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その後、ザックに買った
大学の場所もすぐにわかった。なんでも、この人口約五万人の小国ベルガドでは唯一の大学だそうだ。名前もズバリ、ベルガド大学。そのまんまだ。(そもそも国として国際的に認められるための条件の一つに、大学の保有があるそうで、国と名乗っているところには最低一つは大学があるらしい。へえ)
行ってみると、さすがに国で唯一というだけにそれなりにしっかりした大学のようだった。学生も多そうだった。この感じなら、考古学者とやらもすぐに見つかるだろう……と、思ったわけなのだが、
「君たち、ここは学生と大学関係者以外立ち入り禁止だよ」
と、門のところで立っていた警備員のおっさんに俺たちは追い払われてしまった。くそう、アポなし電波少年スタイルだと門前払いかよ。
「トモキ、こういうときは門のところで目的の学者が来るのを待ち伏せするとよいのではないか?」
と、ヤギが言った。なるほど、いわゆる「出待ち」ってやつか。
「そうだな。中に入れないんじゃ、そうするしかないか」
というわけで、俺たちは門の前でそれらしい人物が来るのをひたすら待った。
が――、
「ヒマすぎるんだが!」
そう、十分待っても十五分待っても、学者らしい人間は来やしねえ。ヒマだ。ただ待っているだけというのがこんなにも苦痛だったとは。
「めんどくせえな。もうこっそり大学に忍び込もうぜ。どうせバレやしないだろ」
「そうだな、勇者様。俺たちに守るべきルールなんてないんだぜ!」
と、俺とザックは意気投合したが、
「まて、はやまるな、二人とも。見つかると余計めんどうなことになるぞ」
ヤギに止められた。くそう、やっぱり待つしかないのか……。
と、そこで、
「では、私が一人でここで見張りをしていよう。トモキどのたちは、そのあいだ、街のほうでくつろいでいるといい」
と、キャゼリーヌが言った。
「目的の人物に遭遇したらトモキどのたちに通信で知らせることにしよう。それなら、何も問題ないだろう」
「おお、そりゃ助かる!」
俺たちはその提案に飛びついた。キャゼリーヌを一人その場に残し、街のほうに戻った。向こうから通信が入るまで、適当に街を観光でもしていよう。
実際クルードの街は観光地ということもあって、時間をつぶすにはちょうどよかった。おいしそうなスイーツを売る屋台はそこかしこにあったし、ヘンテコな土産物を売る店も多かった。それらを見て回るだけでも、そして時々買い食いするだけでも、時間はどんどん過ぎていくようだった。さっきの暇すぎた時間が嘘のようだぜ。
と、そこで、とある建物の壁にこんな紙が貼ってあるのが目に留まった。見ると、
『先日、浜に現れたバルガドイルカのドクオ個体を倒された方がいるそうですね。お礼がしたいのでぜひ下記の場所にいらしてください! ベルガドの自然を愛する会より』
と、書いてあった。
「ドクオイルカのドクオ個体を倒したやつって……俺のことか?」
「そうですね。トモキ様、ここにご招待されてるみたいです」
ユリィは貼り紙の下に書かれた住所を指さした。ここからはそう遠くないようだ。
「まあ、ヒマだし行ってみるか」
お礼って書いてあるしな。あんな害獣だし、きっと地元民も迷惑してたんだろう。俺たちはそのまま貼り紙に書かれている場所に向かった。
そこは特に変わったところのない木造平屋の建物だった。表にデカデカと「ベルガドの自然を愛する会」と書かれた看板が掲げられていた。ここで間違いなさそうだ。すぐに開放されていた入り口から中に入った。
入ってすぐの場所は、広々としたエントランスホールになっていた。奥に受付カウンターらしきものがあり、青いローブを着た若い女が一人座っていた。
「おーい、俺たち、この貼り紙を見てここに来たんだけど」
と、壁からはがして持ってきた貼り紙をその女に見せた。
「ここに書いてあるベルガドイルカのドクオ個体を倒したのって実は俺たちなんだよね。だから、お礼をしてもらいに来たんだが」
俺は単刀直入に話を切り出したわけだが、
「……そうですか。あなたたちがあの子たちをやったのですね」
受付の女の反応は何やら鈍かった。貼り紙を受け取ると、俺たちの顔を何か言いたげにじっと見つめ始めた。
「そうだよ、だからご褒美くれよ」
「はい。もちろんご用意してますわ」
と、直後、女は近くに置いてあったベルをつかみ、高らかに鳴らした。
「であえー、であえー! 我らが怨敵がついに現れたぞっ!」
と、大声で叫びながら……って、なんだこの言い回し。時代劇かよ。それに、なんだかとっても不穏なセリフじゃない?
やがてすぐに、建物の奥からぞろぞろと人が出てきた。老若男女さまざまだったが、いずれも女と同じ青いローブを着ていた。
「貴様たちか! ベルガドイルカ様を傷つけた不届き者は!」
「飛んで火にいる夏の虫とはまさにこのこと!」
「大いなる自然の代行者として、我らが貴様らに天誅を下す!」
青いローブの連中は、殺意で目を冷たく光らせながら言った。
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