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俺たちは結局、そのまま寄り添って眠った。ユリィのやつは、俺の隣でめちゃくちゃ熟睡していて、俺がちょっとさわっても、ほっぺを指でつついても起きる気配はなかった。俺はやはり肩透かしを食らった気持ちになったが、これはこれで悪くない気もした。そう、ユリィのすぐそばで、その安らかな寝息を聞きながら眠るっていうのは。
やがて朝になり、俺たちはともに目を覚ました……のだが、
「お前たち、朝から何やってんだよ?」
いきなり目に飛び込んできた光景にぎょっとしてしまった。
そう、俺とユリィが起き上がって、ザック、ヤギ、キャゼリーヌのところに戻ると、そいつらはちょうど「段」になっていたのだ。キャゼリーヌの頭にヤギが乗って、さらにその背中にザックがまたがっているという……。なんだこれ? ドノヴォンの謁見の間の俺かよ。
「おお、トモキどの。おはよう。今日もよい朝だな」
キャゼリーヌは頭にヤギを乗せたまま普通に俺にあいさつしてきた。
「いや、おはようも何も。なんでお前たち、朝からこうなってるんだよ?」
「なに、レオローンどのが私の頭に登ってみたいと言うのでな」
「ああ、そうか。お前サイボーグだし、普通にヤギくらいは乗せられるか」
って、思わず納得しかかったが……いや、まだおかしいだろ、これ?
「で、一番上のやつは、なんでそんなところにいるんだよ?」
と、上をあおいでザックに尋ねると、
「べ、別に、俺だって好きでこんなところにいるわけじゃないんだからな!」
なんかツンデレの出来損ないみたいなセリフが返ってきた。つまりどういうことだよ。さっぱりわけがわからんぞ。
「トモキ、ザックは子供のころ黒い小馬を飼っていたそうだ。俺とよく似た毛並みの」
と、真ん中のヤギ助が解説し始めた。
「その小馬はやがて寿命で死んでしまったそうだが、ザックは今でも時々思い出すのだそうだ」
「あー、それでお前は、最近レオにくっついてるのか。昔飼っていたペットにそっくりだから」
「う、うっせーな!」
ザックは顔を赤くして怒鳴る。お前、ツッパリやってたくせに、まさかの動物大好きっ子かよ。
「そんで、お前はこのイキリチビを背中に乗せてやったのか」
「ああ、昔はよくその黒い小馬に乗っていたらしいからな」
「そして……そこにちょうどこの女が来て? そのまま勢いで頭に乗っちゃった?」
「ああ、そうだ、さすがトモキどの、察しがいいな!」
キャゼリーヌは大きくうなずいた。はずみで頭上のヤギも動き、ザックが「わっ!」と声を出した。
「ゆうべ、キャゼリーヌが魔導サイボーグと聞いた時から、俺はその体がどれだけ頑健なのか、とても気になっていたのだ。俺が登れるほどの強度はあるのか、と」
「……ああ、そういや、お前常に他人をそういうふうにしか見てないんだったな」
ヤギだから。登ることしか考えてないから。
「そして、今わかった! キャゼリーヌの頑健さはすばらしい! この俺が頭頂に登っても折れることはない。実にしっかりしたよい足場だ」
ヤギはキャゼリーヌの頭の上で足踏みしながら叫ぶ。
「お褒めに預かり光栄だ、レオローンどの」
そして、足場としての高評価を素直に受け止める女だった。ええんか、これで?
「しかし、同時に気づいたことがある。やはりこの頭蓋は人造のものゆえか、いささかわざとらしさがあり、足場としての流麗さ、優美さに欠けるように思う。真に俺の蹄が求める踏み心地とまで言えるほどのものではない」
「なるほど。レオローンどの、これは厳しい意見で」
なんか謎の品評会が始まったぞ?
「その点で言えば、やはりトモキ、お前の頭蓋は最高だと言えるだろう」
と、そこで急にキャゼリーヌの頭から俺の頭に飛び移ってくるヤギだった。背中のザックがまた「わっ!」と、声を出した。
「うむ、やはりよい! お前の頭蓋は頑健であると同時に飾らない素朴さがあり、何度も蹄を乗せたくなるような魅力にあふれている!」
「いや、だから重いって言ってるだろ」
褒められても全然うれしくないし! また勝手に人の頭に乗るなよな、もー。
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