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 さて、すべての採取クエストを引き受けた俺たちだったが、当然たった三人でいきなり買い取り対象の素材のすべてをゲットできるわけはなく、まずはチームを二つにわけて行動することにした。


 そう、ユリィとヤギには近くの沼で採取活動してもらい、俺は近隣の森で素材をドロップするモンスターどもを片付けていく。これなら効率がいいし、何よりユリィは比較的安全と言われた場所でボディーガードのヤギと一緒なわけで、身の危険がない。うむ、我ながら実にナイスな役割分担だ。そのへんのザコモンスターを狩るのなんて、俺一人で十分だしな。


 まあ、正確には俺は一人ではなかったが。モンスター狩りには当然例のゴミ魔剣を使ったわけなのだし。


 ただそのゴミ、今回の仕事に関しては妙に使えるヤツだった。そもそもモンスターを捕食対象にしているモンスターなせいか、狙っているモンスターがどのへんにいるのか、おおよそわかるらしいのだ。まるで妖怪アンテナだ。おかげでモンスター狩りの効率は非常によかった。


 しかも、モンスターを食べるにあたっては、買取素材(ツノとか毛皮とか)だけは食べずに残せるテクニシャンだった。おかげで倒したモンスターをいちいち解体する手間がはぶけた。


「ネム、お前トレハンに超使えるヤツだったんだな!」


 さすがにこの万能高機能っぷりには褒めずにはいられなかった。まるで通販番組の高枝切りバサミぐらいの便利さじゃないの?


『イエイエ、ワタシは久しぶりに天然モノのモンスターがたらふく食えてめっちゃハッピーですし?』

「ああ、そういえばそうだったな」


 ドノヴォンではこいつの苦手な味の魔改造モンスターしか相手にしてなかったっけ。こいつにしてみれば、あの暴マー以来のまともな食事ってわけか。


 やがて日も暮れかけ、買い取り対象の素材を大量にゲットした俺は、それをかついでホクホク気分で沼に戻った。久しぶりのモンスター退治、楽しかったあ。やっぱり俺ってばこういうの向いてるほうなんだな、えへへ。


 俺が沼の近くまで帰った時には、すでにあたりは暗くなっていて、ユリィとヤギは少し開けた場所で火を焚いて俺の帰りを待っていた。


 まあ、それはいいのだが……ユリィのやつ、俺がそこに戻った時には寝ていやがった。しかも、ヤギにもたれかかって。そのもふもふの黒い毛皮に顔を思いっきりうずめて。おっぱいも当然そこに当たってたりして。


 こ、この光景はもしや、美女と野獣というやつでは……。


 俺は瞬間、はっと気づいた。トレハンに夢中でまったく考えていなかったが、今日は何気にユリィはこのヤギと二人きりだったわけだ。俺にはヤギにしか見えていないが、ユリィには少し前まではイケメンにしか見えていなかったはず。いや、実際ヤギのやつ、性格はイケメンだよな。そ、そのイケメン野獣とユリィは今日は一日ずっと一緒で、今やこんなにも身も心も許している状態だ。それって俺として由々しきことじゃないか!


「……お前ってさ、ザレの村を出てからも、例の幻術は使ってるの?」


 とりあえず、目の前の野獣に尋ねずにはいられなかった。


「いや、ユリィと二人でいるときは、幻術は使ってないが」

「そ、そうか! そうだよな、必要ないもんな!」


 俺はほっとした。よかった、ユリィが今日ずっと一緒にいたのがイケメンじゃなくて、こんなケモノで。


 いやでも、実はケモノだったイケメンというのは、何気に女子の大好物なのでは? 昔からそういうケモケモしいイケメンと人間の女の恋の物語はあるしなあ。


 と、そのとき、ヤギにもたれかかって寝ていたユリィが目を覚ました。


「あ、トモキ様、戻ってらしたんですね。おかえりなさい」


 ユリィは俺の姿を見ると、すぐにやさしい笑顔で言った。


 ユリィが俺に対して「おかえりなさい」ですって! 俺はたちまちその言葉に胸がキュンとした。まるで俺の奥さんじゃないか、ユリィ……。


「お、おう、ただいま……」


 まあ、そんな感情を表に出せるわけもなく、適当にそう答えて、背中の戦利品を近くに置いて腰を落とした。


 すると、


「わあ、すごいです! 今日だけでそんなに貴重な素材を集めるなんて!」


 ユリィはそれを見て、はしゃいだ。


「もしかして、今日はずっとモンスターと戦ってばっかりだったんですか?」

「まあな」

「それは大変な一日でしたね、トモキ様。お疲れさまです。どこかお怪我はしてないですか?」


 ユリィは立ち上がり、俺のすぐそばまでやってきて、俺の顔をじっと見つめた。焚火の光が、その整ったかわいらしい顔をおぼろに照らしている。


「だ、大丈夫だよ! 俺を誰だと思ってるんだよ!」


 ユリィにこんなふうに心配されるのは久しぶりだったので、また顔が熱くなってしまった。


「ああ、そうですね。わたしったら、すごく失礼なことを聞いてしまいました。トモキ様なら、どんなモンスターも相手にならないはずですよね」


 ユリィはそんな俺の反応に、また笑った。


「お前のほうこそ、どうだったんだよ。ここで何か収穫あったのか?」

「はい。わたしはあまりお役に立てなかったんですけど、レオローンさんがすごいんですよ。植物のことにとても詳しくて、貴重な薬草やキノコを次から次に見つけてしまいました」


 ユリィも近くに置いてあった素材の山を俺に見せつけた。確かに、こっちも大収穫のようだ。ユリィも喜んでいるし、いいことだ。


 しかし、ユリィがヤギのことを褒めているのは、やはり気になるところではある……。


「あと、わたしがイノシシに襲われたときも、レオローンさんが守ってくれたんです」


 なんと、そんな胸キュンイベントもあったらしい! おのれ、ヤギ! 俺を差し置いて、ユリィを凶悪な野獣から守ってんじゃねえ! それ、俺の役目だから!


 ま、まずいな……。明日からもこんな感じでトレハンする予定だけど、これではユリィがヤギになびいてしまう。二人きりでずっと一緒にいるのがアカン。かといって、明日から急に三人一緒で行動しようって言うのも不自然だし効率落ちるし。


 やっぱりここはだな……。


「新しい仲間が必要だな」


 うむ、そうだ。ユリィがヤギと二人きりにならなければ、俺のこんなもやもやした気持ちもなくなるはず。


「ああ、そうですね。三人だけだと、ちょっと心もとないですよね」

「確かに人手はあったほうがいいだろうな」


 と、ユリィたちは俺の言葉にうなずいた。しかし、ユリィはともかく、人ではないヤギのお前が人手って言うなよな、もー。

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