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 それから、俺たちはそこでそれぞれ眠った。焚火は消したが、代わりにランタンの中にモンスター除けのお香を入れて火をつけておいた。ザレの村で買ったものだ。効果は気休め程度だが、このベルガドにはまだ凶悪なモンスターがうようよしてるようだし、念のためだ。


 肌寒いのか甘ったれなのかは知らんが、ザックは相変わらずヤギの黒い毛皮にくっついて眠っていたが、それ以外は別々に離れたところで眠った。今日はいろいろあって疲れた。横になるとすぐに眠気に襲われた。


 だが、目を閉じうとうとしていたところで、急に誰かに体を揺さぶられた。なんだろう? 目を開けると、すぐ間近にユリィの顔があった。こいつが俺を起こしたらしい。


「なんだよ、何か用かよ?」


 重いまぶたをこすりながら、ゆっくりと体を起こした。モンスターの気配は今のところ特になさそうだった。


「……ごめんなさい、トモキ様、起こしてしまって。どうしてもお話したくて」

「えっ、話?」


 瞬間、俺はどきっとした。わざわざ俺を起こしてまでこいつが話したいことって、いったいなんだろう? も、もしかして、あんなことやこんなことだったりして……はわわ、心の準備が……。


「そ、そうか。話ぐらいなら、まあ聞いてやらんこともないが……」


 俺は咳払いしながらつとめてクールに言った。


「で、なんだよ? 俺に話したいことって?」

「わたし、今日のことを謝りたいと思って」

「え? お前、俺に謝るようなこと、何かしたっけ?」

「……わたし、今日は何もお役に立てませんでした」


 ユリィはうつむき、申し訳なさそうに言った。俺はびっくりした。なんで急にこいつ、こんなこと言うんだろう?


「い、いや! 俺は別に、お前が役立たずとか全然思ってねえし、いきなりそんなこと謝られても困るんだが!」

「でも、遺跡に入ってザックさんを探すときも、モンスターに襲われたときも、私は本当にその場にいるだけで何もできませんでした。これじゃ、ただの足手まといです」

「いや、それはない――」


 と、そこで俺はその「足手まとい」という言葉にピンときた。そう、キャゼリーヌを迎え入れる時に俺はあいつに「足手まといになるなら捨てる」と言ってしまったことを。そう、ユリィが見ている前で。


 しまった、俺としたことが、なんて不用意なことを言ってしまったんだろう。あの言葉はあくまでキャゼリーヌに向けたものだったが、人一倍自分に自信がないユリィが、俺がそんなことを誰かに言っているのを聞いたら不安になるに決まってるじゃないか。バカか俺は!


「ち、違うんだ、ユリィ。お前は別に足手まといなんかじゃない!」

「でも……」

「お前はいろいろアドバイスしてくれたじゃないか。ザックが穴に落ちたときとか」

「あれは、アドバイスと言えるほどのものでは――」

「いや、あの時はほんと、めっちゃ助かった! 俺とレオじゃ、絶対に思いつかないことを言ってのけたぞ、お前は!」

「は、はあ?」


 ユリィはあいまいに首をかしげた。いくらちょろいとはいえ、さすがにこれぐらいじゃまだ納得してくれなさそうだ。


「他に、えーっと……そうそう! 俺がミミックに噛まれたとき! お前、俺のこと助けてくれたじゃないか!」

「え? 助けるも何も、あのミミックはトモキ様が倒して――」

「ち、ちがっ! 俺はあのときミミックに心を噛まれていたんだ!」

「心?」

「そうだ! ミミックを手から振り払っても、俺の心は痛みを抱えたままだった。そんな傷ついた俺の世界に、そっと舞い降りたお前の手のぬくもり。俺はそれをなんと呼べばわからず、今はただ歌うことしかできない」


 って、歌ってどうするよ、俺! テンパりすぎて、どさくさにJポップの歌詞みたいなこと口走ってんじゃねえよ、俺!


「よ、ようするに、あのときはお前のおかげで、手が痛いのが軽くなったんだよ!」

「え? わたしはただ、トモキ様の手をさわっただけですけど?」

「それでも治ったの! 痛いの痛いの飛んでけーってされた感じなの! お前にそういうふうにされて、俺はすごくありがたかったの!」


 必死に早口でまくしたてる俺だった。ユリィには、自分が役立たずとか思ってヘコんでほしくなかった。俺にとっては世界で一番、一緒にいてほしい人間だったから……。


「だ、だから、お前は俺と一緒にいていいんだよ! 役立たずでも足手まといでもないからさ!」

「……はい。ありがとうございます」


 と、そこでユリィは俺の言葉に納得したようだった。その顔から不安が消え、ほっとしたような穏やかな笑顔になった。よかったあ、また笑ってくれて。俺もつられて笑った。やっぱり、俺はこいつの、こいういうふうに笑っている顔が一番好きなんだ、えへへ。


 と、そこで、


「あ、そういえば今日も大活躍でしたね、トモキ様」


 ユリィは俺の手をそっと両手でつかみ、言った。


「あのすごく狂暴なカラクリを、たった一人で、それも素手で倒してしまうなんて。さすがトモキ様です。おつかれさまです」

「お、おう! あれぐらい、どうってことないぜ!」


 と、答えるものの、ユリィに手を握られて活躍を褒められて、俺はすごくいい気持ちだった。こんなふうにユリィに言われるんなら、毎日でもあのポンコツを倒したいもんだぜ。


「……あと、その、さっきのキャゼリーヌさんとの話なんですけど」


 と、そこで、何か急に恥ずかしそうに顔を赤らめるユリィだった。


「さっきの話って?」

「キャゼリーヌさんの胸の話です……」


 と、そう言った直後、ユリィは握った俺の手を、いきなり自分の胸に押し付けた!


 むにゅっ!


「え……」


 こ、これはいったいどういうことなの? 俺、なんでいきなりユリィのおっぱい触っちゃってるの? というか、触らされてる? なんで?


 突然のことに脳がフリーズしてしまう俺だった。

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