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「よし、というわけでお前らは、俺が攻撃している間、自分の身を守ることに集中していてくれ」


 俺は主にヤギとルーシアに言った。この二人の魔法があれば、ユリィは安全だろう。残り一人の不死族の男は知らん。なんか近くで涙目になって俺をうらめしそうに見てるだけだし。


「……妙な意地を張ってないで、素直に私たちの魔法に頼ればいいと思いますけど」


 と、ルーシアはいかにもイヤミったらしく俺に言ったが、


「何を言う、ルーシア。百戦錬磨のトモキが言うことだ。この役割分担は、彼なりに何か深い考えのことがあってのことだろう。今は彼を信じよう」


 ヤギがそんなルーシアに言った。おお、さすヤギ。相変わらずイケメンだな。こいつなんで美少女じゃなくて草食動物なんだろうな。


「トモキ様、無理はしないでくださいね」


 と、ユリィは俺を気遣うように言った。


「おうよ、俺に全部まかせとけ!」


 俺はユリィに勇ましく答えると、すぐにオルトロスとかいうポンコツのほうに駆けよった。早くあんなやつ片付けて、ユリィにかっこいいところを見せないとな!


 で、肝心のそのやり方だが……。


「まあ、コレはゴミだしいらんか」


 とりあえず、腰に差したままのゴミ魔剣を近くに捨てた。今は役に立たないし、邪魔だしな。できれば永遠に捨て去りたいくらいなんだが。


 そして少しばかり身軽になったところで――そのままポンコツに突っ込み、殴りかかるッ! 当然その攻撃はバリアに防がれるが、気にせず殴る! ひたすら高速で拳を前に突き出す! オラオラオラオラオラッ! 殴り続けるッ!


 やがて、俺の狙い通り、変化はすぐに現れた。


 そう、バリアが――忌々しいバリアが消えてなくなったのだ!


「ハッハー、やはり思った通りだったな! そんなバリアがいつまでも俺の攻撃に耐えられるわけがねえ! すぐにエネルギー切れになるってなあ!」


 そうそう。ついさっき、物理障壁パワーとやらがゼロになったやつが俺の近くにいたからな。この方法は簡単に思いつくってわけさあ。バリア能力があろうと、それを枯らしてしまえば何も問題なーい!


「ハイ。コノ、オルトロスBF-N98ノ、アンチフィジカルバリアハ、イッテイカイスウイジョウノ、コウゲキヲウケルト、シヨウデキナクナル、シクミデゴザイマス。コレハ、スベテノドウリョクエネルギーヲ、アンチフィジカルバリアデ、ツカイキリ、ソウサフノウニナルコトガナイヨウニトイウ、ヒトニヤサシク、ツクラレテイルガユエンデ、ゴザイマス――」

「そうか、最後の解説どうもな!」


 どがどかばきっ! バリアが切れ、ノーガードになったそのメタルボディを俺は拳で粉砕した。格闘ゲームのボーナスステージで車壊してる気分だ、ひゃっほい! よーし、無駄に回し蹴りとかキメちゃうぞ! たつまきせんぷうきゃくっ!


 やがて、俺の目の前にはかつてオルトロスと名乗っていた機械の、残骸だけが残った。ふう、解体作業終了。


 と、そのとき、


「ああ、俺のオルトロスが!」


 近くからザックが駆け寄ってきた。こいつ、目を覚ましたのか。


「何するんだよう、勇者様! ひどいじゃねえか、こんなのって!」


 ザックはオルトロスの頭の一部のパーツを抱えて、涙ぐんでいる。お気に入りのおもちゃを壊されたガキかよ、お前は。


「何するんだよ、は、こっちのセリフだ。お前なんで、こんなのにご主人様って言われてたんだよ? さっぱりわけがわからんぞ」

「こいつはずっと暗いところでさまよっていた俺を助けてくれたんだ。以来、俺のマブダチなんだ!」

「いや、不良がいい友人にめぐりあって更生したみたいな言い方じゃなくて、もっとわかりやすく具体的に言え」

「……もちろん、俺たちは、出会ってすぐに打ち解けたわけじゃない。地下一階でさまよっていた俺がこいつと出会った時、こいつは今みたいな凶暴な超アグレッシブモードで俺を敵だと思って襲い掛かってきたんだ。でも、俺が反射的に電撃を放ったら動かなくなって……」

「ああ、電撃には弱いんだったな、これは」


 というか、弱点だらけなんですけどね。


「その後は、俺がこいつのメイン回路に微弱な電気を流してハッキングして、データを書き換えて、俺たちは友達になったんだ」

「へえ、なるほど……って、なるか!」


 なんか話がいろいろおかしいんですけど! ハッキングしてデータ書き換えて友達って!


「お前、電撃魔法でメカのハッキングとかできるのかよ?」

「え? それぐらい、電撃使いなら普通にできるんじゃないか?」

「そ、そうなの?」


 この世界ではマストな技術なの? マジで?


「トモキ君、彼は魔力の強さこそそれほどでもないですが、電撃を使った細かい作業には非常に長けているということですよ」


 と、クラス委員長様が俺に言った。そういえば、電気分解とやらで回復薬ポーションをパワーアップさせてたし、こいつは、こういうテクニカルな方向に魔法を使うタイプなのか。


「俺はせいぜいこういうカラクリぐらいしか操れないけど、俺のじーちゃんはすごいんだぜ。電撃魔法で人間やモンスターの精神に干渉して操れるんだ」

「マジか。バイオハッキングってやつか」


 そういえば、人間の精神ってのは何かの電気信号のやりとりで成立してるんだっけ。だから、それと同じくらいの微弱な電気を流せば、精神を操ることも可能ってわけか。何気にすごいな、こいつの家の能力。


「……まあ、お前の能力の話はいい。メイン回路をハッキングしたんなら、こいつが何者なのかはお前わかってんだろ。説明しろ。これはいったい、なんだったんだよ?」


 俺は近くの機械の残骸を指さしながら、ザックに尋ねた。


「ああ、それは――」


 と、ザックが言いかけたその時、


「お前たち、そこを動くな!」


 と、離れたところから声がした。


 はっとしてそっちを見ると、一人の女が立っているようだった。

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