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ただ、今のやり取りで一つだけわかったことがあった。やっぱりこの目の前にいるキャゼリーヌとかいう女は、普通の人間の体じゃないんだ。こんな重いヤギを頭に乗せても平然としていられるほどの体なんだから。さすが魔導サイボーグってわけか。
他にどんな能力があるんだろう? 俺は今のところおっぱいの感触以外、こいつのこと何も知らんしなあ。
「キャゼリーヌ、お前の体がレオとザックを頭に乗せても大丈夫なくらい頑丈なのはわかった。他に何かサイボーグらしい特技とかあるのか?」
思い切って聞いてみたら、
「ああ、いろいろ出せるぞ。機銃とか、レーザー砲とか」
あのオルトロスとかいうポンコツと装備は変わらんようだ。製造元も同じだからか。
「あと、このような機能もある」
と、キャゼリーヌはそこで左目の眼帯を外した。その下からは右目と同じ形の瞳が現れたが、瞳の色は銀色だった。そして、そこから何か光が漏れてきた。
その光はキャゼリーヌのすぐ目の前の何もない空間に、あのオルトロスの映像を投影した。なるほど、こいつの左目はプロジェクターみたいになってるのか。
「さらにこのまま、遠方と通信もできる」
「へえ、便利だな」
機銃とかよりもはるかに役に立ちそうだ。
「あ、そうだ! せっかくだし、マオシュに連絡してみてくれよ」
「そうだな。師匠にもトモキどのたちと出会ったことを話しておいた方がいいだろう」
と、キャゼリーヌはそこでいったん左目を閉じ、また開いた。おそらくそれはプロジェクターのチャンネルを切り替えるような操作だったんだろう。たちまち、目の前に投影されている映像が切り替わり、オルトロスからどこかの酒場の風景になった。
そして、その景色の中央にいるのは鎧姿の大男と銀髪のイケメンだった。マオシュとザドリーだ。二人は今、酒場のテーブルで朝食をとっているようだ。
「なんや、キャゼリーヌ? 朝っぱらからいきなり通信して来よってからに……って、アル? なんでお前がキャゼリーヌと一緒におるんや?」
鎧の大男は俺を見てぎょっとしたようだった。間違いなくこの中にあのもふもふのキツネが入ってるようだ。確か、乱獲されて絶滅寸前のレア種族だから普段は姿を隠してるんだっけ。バジリスク・クイーンとの戦いで大破したはずの鎧が何事もなかったかのように元通りになってるのは気になるところではあるが。
「トモキ、聞いたよ! 君は僕たちと別れた後、ついにあの竜を倒したそうじゃないか!」
と、鎧姿のマオシュの隣の席に座っている銀髪君は、いきなり俺を見て騒ぎ出した。そういや、こいつは俺にあの竜を倒させるためだけに、王様の操り人形のアイドルやってたんだっけ。相変わらず熱くてうざいリアクションだぜ。
「まあ、その竜を倒してからいろいろあってな、俺たち今、ベルガドの祝福ってのを探して、ここベルガドにいるんだよ」
「師匠、トモキどのとはあのオルトロスBF-N98を回収に向かっていた際に出会ってな」
と、キャゼリーヌも話に割り込んできた。
「オルトロスBF-N98も私が駆けつけたときには、すでにトモキどのが処理していた。あのアンチフィジカルバリアを素手で数十秒で破るという、鬼神のごとき戦いぶりでな。さすが伝説の勇者どのだ」
「せやろ? アルってば、ほんま、マジ強いねんでー」
と、なぜか俺のことで誇らしげに胸を張るマオシュだった。お前は何もしてないだろうがよ。
「おお、どうやら君はまた新たな強敵を倒したようだね。さすがトモキだ、すばらしい!」
ザドリーはザドリーで、事情もよく知らんくせに俺に拍手してくるのだった。お前に褒められても少しもうれしくないんだがな。
と、そこで、
「あ、ザドリーさん、マオシュさん、お久しぶりです」
ユリィも俺の隣にやってきて、二人にあいさつした。
「お-、ユリィも久しぶりやな。ちょっと見ないうちに、なーんかめっちゃべっぴんになってへん?」
「そうだね。レーナで別れたときとは見違えるようだ」
と、マオシュとザドリーはユリィをほめるが……ケモノとデブ専男の言葉じゃなあ。まあ、ユリィはそれなりに照れてはいたが。
「ああ、そうだ、せっかくだし、俺の頭の上の奴らも紹介しておくよ」
「頭の上?」
マオシュたちは首をかしげた。キャゼリーヌの左目のカメラだと俺の頭の上の様子は見切れて二人には見えてないようだ。
「師匠、こちらはカプリクルス族のレオローンどのと、ザックどのだ」
キャゼリーヌはすぐに俺の頭の上を見上げて言った。
すると、
「うわ! アル、なんで朝っぱらから頭の上にそないなもん乗せとんのや! お前アホか!」
「き、君は本当に破天荒な人物だな……」
二人に思いっきり驚かれ、呆れられてしまった。
「いや、俺だって好きでこんなの乗せてるわけじゃねえから!」
重いし! 勝手に乗られただけだし! 思わず声を荒げてしまう俺だった。
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