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 ただ、そのツッパリ少年の外見は学院で見かけたときとはいくらか変わっていた。まず髪型。ツーブロックの不良ヘアーだったはずだが、今は普通の短髪になっている。また、着ている制服も不良っぽく改造されたものではなく普通だ。まあ、今は上着は着ていないようだが。


 なんだこいつ? 不良やめたのかよ?


「おい、どうしてお前はこんなところで倒れてるんだよ?」


 死んではなさそうだったので、とりあえず、その体を揺さぶった。


「う、うーん……」


 ただ気絶していただけらしい。ザックはすぐに目を開け、起き上がった。


 そして、俺たちを見るなり、


「うわあっ、勇者様とヤギの化け物がいるっ!」


 と、ぎょっとして飛び上がった。ヤギの化け物ってのはレオのことか。確かにでかいし、ツノが多いし、化け物風ではあるが。


 しかし、レオだけではなく俺にもびびってんじゃねえよ。俺、化け物と同じ扱いかよ。


「おい、お前は何でこんなところで寝ているんだ?」

「ね、寝てたわけじゃない! 野営してただけだぜ!」

「ふーん? こんな道の真ん中で?」


 あからさまな嘘すぎて俺は鼻で笑った。見ると、ザックの額にはたんこぶができていた。


「お前、ここで転んで頭を打って気絶してただけだろ。おおかた、イノシシか何かに追われて」

「う……」


 ザックはいかにも図星をつかれたという顔ををした。この様子じゃ、たぶんイノシシの部分もあってんだろうな。このへんイノシシ出るみたいだしな。


「まあ、お前がここで野営してようと気絶してようとどうでもいい。それより、なんでお前は一人でこんなところにいるんだよ? 今はまだ修学旅行中のはずだろ? まさか昨日の自由行動のときに迷子になったのかよ?」

「迷子? はっ、バカ言ってもらっちゃ困るぜ。男ってのは、常に人生という道に迷っているもんだぜ?」

「いや、ポエムはいいから、わかりやすく本当のことを言え」

「ようするに俺は見限ってやったのさ。学び舎という名の、ぬるま湯のような甘っちょろい世界をな!」

「なるほど。お前、学院がいやになって修学旅行を抜け出してきたのか。クラスの連中にいじめられでもしたのか?」

「し、してない! 俺は常に孤高の一匹オオカミ! 近づくものは容赦なくボコるんだぜ! だから誰も俺に近づかないし、いじめもしない!」

「ただのぼっちじゃねえか」


 まあ、クラスで浮いてる理由は大いにわかるが。


「でも、お前、髪型とか制服はまともになってんじゃねえか。何が孤高の一匹オオカミだよ」

「こ、これはその、ママに強引に変えさせられて……」

「ママ? お前、自分の母親のことママって呼んでるの?」

「ち、ちがっ! 普段はおふくろって呼んでるに決まってるだろ!」


 ザックは顔を真っ赤にして怒鳴った。


「いや、お前、今あきらかに素だったじゃん。本当は母親のことをママって呼ぶようなおこちゃまな性格なんだろ? それで無理して不良キャラ作ってるだけじゃん」


 俺はゲラゲラ笑った。ようするにこいつ、ただイキってるだけのガキじゃんよー。


「う、うるさい! 勇者様に俺の何がわかるっていうんだ!」


 ザックはますます顔を赤くして、拳を振り上げ怒鳴り散らす。うむ、リアクションも完全に子供だ。


「ザック、あまりトモキの言葉を気にしないほうがいい。母親をどういふうに呼ぶかは、人それぞれの自由だ」


 と、ヤギがフォローするようにザックに言ったが、


「うわあっ、ヤギの化け物がしゃべった!」


 またしてもぎょっとして飛び上がるザックだった。まあ、当然のリアクションか。


「ザック、こいつは俺のルームメイトのレオだぜ」

「レオ? 嘘だろ、どう見てもヤギ――」

「ヤギではない。カプリクルス族だ」


 ヤギは何やら鼻息を荒げてザックの言葉を否定した。いや、どう見てもヤギの仲間だろ、お前。


「カプリクルス族ってのはモンスターの一種でな、幻術が使えるらしい。それでこいつは、学院にいる間は人間に成りすましてたんだぜ」

「なん……だと……。今まで俺が見ていたレオは偽りの姿だったというのか!」


 と、鏡花水月のネタバラシをされた人みたいに愕然とするザック氏であった。


「いやでも、いきなりそんなこと言われても信じられるわけ――」

「ならば、今ここで幻術を使ってみよう。俺の姿をよく見るがいい、ザック」


 と、ヤギは瞬間、幻術で姿を変えたらしかった。(まあ、俺にはヤギのままにしか見えんのだが)


 そして、


「うわあっ、本当にヤギの化け物がレオの姿に!」


 再び驚き、今度はのけぞってしりもちをつくザックであった。俺、さっきからこいつの驚いている顔ばかり見ている気がする。

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