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その後、俺たちはそのままそこで一晩過ごすことにした。
相変わらずユリィの寝つきはすこぶるよかった。夕食をすませると、すぐに眠ってしまった。
……のはいいのだが、よりによってヤギに思いっきり体を寄せる形で、だった。
ぐぬぬ、やはりユリィのやつ、こいつには完全に心を許しているのか。ヤギだからか? もふもふの動物だからか? それともイケメンだからか? 俺はその光景にやきもきせずにはいられなかった。
ただ、南国風とはいえベルガドの夜はそれなりに冷えるわけで、そういうふうに寝たほうが断然あったかそうでもあった。見ていると、次第に俺もヤギの毛皮に身を寄せて寝たくなってきた。
そう、その毛皮には一度お世話になったからな。ハシュシ風邪でぶっ倒れたときに。あれは本当にありがたかったし、毛皮の感触はあったかくて寝心地よかったなあ……。
「レオ、ちょっといいか」
うーん、やっぱもう辛抱たまらん。俺は立ち上がり、欲望を押さえきれなくなった潮騒の主人公のように焚火をまたいでヤギたちのすぐそばまで行った。そして、すかさずその黒い毛皮に覆いかぶさった。
たちまち俺をつつむ、もふもふのやさしい感触……。
「おお……」
やっぱええな! あったけえな! ちょっと土のにおいするところもええな!
「なんだ、お前も俺の毛皮であたたまりたかったのか?」
「ああ、このまま一晩頼む」
「別に構わんが」
ヤギは相変わらずイケメンだった。まるで大地のようにどっしりと構え、ユリィだけではなく俺も受け入れてくれた。さすヤギ。遠慮なくもふもふした。
しかも、その体勢だとユリィともいい感じに体が触れてお得だった。気持ちいいもふもふの中に、ユリィのぬくもりがあるのだ。なんという幸せな感覚。
いや、しかし、この心地よさに耽溺しているばかりではだめだ……。
ヤギの毛皮の上でまどろみながら、俺は必死に考えた。そう、この魔性のもふもふにいつユリィが完オチするとも限らない。そうならないうちに、やはり新しい仲間を、だな。
ただ、仲間と言っても誰でもいいわけじゃない。ユリィにとっては害のない人間じゃないと困るからな。できれば顔見知りがいいな。そんでもって、適度にザコいやつ。変に有能だとユリィが心惹かれてしまうかもしれないからな。かといって完全に役立たずでも困るかな。ドラクエで例えるなら、クリフトとかクロコダインとかそういう感じのやつ。それぐらいが俺の求めるちょうどいい感じの仲間なんだ。いきなりアリーナとか来られても困るんよ。あ、もちろんテリーやヒュンケルみたいな顔がいいだけのカマセ犬は論外な?
ああでも、そんな「ちょうどいい感じの仲間」なんて、そうそう見つかるはずがないよな……。うーん……。
やがてそんなこんなで夜は明け、俺たちはいったん集めた素材を持ってザレの村に帰ることにした。そこでこの素材を金に換えるのだ。
だが、そんふうにザレの村へと通じる森の小道を歩いていると、途中で子供が一人倒れているのが目に留まった。なんだろう。俺たちはあわててその子供に駆け寄った。
「おい、大丈夫か……って、お前は!」
瞬間、俺はびっくりした。遠目には子供が倒れているようにしか見えなかったが、よく見るとそれは子供ではなく小柄な少年だった。しかも、俺の知っている顔だった。
そう、倒れていたのはあのザックとかいうツッパリ少年だった。
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