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「そ、そんなこと急に言われても……」


 ユリィはやはり強い戸惑いをあらわにしている。さらに攻める必要があるようだ。


「俺を見ろ、ユリィ!」


 俺はユリィから手を放し、上体をそらして胸を前に突き出した。


「俺はこんなにも堂々と胸をさらしている! そして、お前はそれを堂々と見ている! そういう当たり前の喜びをお前にも味わってほしいんだよ!」


 俺は男らしく叫ぶと、そのまま両手で左右の乳首をつまみ、前に引っ張った。


「ほら、ここに! 俺のがあるでしょう! お前にも見えてるでしょう! これはいったいなんだ? 答えてみろ、ユリィ!」

「そ、それはその……トモキ様の……」


 ユリィは恥ずかしがってその部分の名前を言うのをためらっているようだ。俺はその体勢のままさらにユリィに近づき、「さあここの名前を言ってごらん!」と再び詰め寄った。


「は、はい。そこにあるのは、トモキ様のち、乳首です……」

「言えたじゃねえか」


 俺はとたんに胸がキュンと高鳴った。ユリィってば、なんて恥ずかしそうに俺のこの部分の名前を言うんだろう。そんな顔されると、俺としてはすごく感じてくるじゃないか!


 よし、ここはさらに攻めて――。


「じゃあ、ユリィ。聞かせてくれ。俺のこの乳首の感想を!」

「えっ、感想?」

「そうだよ。色とか形とか、じっくり見て品評してくれ!」


 俺はいっそう胸を突き出し、いっそう乳首をひっぱりながらユリィに尋ねた。


「え、いや、その……品評って言われても……」

「さあ! さあ!」

「はい……トモキ様のち、乳首は、ピンク色ですごくきれいです……」

「は、はううっ!」


 瞬間、興奮のあまり変な声が口から出ちゃった俺だった。


 はわわ、ユリィに、俺のこの部分をすごくきれいだって言われちゃったぞ! それもそんな恥ずかしそうな顔で……いいじゃないか! 体の芯から高ぶってくるじゃないか、フォオオオッ!


「も、もっかい感想言ってみて?」

「え?」

「今と同じこと、もう一回! お願い!」


 さらに乳首を前に引っ張りながら懇願した。


「え、あ、はい……トモキ様のち、乳首は、ピンク色ですごくきれいです……」

「きゅ、きゅううんっ!」


 もはや胸の高まりが擬音となって口から漏れてしまう俺だった。


 いい! やっぱり素晴らしいよ、この子! 俺のこの部分をそんなふうに言うなんて! しかも二回も! たまんないわよ、感じてくるじゃないの、あっは!


 いや、しかし、どんなに素晴らしい体験だろうと、こんなところで満足してとどまっていてはだめだ。俺はまだ、おっぱいという山の頂はおろか、ふもとにも到達していないのだから。そう、そこに山があるから登る、目の前におっぱいがあるから攻略する! それが男ってもんだろうがよ!


「ユリィ、ありがとう。お前に乳首を褒めてもらって俺もうれしいよ」


 俺は乳首から手を放し、きわめて紳士然と言った。


「ただ、やはり俺の乳首だけ一方的に褒められるというのも、不平等だ。俺も、お前の乳首を見て、品評し、褒めたい!」

「えっ」


 ユリィはとっさに胸を手でおおい、俺から離れてしまった。


「い、いや、あの、それはちょっと――」

「さっきも言っただろう! 人類はみな平等なんだよ! 男も女も違いはないんだ! 右の乳首をつままれたら、左の乳首をつまんでやれって、俺がいた地球の聖書にも書いてあったし?」


 平等という圧倒的なパワーワードで、俺は防御態勢のユリィを攻める!


「それに、俺にとっては女の乳首なんて、全然いやらしいものでもないんだよ。日本だと、そこらじゅうで見放題だったからね。見慣れたものなんだよ」


 まあ、ネットの中の話なんですけどね。


「お前はつい今、俺の乳首を見て、褒めただろう。俺はそれがとてもうれしかった。だから、お前にも同じ喜びを味わってほしいだけなんだよ!」


 まあ、お前の乳首を見たいだけなんだけどね。


「そ、そうなんですか……」


 と、ユリィはそこで俺の言葉に揺さぶられたように、胸の前から腕をどけ、防御態勢をといた。


「わかりました。すごく恥ずかしいですけど、そういうことでしたら……」


 おおおっ! やっぱこの子、ちょろいよ! こんな屁理屈でもゴリ押しすればおっぱい見せてくれるって言うんだからさあ! うひょー! おっぱい、おっぱい!


 だが、そんな歓喜に満たされた直後、俺の脳内にこんな声が響いてきた。


『……マス……タァ……呪い……呪いヲ……』


 それは例のゴミ魔剣の声だった。ホテルの部屋に置いてきたはずだったが、おそらくそっから俺の脳内に怪電波を飛ばしてきやがったのだ。


 そして、その声に俺は冷や水を浴びせられた気持ちになった。そうだ、思い出した、俺ってば、幸せになると死ぬ呪いにかかっていた。それなのに、今ここで、ユリィのおっぱいを見て幸せになったら大変じゃないか! 俺氏、マジでそろそろ死んでしまうかも!


「わ、悪い、ユリィ。やっぱ今のはナシでいいよ」


 俺は断腸の思いで、水着を脱ぎかけているユリィに声をかけ、止めた。


「今のはナシって?」

「いや、女性のおっぱ、胸は、やっぱりそんなに人に見せていいものでもないかなって」

「え、でも、トモキ様のいた日本という国では――」

「いいんだよ、あっちの世界の話は! よそはよそ、うちはうち! わがまま言うんじゃありません!」

「は、はあ……」


 ユリィは瞬間、きょとんとして目を丸くした。


 そして直後、笑った。とてもおかしそうに。


「そうですね。やっぱりこういうのはすごく恥ずかしいですよね」

「そ、そうね」


 俺もつられて笑った。その子供みたいな無邪気な笑顔を見ていると、煩悩が体から抜けていくようだった。

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