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考古学の研究室だというその部屋は、ただ資料の本が山積みされているだけの場所のように見えた。まあ、文系の研究室なんてこんなもんか。入ってすく、ほこりっぽいにおいが鼻にまとわりついてきた。
そして、そんな部屋の片隅に二人の男がいた。一人は先ほど俺たちに塩対応した考古学者の中年男だ。そしてもう一人は……有翼人? そう、背中に鳥のもののような大きな翼を持った亜人種の男だ。机の上に乗って何やら探し物をしている様子で、うつむいたその顔はよく見えないが、中背細身という体型だ。また、ぼさぼさの長い茶色い髪をうなじのところで一つにまとめており、ポンチョのような粗い織物を肩にかけている。
さらに、そのすぐ近くの窓はガラスが割れており、有翼人の男はおそらくはここから侵入してきたのだろうと思われた。
「お、おい、やめろ! そんなに私の机を荒らすんじゃないっ!」
考古学者の男は有翼人の男の袖を引っ張って必死に止めるが、
「うるさいなあ! オレの邪魔するなよ!」
有翼人の男は、考古学者の男を乱暴に振り払った。考古学者の男ははずみで後ろに吹っ飛ばされた。この謎の有翼人、見た目のわりに腕力はそれなりにありそうだ。
「おい、お前、こんなところで何してるんだよ?」
一応俺も有翼人に話しかけてみたが……返事はなかった。無視かよ。感じ悪ぅ。
「あの男は泥棒なんだ! 頼む、止めてくれ!」
考古学者の男は、今度は俺にすがってきた。さっきの塩対応が嘘のような手のひら返しだ。
と、そこで、
「あ、あった!」
有翼人の男は机の上の資料の山から何か見つけたようだった。すぐにそれを手に取り掲げた。見ると、それは一冊の古びた本だった。
「ああっ、それはこれから解読する予定の古文書!」
考古学者の男はたちまち真っ青になった。
「頼む、そこの君! あれを取り返してくれ! あれには伝説のジーグが隠した財宝のありかが書かれているはずなんだ!」
「え」
何その、タイムリーすぎる情報。ついさっき、俺たちはちょうどそのジーグとやらの財宝の話をしてたところなんですけど!
だが、俺がその言葉に驚いているスキに有翼人の男はすでに窓から飛び立つところだった。やべえ、もたもたしてると逃げられちまう!
「逃がすかッ!」
と、最初に動いたのはキャゼリーヌだった。瞬時にその左腕が砲身のような形になり、そこからビームが有翼人に向かって射出された。
だが、その至近距離からのビーム攻撃は有翼人に当たることはなかった。狙いは正確だった上に背後からの攻撃にもかかわらず、当たる直前で有翼人の男は身をひるがえしそれをかわしたのだ。おそろしく素早い身のこなしだ。反応速度もすばぬけている。
さらに有翼人は回避で崩れた体勢を一瞬で立て直し、キャゼリーヌに反撃してきた。ポンチョの下から何か発射して。
「ぐぅ!」
有翼人の唐突な謎の射撃攻撃は、キャゼリーヌの首の付け根に命中し、一瞬でその体を後ろに倒してしまった。
「へへっ、オレに射撃で勝負してくるなんて、百万年早いんだよ!」
有翼人はびしっと人差し指を立て、誇らしげに叫んだ。俺たちの目に、その顔があらわになった。
それは彫りの深い、よく整った顔立ちだった。瞳は髪と同じ茶色で、少し垂れ目で、二十代半ばくらいの甘いマスクのイケメンだった。まつ毛も長そうだ……って、あれ? あれあれ? 俺、この顔、よく知ってるんですけど?
「ヒューヴ! お前こんなところで何やってんだよ!」
そう、今俺たちの目の前にいる有翼人の男は、かつての俺、勇者アルドレイの冒険者仲間の一人だった……。
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