そ、そうだ、俺たちはあくまで情報収集のためにここに来たんだった!


 あぶないところだった。おっぱいのせいで大事なことを忘れるところだった。おそるべきおっぱいの魔力。


「……あのさ、俺、実は人を探しててさ」


 と、俺は懐からヒューヴの手配書を出しながら言った。


 だが、それを見たとたん、


「え、あなたまさか警察?」


 プロの女と新人の女は真っ青な顔になった。


「いや、俺たちは別に警察じゃ――」


「こ、この子は、ちゃんと十五歳だから! 大人だから!」


 と、プロの女は新人の女を抱き寄せながら、なにやら必死に訴えてくる。


「……そういえば、このベルガドでは十五歳で成人とされ、それに満たない者はこのような店で働くことはできないはずだったな」


 と、キャゼリーヌが俺に言った。


「そうか、そこの女は、歳ごまかして働いてるのか」


 どおりで対応が初々しい感じだぜ。まだ十五になってないガキなんだからな。それにしちゃおっぱいが育ち過ぎな気もするが……。


「安心しろよ。俺たちは警察じゃないし、あんたらが何歳だろうと、興味ねえよ」


 俺はおびえる二人の女に言った。まあ、実際その乳のでかさで何歳なのか気になるところではあったが!


「本当? でもそれ手配書でしょう?」

「ああ、こいつは俺の知り合いなんだよ。だから探してる。それだけだ」

「そ、そうだったのね……」


 女二人はそこでようやくほっとしたようだった。やましいことがあるからって、早とちりしすぎだろ。俺は笑った。


「で、さっそくこいつのことなんだが――」

「誤解しないでね。この子だって、好きでこんな仕事をしてるわけじゃないのよ」


 と、プロの女は何やら語り始めた……。


「この子の家、昔から観光客相手に土産物を売るお店をやってるんだけど、最近例の入国審査とやらで観光客が激減したでしょう? 土産物の売り上げもだいぶ落ちちゃって」

「ああ、それで生活が苦しくなってこんな店で働くことになったのか」


 十五にもなってないみたいなのに大変だなあ。おっぱいは素晴らしいんだが。


「まあ、それはそうと、この手配書の男のことをだな――」

「ほんと、イヤになっちゃうわね。入国審査なんて! この店だって売り上げ下がっちゃうし!」


 と、プロの女はまたしても一方的に話し始めた。


「どこかのバカ勇者様がナントカっていう竜を倒したせいで、ほんとこっちは商売あがったりで大迷惑だわ!」

「う」


 風が吹けば桶屋が……じゃないが、俺があの暴マーを倒したから、この国は緊急の入国審査始めたんだよな。それでこんなありさまに……。確かに、このクルードの街に吹きすさぶ不景気の風は俺のせいかもしれない。


 と、妙に居心地の悪い気持ちになっていると、


「そんなこと言っちゃだめですよ、先輩!」


 新人の女がプロの女をいさめるように言った。


「勇者様は悪い竜を倒して世界を救ってくださったんですよ。それも二回も。素晴らしいお方じゃないですか!」


 おおう……! やっぱり、この子はいい! 俺のせいで不景気まっただなかでこんな仕事してるっていうのに、この俺をかばってくれるなんて!


「何言ってんの。このベルガドにはもともとその悪い竜の影響なんて何もなかったじゃない。勇者様が余計なことしたせいで、景気が悪くなっただけじゃない」

「そんなことないです! 他の国の人が安心して暮らせるようになれば、この国にもきっといいことがあると思います!」


 天使? この子マジで、おっパブに舞い降りた天使じゃない? おっぱいも大きいしさあ!


「そ、そうだな。勇者様は偉大なお方だな!」


 俺もすかさず新人の女に同調した。すばらしいおっぱい天使と、すばらしい俺の出会いに乾杯! いや、酒は飲んでないけど。


 と、そのとき、


「あー! あなたはっ!」


 近くを歩いていた店員の女が、急に俺のほうに近づいてきた。


 そして、


「うわあ、勇者アルドレイ様! こんなところでまた会えるなんて、うれしー!」


 と、大きな声で叫びやがった!


「ちょ、おま、なんで俺のことそんなふうに……」

「あ、私のこと覚えてないですか? 勇者様の目の前でポールダンスしたじゃないですかー」


 と、女は自分の顔を指さす。そ、そういえば、あの夜、俺に踊りを披露してくれた踊り子さんの一人がこんな顔をしていた気がする……。


「えっ、なに? 勇者アルドレイ様ってどういうこと?」


 当然、俺の相手をしていた女二人はびっくり仰天だ。


 いや、そいつらだけではなく……。


「勇者アルドレイ様だって!」

「勇者様がこんなおっぱい店にいらっしゃってるだと!」

「おっぱい大好きだったんだね、伝説の勇者様!」


 と叫びながら、たちまち店中から客や店員たちが俺のところに集まってくるのだった。


「い、いや、俺はそのう……」


 気まずさと恥ずかしさで半ば石化してしまう俺だった……。

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