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さて、そのまま大学を出た俺たちはクルードの街に繰り出し、ヒューヴのことや「ももいろネクタル」という店について聞き込み調査を始めた……わけでもなかった。
そう、最初はそうしようと思ったのだが、すぐにめんどくさくなってやめたのだった。そんな地道な作業、別に俺たちがやる必要ないしな。クルードの街について俺たちよりは詳しいであろう連中にやらせればいいわけだしな。
というわけで、俺たちは大学からまっすぐ「ベルガドの自然を守る会」に戻り、そのメンバーらに、
「お前ら、今から『ももいろネクタル』って店のことと、ヒューヴっていう有翼人について調べてこい!」
と、命令し、街に解き放ったのだった。うむ、なんて効率の良い情報収集作業。
その後は、俺たちは再びクルードの街の観光を再開した。パシリどもが戻ってくるまでヒマだしな。なお、キャゼリーヌの首は、近くの適当な工房で道具を借りて、無事元通りに体にくっついた。大事がなくてなによりだぜ。
やがて夕方になり、俺たちは「ベルガドの自然を守る会」に戻った。そのころにはもう、街に放った草どもは帰ってきていた。
「で、ちゃんと調べてきたんだろうな、お前ら?」
建物の奥の応接室で茶を飲みながら青ローブのメンバーたちに尋ねると、みな、「はい!」と、元気よく俺に答えた。ふふ、もはやこいつら俺の忠実なしもべだな。
「まず、ヒューヴという有翼人の男についてですが、クルードの歓楽街のほうでいくつか目撃証言がありました」
「歓楽街か」
おっパブで会ったという考古学者の話と一致するな。
「ただ、目撃証言はどれもあいまいなものばかりで、やつの行方を知る手掛かりになりそうなものはありませんでした」
と、青ローブの男はそこで俺に報告書の紙を差し出した。目撃証言をまとめたものだろうか。こいつ、普段はどっかのリーマンやってるのかな? 妙に仕事がテキパキしてるな。
また、そこで違う男が、
「私のほうは、こんなものを見つけました」
と、さらに俺に一枚の紙を差し出した。見ると、それは手配書だった。描かれているのはよりによってあのバカ有翼人の男、ヒューヴだった。なんでも、食い逃げ、窃盗、結婚詐欺、その他もろもろの犯罪行為で国際指名手配されてるらしい。賞金額は四百万ゴンスだ。
「あいつ、いつのまにこんな極悪人に……」
まあ、俺も人のことは言えないが、十五年前のあいつはバカでこそあれ、悪事に手を染めるような男ではなかったはずだ。月日は人を変えるってことだろうか。バカなのは据え置きのくせに。
また、その後は、例の店「ももいろネクタル」についての報告だった。
「店の場所については、すぐわかりました。かなり評判の良い店のようでしたから」
「評判がいい? メシがうまいってことか?」
「はあ? 何をばかなことを! あのような店で料理なんか味わっている場合ではないでしょう! 評判がいいということは、女の子の質が素晴らしいということですよ!」
男は何やら顔を上気させ、早口で答えた。
「そ、そう……。いい子がよりどりみどりなわけね……」
男の勢いに思わず鼻白んでしまう俺だった。こいつ、おっパブガチ勢か。
「また、女の子の質がいいだけではなく、十秒チャージやお大尽チャージといったおさわりサービスが好評で、その界隈では相当な人気店になっているようです!」
「ふうん。やっぱりそういうサービスやってるんだな」
あの学者先生が行った店は、間違いなくそこのようだ。
「で、こいつのことは何か聞けたのか?」
俺は手配書を指さし尋ねたが、
「それが、今の時間帯は営業時間外ということで、従業員がほとんどおらず、特に何の話も聞けませんでした」
男は首を振った。
「そうか。やっぱ店が開いてる夜に行かないとダメか」
俺はそこで、応接室の窓の向こうの空をちらっと見た。すでに日は暮れかかっており、空はオレンジ色に染まっていた。
そう、そろそろ夜になる。人気のおっパブも開店する。おっパブ……おっぱい、酒池肉林……十秒チャージ、お大尽チャージ……うーん、おっぱい! おっぱいおっぱい!
「よし、店の場所も聞いたし、ここは俺たちで直接話を聞きに行くか!」
と、気が付けば勝手にそう言っている俺の口だった。おっぱい。
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