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「おい、大丈夫か!」
俺たちは足場がさらに崩れないように慎重に、ザックが落ちた穴に近づいた。上からのぞくと、穴の中は真っ暗だった。ランタンの光で照らしてみるが底はまったく見えない。けっこうな深さのようだ。スペランカー先生なら余裕で死んでそうな。
「おーい、生きてるかー!」
とりあえず、穴の下に向かって声をかけてみた。
すると、
「い、いてて……」
暗がりの向こうからザックのうめき声が聞こえた。死んではいないようだ。まあ、こいつはチビだし、落下の衝撃も軽いか。
「おい、ザック。そこから俺たちのところに帰って来れそうか?」
「む、無理だ。俺としたことが、今ので膝をやられた……」
なんか歴戦の戦士が負傷したみたいな口調で言いやがるザックだった。お前、単に穴に落ちただけだからね。
「あと、腕ももう上がらねえ。腰もガタがきちまってる。この俺が、もはやロクに動けねえデクになっちまった。とんだお笑い草だぜ、フフ……いててっ!」
と、かっこつけながら、唐突に素に戻って痛がるイキリチビだった。ケガしてるくせに、めんどくせえやつだな。
「トモキ様、ここからザックさんに
と、ユリィが俺に言った。
「ロープに
「ああ、そうだな。ちょうど村で
俺としては、ユリィが怪我したときのために用意したつもりだったんだがな。いきなりあいつに使うのかよ。まあ、たかが穴に落ちたぐらいでズタボロみたいだししゃーないか。あいつに何かあったらエリーに怒られそうだしな。
「おい、ザック。今からそっちに
「あ、ありがてえ……」
と、返事ですらいちいちかっこつけているザック氏であった。
俺はすぐに道具屋で買ってきたロープと
「じゃあ、行くぞー」
俺はそのまま穴の中にゆっくりとロープを垂らして行った。
やがてすぐにロープの先端の
そして、
「ふう。この俺も休んでばかりはいられねえってことか」
と、またかっこつけのセリフが聞こえてきた。まあ、今度は痛がってないようだが。無事に
「ザック、お前のいる場所ってもしかして遺跡の地下の階層か?」
「ああ、そんなような感じだぜ。暗くてよくわからねえが、俺の周りにも空間が広がっているみたいだ」
なるほど。この穴は遺跡の一階から地下までぶち抜いてるわけか。
「よし、じゃあ、このままお前を引き上げるから、そのロープをしっかり握ってろ」
「ああ」
と、ザックは返事し、ロープをつかんで軽く引っ張った。
だが、そのとき、下の暗闇の中からグルルッという何かの鳴き声が聞こえてきた。
「うわああっ」
とたんにザックは悲鳴を上げ、すぐにどこかに走り去ったようだった。
「お、おい! どうした! 戻ってこい、ザック!」
あわてて下に呼び掛けてみたが、返事がない。俺たちの足元からは完全にその気配が消えたようだった。
「あいつ、灯りも持たずに遺跡の奥に行っちまったぞ」
やべえな。早いところあいつを見つけないと危険だ。なんか変な鳴き声も聞こえてきたし。
「ユリィ、レオ。俺はちょっと地下まで行って、あいつを回収してくる。お前たちは外で待ってろ。遺跡の中は危険みたいだからな」
俺はとっさに二人にそう言うと、ただちにその穴へと飛び込……もうとしたが、その直前ではっと気づいた。そうだ、ここで俺が一人で遺跡の中に入って行ったら、ユリィとヤギはまた二人きりになるじゃん。ユリィのヤギへの好感度がまた上がってしまうかもしれんじゃん? 俺はそれを阻止するためだけにあのイキリチビを仲間に入れたっていうのにさ、そのイキリチビを探しに行くためにまたユリィとヤギを二人きりにするとか、本末転倒もいいところじゃんよ?
こ、ここはやはり、何か適当な口実を作って、みんなで遺跡の中に行くことにしなければ……と、俺が考え始めた直後、
「いや、ここは全員でザックを探しに行ったほうがいいだろう」
ヤギのやつが俺が言いたいことを先回りして言ってくれたあ!
「トモキ、お前は今、遺跡の中は危険だと言ったが、俺はむしろこの場で仲間が離れ離れになるほうが危険だと思う。ここにはレジェンド・モンスターらしきものが潜んでいるそうだからな」
そうそう! こういうセリフを待ってたんだよ!
「なるほど、言われてみればそうだな。俺としたことが、うっかりしてたぜ」
と、いかにもヤギに言われて初めて気づいたふうを装う俺だった。内心はヤギへの感謝の気持ちでいっぱいだったが。
「わたしも、レオローンさんの意見に賛成です。今ここでトモキ様と離れてしまうのは、その、心細いです」
ユリィはちょっとモジモジしながら俺に言った。そうかあ、俺と離れるのは心細いかあ。えへへ。
「よーし、じゃあ、三人で地下に行ってザックを探そう!」
俺たちはいったん穴から離れ、地下に通じる階段を探すため遺跡の奥へと進んだ。
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