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 さて、そのあとの流れは当然――。


 どか! ばき! どごっ!


 と、俺はその男に殴り返したわけなのだった。予告通り。


「ぐあっ!」


 一瞬で俺にボコボコにされて男は白目をむいて倒れた。普通ならこれ以上殴っても無意味だが……無意味だが? 今日の俺は違った。なんせ、今この俺が持っている道具袋の中には、回復薬ポーションがたくさん入ってるからなァ。フフ。


「ほら、これで回復しろ」


 俺は道具袋の中から回復薬ポーションを一つ取り出し、中身を男の口に流し込んだ。たちまち男のケガは癒え、元の無傷の体に戻った。


 そして、そこで再び俺は殴るっ! 蹴る! 殴る! 普通の人間が死なない程度に手加減してあげながら!


「ぐあっ!」


 またしても白目をむいて倒れる男。そこですかさず回復薬ポーションをその口に流し込む俺。


 そして、さらに殴る! 回復! 殴る! 回復! 殴る! そう、回復薬ポーションがある限り、俺はこの男を殴り続けることができる! なんて効率的で無駄しかないコンビネーション! これが俺の「殴られたら殴り返す攻撃」だっ!


「あ、あの、トモキ様、それぐらいにしたほうが……」


 と、五本目の回復薬ポーションを男の口に突っ込んだところで、ユリィが俺の服の袖を引っ張った。


「まあ、確かに、これ以上は回復薬ポーションがもったいないか」


 俺はいったん振り上げた拳を引っ込めた。ちょうど五回目の回復を終えた男は、体を恐怖でプルプル震わせながら俺を見ていた。


「なあ、お前、他に俺に何か言うことある?」


 俺はその男の前にしゃがみこみ、真っ青になっている顔をじっと見つめながら尋ねた、


「え、いや、ないで――」

「あるだろ?」

「え」

「変な難癖付けてごめんなさい、いきなり殴ってごめんなさいって言葉がよォ? アァン?」


 角度をつけてメンチ切って言う俺だった。そうそう、ケジメって大事よね。


「あ、はい……、難癖付けたり、いきなり殴ったりしてすいやせんでした……」

「お前だけじゃない、他の連中もだっ!」


 と、俺はそこで、男の仲間たちに振り返って怒鳴った。そいつらも恐怖で顔を青ざめながら顔で俺たちを見ていた。


「お前ら、こいつが俺に殴りかかるの止めなかっただろ? つまりは連帯責任だ! とっとと俺に詫びを入れろや! 俺に殴られたくなかったらなァ!」

「あ、はい……」


 他の男たちもすぐに俺に「すいませんでした」と謝罪した。ふう、ケジメ完了か。本当は土下座でもさせたい気分だが、あいにくここは日本じゃなく異世界。土下座で謝罪する文化なんてないし、これで特別に許してやるか。俺、マジやさしー。


「うおー、さすがトモキだ。三下連中をシメるのマジかっけーな!」


 と、後ろからザックのはしゃいだ声が聞こえた。どさくさに俺のことチンピラの親玉みたいに言うのやめて。


「お、お前、いったい何者だ……」


 と、俺に何度も殴られた男が声を震わせながら尋ねてきた。


「あんな複雑な計算が一瞬でできるだけじゃなく、素材集めの腕もピカ一。おまけにめっぽうケンカも強い。どう考えてもお前、タダモノじゃねえ!」

「ああ、俺は元冒険者――」

「すごく強いのは当たり前ですよ。彼はなんせ、二つの国の武装集団を壊滅させた元死刑囚らしいですからね」


 と、また後ろから声が聞こえた。泥だらけの男たちの一人の声だった。


「も、元死刑囚だと!」


 男は再び強い恐怖を顔にあらわにした。男の仲間たちも同様だった。


「しかも二つの国の武装集団を壊滅させた、だと!」

「なんでそんなデタラメなやつがここにいるんだ!」

「お、俺たち、なんて相手にケンカ売っちまったんだろう……」


 もはや恐怖のあまり体を寄せ合う男たちだった。むさくるしいことこの上ない。


「いや、その情報は忘れてもらって構わんのだが? つか、あんま大きい声で言わないでくれる?」


 その件に関しては苦い記憶すぎて、俺としてはもう掘り起こしたくないので。黒歴史なので。


「な、なんでもします! だから俺たちのことはもう見逃してください!」


 と、男たちはそろって俺に土下座しはじめた――って、この世界にもあったよ、土下座の文化!


「なんでもする、か。じゃあ、今使った回復薬ポーションの代金ぐらいは払ってもらうか。一本五千ゴンスで、五本使ったから二万五千か」

「え、なんか店で売ってるやつより高い……」

「これは特に効果の高い回復薬ポーションなんだよ。だから値段もそれなりに高いんだ。いいから、きっちり払え!」

「あ、はい……」


 男たちは素直に俺に金を差し出した。うふふ、一本あたり二千ゴンスで買った回復薬ポーションが一本あたり五千ゴンスで売れたぞ。ちょっと儲かっちゃった、わーい。


「あ、あの、俺たちもう行ってもいいですか?」

「ああ、もう用はないし、どこにでも行け――」


 と、言いかけたところで、俺ははっと思いついた。


「そういや、お前さっき、このベルガドの地元民アピールしてたよな?」


 俺は再び殴りかかってきた男の前にしゃがみこみ、尋ねた。

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