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 遺跡の奥に進んでいくと、俺たちはやがてすぐに地下へと降りる階段を見つけた。それほどめんどくさい構造の建物じゃなさそうだ。ただ、真っ暗なのでランタンの光で足元を照らしながらゆっくりと階段を降りた。また崩れたら困るしな。


 遺跡の地下は、一階に比べると空気がひんやりしていた。さらに、どこか不穏な気配も感じられた。たぶん、レジェンド以外にもそれなりにモンスターが出るところなんだろう。冒険者時代によく潜ったダンジョンと同じ感じがする。


「こんなところを一人でさまよって、ザックは大丈夫だろうか」


 ヤギも俺と同じようにモンスターがいそうな気配を感じたようだった。まあ、こいつもモンスターだしな。


「まあ、あいつも電撃の魔法は使えるし、自分の身を守るくらいはできるだろ」


 そうそう、確かあいつ、魔術の実技のテストでちゃんと的の紙に電撃当ててたからな。あの感じなら、魔法を使えばそれなりに戦えるはず。


 ただ、メンタルと身体能力がゴミカスなのが気になるところだが。特にメンタル。なんせ、母親のことママって呼んじゃう甘ったれのボンボンだからな。


「でも、ここにはレジェンド・モンスターが潜んでいるんでしょう? 一刻も早くザックさんを見つけないと、危険です」


 ユリィが言った。確かにな。たとえ最低ランクのノーブルでも、あいつがかなう相手じゃない。遭遇したら即お陀仏だ。


 俺たちはすぐにそこから歩き出した。ザックの名前を大きな声で呼びながら。しかし、いっこうに返事はなかった。あいつ、どこまで行ったんだ?


「……トモキ、やはりここは危険な場所のようだな」


 と、歩きながら、ふとヤギが言った。


「それが男たちの言っていたレジェンド・モンスターとやらかはわからんが、先ほどからとても禍々しい気配を感じる。この俺の、真ん中のツノがうずくのだ。ここにいる、邪悪なるものを滅せよと」


 そういや、こいつの頭の中心のツノは、並みの不死族なら一撃で浄化できるくらいの聖なる攻撃力があるんだったな。


「この気配は、おそらく夜に力を増すタイプの闇の魔物だろう。しかも、もうすでに俺たちとはそう遠くないところにいるようだぞ」

「え、そんなのわかるのかよ」


 こいつも妖怪アンテナ搭載だったか……と、そこで俺ははっと気づいた。そういえば俺、高性能の妖怪アンテナ持ってたじゃん!


「おい、ネム。俺たちの近くにレジェンドがいるって本当かよ?」


 俺は腰に差しているゴミ魔剣に尋ねた。


『ア、ハイ。いることはいるっすネー』

「マジか」


 あの男たちの話は見間違いとかじゃなかったんだな。


「じゃあ、ザックが出くわすより先に、俺がそいつを倒すから、どこにいるか言えよ」

『エー、アレ倒すんですか? ワタシ的にはマジノーサンキューですケド?』


 と、大好物のレジェンドがいるはずなのに、なぜかめっちゃ及び腰のゴミ魔剣だった。


「いいから、レジェンドの場所を教えろ!」

『ア、ハイー。上上下下左右左右――』

「適当にゲームの裏技のコマンド言ってんじゃねえ! 早くレジェンドの場所を言え!」

『チッ、めんどくせーですネー。マスターから見て三時の方向に直進して30mの距離ですヨ』

「そうか、ここから三時の方向に突き進めばいいのか」


 ようは右だな。俺はすぐにそっちに向きを変え、走り出した。


 そして、直後、壁にぶつかった。


「ちょ、途中に壁があるのかよ!」


 めんどくせえ。レジェンドに逃げられても困るし、壁を拳でぶっこわしてそのまま直進した。人の命がかかってるんだし、これぐらいの破壊活動、別にいいだろ。この遺跡の学術的価値とか知らん。


 やがて俺は、広間のような場所に出た。暗くてよくわからんが、ぼろぼろの石像が並んでいるようだ。


 そして、その石像の一つの近くに、何やらうごめいている影があった。


「あれか!」


 俺はゴミ魔剣を鞘から抜き、すぐにそっちに駆け寄った。


 と、そこで、


「あれ? どうしてトモキ君がこんなところに?」


 その影がこっちに気づいて言った。聞き覚えのある声だった。それが誰なのか俺は瞬時にわかった――いや、わからん! ここにいるのは、間違いなく邪悪なレジェンド・モンスター! 断じて俺の知り合いなどではない! 今すぐ俺がこの手で倒さないといけない相手のはずなんだ!


「うおおお、滅びろ邪悪の権化!」


 スパスパッ! 瞬時にゴミ魔剣でその長身の男の体をバラバラにしてやった! よし、邪悪は滅びた! 俺はレジェンドに勝った! 討伐クエスト完了!


 と、まあ、そんなはずもなく……。


「なんでいきなり斬りつけるんですか、トモキ君。痛いじゃないですか」


 その男はすぐに体を元通りに再生させ、俺に文句を言うのだった。


「いやー、悪い。お前だって気づかなかったわ。すまんすまん」


 俺はテヘペロしながら、適当に答えた。本当は直前で気づいたけど、相手がこいつならむしろっちゃえ☆って気持ちにしかならなかったんだよな。まあ、れてないけど。


 そう、今俺の目の前にいるのは、あの邪悪なる不死族の男、リュクサンドールだった。

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