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 その後、俺の頭の上の二人とマオシュたちとのあいさつと自己紹介は無事終わり、キャゼリーヌの左目カメラは俺のほうへ向きを戻した。


「……にしても、なんでアルたちはベルガドの祝福なんてもん、探してるん?」


 と、マオシュが尋ねてきた。ぎくっ。そのへんの事情、あんま詳しく話したくはないんだよな。ザックとキャゼリーヌには呪いのことまでは説明してないし。


「い、いやあ、そのう……男のロマンってやつだよ、はは」


 とりあえず、適当にごまかした。


「ふーん? そんな理由で得体のしれんモン探すなんて、アルもずいぶんヒマなんやなー」

「悠々自適ということだろうか」

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 マオシュたちは笑った。くそう、悪かったな。本当はめちゃくちゃ切実な理由でそんな得体の知れないもの探しててさあ!


「お前たちは何かベルガドの祝福とやらについて知らないか?」

「さあなあ? いくらワイがプリティーな上に超一流の魔化技工士やからって、専門外のことまではなあ?」

「僕も、その手のことにはうとくてね。すまない、君の力にはなれそうもない」

「そうか」


 まあ、もともとこいつらには何も期待してなかったが。


「一応、ワイたちのほうでもいろいろ調べてみるさかい、何かあったら連絡するでー」

「ああ、頼む」


 マオシュたちとの通信はそこで終わった。俺たちはその場で簡単な朝食をとり、すぐにザレの村へ向かった。


「……ところでトモキどの、さきほどの話に出ていたベルガドの祝福についてだが」


 と、ザレの村へと続く道を歩きながら、キャゼリーヌが俺に言った。


「そのようなことはやはり、このベルガドに昔から住んでいる人々に話を聞くのが一番よいと思う」

「そうだな。地元のヤツにしかわかんねえこともあるだろうしな」


 とりあえず、村に戻ったら聞き込みでも始めてみるか。トレハンである程度の金も手に入ったから、当分稼ぐ必要もないしな。


 やがて、俺たちはザレの村についた。すぐに村はずれの畑で農作業をしていた例の三人の男たちを見つけて、レジェンド・モンスターもどきを無事討伐したことを伝えた。なお、こいつらは金がないので、今はこの村の農夫の農作業を手伝って、食い物をわけてもらっているのだそうだ。


「すごいね、君たち、たった一晩であんな強そうなモンスターを倒してしまうなんて!」

「ありがとう。おかげでまたあの遺跡に行けるよ!」

「君たちは本当に、俺らの恩人だ!」


 男たちは泥だらけの手で俺の手を握って感謝してきた。いや、気持ちはありがたいが、手を洗ってからそういうことはしてほしいかなって。


「しかし、君たちは本当にすごいんだね。あの道具屋の店主に聞いたけど、毎日何百万ゴンスもの高額な素材を持ち込んでたそうじゃないか」

「まあ、俺は昔、冒険者やってたからな。こういうことは慣れてるっていうか」

「え、君、元は死刑囚じゃなかったの? 冒険者もやってたの? 見た感じすごく若いのに、経験豊富なんだね」

「お、おうよ」


 冒険者やってたのは前世ですからね。通算四十年の経験があるわけで。


 と、畑の真ん中で男たちの相手をしていたそのとき、


「お前たちか! あの道具屋の素材の買取価格を大幅に下げやがったクソ野郎は!」


 少し離れたところから怒鳴り声が聞こえてきた。見ると、数人のガタイのいい男たちが、俺たちを鬼のような形相でにらんでいた。


「なんだよ、お前たちは?」

「なんだよ、とは、なんだ! お前らのせいで、こっちは商売あがったりなんだがな!」


 ガタイのいい男たちはそのまま俺たちのほうにずかずかと歩いてきた。男たちが丹精込めて耕した畑を思いっきり踏み荒らしながら。なに、こいつら? 感じ悪ぅ。こういうときはウネの横の溝を通りなさいよね、もー。


「これを見ろ、クソ野郎!」


 ガタイのいい男たちの一人は何か手に持っていたようで、近くに来るや否や、俺の顔の前にそれを差し出した。見るとそれは、この近辺にいるモンスターのツノだった。そう、あの道具屋で素材として買い取っているはずのものだ。俺も同じものをだいぶ集めた気がする。


「これがどうしたんだよ? 素材なんだから、こんなところで振り回してないで、とっととあの道具屋で売り飛ばして来いよ」

「はあ? お前、今のこの素材の買取価格知ってて言ってるのか?」

「え、これなら、二十万ゴンスだろ。俺が売った時は確かその値段――」

「今は五万ゴンスだ!」

「え」

「どっかのアホが無駄に素材を持ち込みまくったせいで、買取価格が下がったんだよ!」


 男たちはますます憎々し気に俺をにらんだ。

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