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「まあ、あのキツネのことは今はいい。それより、なんで貴族の別荘に売り飛ばしたはずのお掃除メカがこんなところで暴れてんだよ?」
俺は改めて、キャゼリーヌに尋ねた。
「私がこのオルトロスBF-N98を回収しにこのベルガドに来たのは、今から約一か月前、ちょうど入国制限が実施される直前のことだが、そのときにはすでにこれは売却先の貴族の別荘からなくなっていたのだ。このオルトロスBF-N98の過剰すぎるセキュリティ機能に手を持て余した別荘の管理人によって、近くの山に捨てられてしまっていてな」
「山に捨てたって……犬とか猫とかじゃねえんだから」
いや、犬とか猫とかでも捨てちゃだめだけどね。ペットも家電も最後まで大切にしましょうね?
「その話を聞いた私はすぐにオルトロスBF-N98を回収しに山に赴いたわけだが、行ってみるとすでに捨てられた場所からは消えていた。それで私は、この一か月の間、オルトロスBF-N98の行方を捜索していたわけだ」
「ふーん、こんなポンコツを一か月もねえ?」
わかったような、わからんような話だ。
「で、なんでこのポンコツは、こんなところをうろついてたんだよ?」
「……現時点ではっきりしたことは言えないが、オルトロスBF-N98はおそらくこの遺跡を人の住まいだと判断し、自らの仕事場に選んだのだと思う」
「まあ、ここも昔は人が住んでただろうしなあ。間違っちゃいないか」
一応、住人だと思われるミイラもいたしな。魔剣で斬ってきっちり成仏させたけどさ。
「ところで、勇者どのたちのほうこそ、なぜこのようなところにいるのだ?」
と、今度はキャゼリーヌが俺に尋ねてきた。
「実はだな……」
かくかくしかじか。ベルガドの祝福を求めて、とりあえずの資金稼ぎでトレハン稼業をはじめ、成り行きでボランティア討伐を引き受けここまで来たことを説明した。
「なるほど。ベルガドの祝福か。さすが伝説の勇者どのだ。世界を二度も救った上に、さらにそのような伝説の存在を追い求めるとは。なんと崇高なことだろう」
キャゼリーヌは何やらまた俺に感動したようだった。
「いや、その勇者どのって呼び方やめてくれるかな。俺、今はトモキ・ニノミヤって名前だから」
「そうだったか。失礼した、トモキどの。改めて、これからもよろしく頼む」
と、再び俺の手をがしっと握ってくるメカ女だった。相変わらずその感触はかたくて冷たい。
というか、これからもよろしく頼むって言い方は何だ? それじゃ、まるで……。
「なあ、お前、もしかして俺たちについてくる気か?」
「当然だ! 世界を二度も救った勇者どのが、さらなる壮大な目標を掲げられ邁進しているのだ。それを黙って見過ごせるわけはないだろう。ぜひ、私にも協力させてくれ!」
「い、いや、そんな急に言われても――」
「それに、ここだけの話、私はしばらくベルガドから出ることはできないのだ」
「え?」
「我が師匠に、せっかく厳しい入国制限の直前に滑り込みでベルガドに入国できたのだからしばらくは帰ってくるなと命じられてな」
「なんだそれ?」
「ベルガドにはうちの工房と取引をしている商会がいくつかある。気軽に入国できない今、おそらくは何かあった時のサポート要員としてここにとどまっておけということなのだろう」
「なるほど。機械が壊れたとき、直せるやついないと困るもんな」
つまり、こいつは歩くサポートセンターか。
「しかし、私がここに来てから一か月、いまだに商会からは何の連絡も来ない。そう、我が工房の製品は非常に優秀なので、トラブルなどめったに起きないのだ」
「いや、それはないと思いますけど?」
ついさっきまでここで暴走してたお掃除ロボいたじゃんよ?
「ゆえに、今の私はヒマだ。オルトロスBF-N98の回収任務は無事終了したにもかかわらず、工房には戻ることができず、来るはずもない連絡を待ち続けている状態だからな」
「あー、だからお前は俺たちについてくるっていう――」
「そうだ! 私は今、絶賛ヒマだからな!」
キャゼリーヌは力強くきっぱりと言い切った。
「いや、ヒマだからって理由だけで仲間になりたいって言われても、俺たちまだ会ったばかりで、お互いのことはほとんど何も知らない――」
「別にいいじゃねえか、勇者様。仲間にしても。お互いを知るのに時間は関係ねえんだ。大事なのはハートで通じ合うかってことなんだぜ?」
と、ザックがまたかっこつけながら知った風なこと言いやがる。いや、俺たちまだ、ハートで通じ合ってもないんですけど?
「わたしも、キャゼリーヌさんにご一緒してもらったほうがいいと思います。だって、あのマオシュさんのお弟子さんなんでしょう。きっとすごく頼りになると思うんです」
と、ユリィは受け入れる気マンマンだ。確かに、まったくの赤の他人でもないけどさ。
「お前はどうだ、レオ?」
「……俺はどちらでもないな。みなの意見に従うことにしよう」
ヤギのやつはこんなだし。
「僕はいいと思いますけどね、新しい旅仲間。ワクワクするじゃないですか」
「身元ははっきりしているようですしね」
と、不死族教師とクラス委員長様が言う。いや、お前らは関係ないだろ。
「まあいい。俺たちについてきたいのなら勝手にしろ。その代わり、足手まといならすぐ捨てるからな」
「そうか、ありがたい! さすが伝説の勇者どのだ、器がでかい!」
キャゼリーヌはにっこり笑い、再び俺の手を力強く握ってきた。
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