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 それから、俺たちはその場にしゃがみ込み、休憩をとることにした。日の当たらない物陰で、地面には苔が生えており、ふかふかだった。天然のカーペットか。


「実は、この水着をいただいたときにルーシアさんにお願いされたことがあったんですけど、それはさすがに恥ずかしくてできなかったです」


 ふと、ユリィは思い出したように言った。


「恥ずかしいことって、いったい何を頼まれたんだよ?」

「リュクサンドール先生に見せてほしいということでした」

「何を?」

「そ、その……わたしとトモキ様が仲良くしているところを」


 ユリィは照れ臭そうに目をそらしながら言う。


 だが、俺にはなんのことやらさっぱりわからない話だった。


「なんであの女、そんなことをお前に頼んだんだよ?」

「きっと、ルーシアさんは先生に、恋愛意識に目覚めてほしいんだと思います」

「恋愛……意識?」


 あの男からは最もかけ離れた言葉のように思えるんだが?


「ルーシアさんは先生のことをすごくお慕いしているみたいですけど、先生はあんなふうに、毎日呪術のことで頭がいっぱいで、ルーシアさんのお気持ちには気づいてない様子でしょう? だから、ルーシアさんとしては、少しでも先生にそういうことを考えてほしいんだと思います」

「なるほど、それなら一応話は分かるが……」


 わかるが? あの女、俺たちにあの男の情操教育をさせる気だったのかよ。誰がやっても無理だろ、その役目。年端も行かない子供に性教育するのとは全然違うんだぞ。もういい歳のおっさんだぞ、あれ。


「わたし、その頼みごとはちゃんとお引き受けしたつもりだったんです。でも、実際やろうとするとすごく恥ずかしくて……今日まで一度もできませんでした。ルーシアさんには悪いことをしてしまいました」

「いや、やらなくても別にいいだろ」


 本気でしょんぼりしてそうなユリィに俺は笑った。


 ただ、よくその姿勢を見ると、ユリィは苔の上で体操座りする形で膝を抱えていたが、そのせいで膝頭に押し付けられた二つの乳がいい感じにつぶれて魅惑的な谷間を深めているようだった。こ、この乳ともっと仲良くするべきじゃないか、俺は……ごくり。


「ま、まあでも、今回は失敗でも、次に似たようなお願いをされたときのために練習はしておいたほうがいいかもな?」


 乳と親睦を深めたくなった俺は、気が付くとこんなことを口走っていた。


「練習って?」

「そりゃあもちろん、俺たちが仲良くする練習だよ!」

「え、練習でそんな……」


 ユリィはたちまち顔を真っ赤にした。恥ずかしいんだな。わかるわかる。俺も正直、自分でも何言ってんだコイツ?とか思ってるくらい恥ずかしいしな。


 しかし、ここで引いてはだめだ! 俺はもっとその乳と仲良くしたいんだから!


「いいから、練習しようぜ! 人生何が起こるわからないんだからさ! 何事も練習しておいた方がいいんだぜ!」

「は、はい……」


 ユリィはそこで、防御の姿勢を崩すように、体操座り状態から膝を寝かせ、お姉さん座りの格好になった。膝頭の圧迫から解放された瞬間、その二つの乳はぷるっと震えた。素晴らしい動きだ!


「じゃ、じゃあ、まずはこういう感じで……」


 俺はそのままユリィにいざりより、その肩に腕を回して抱き寄せた。おおおっ、ユリィのぬくもりが肌に直接伝わってきて、とてもいい気持ちだ!


 しかし、その姿勢では乳はまだ遠い。俺はさらに腕に力を入れ、ユリィを胸に抱き寄せた。これならどうだ!


 瞬間――二つのふくらみが俺の胸の上ではずんだ!


「ふぉおおおおっ!」


 思わず、パンティを顔に装着した変態仮面みたいな声が口からもれてしまう。なんという、甘美な感触! 女の子のおっぱいってこんなにやわらかくてあったけえんだな。はわわ、俺ちゃん、マジ幸せえ……。


 いやでも、この感触は確か以前にも味わったことがあるな? そう、あれはハシシュ風邪で寝込んでいた時。ユリィがお見舞いに来たんだよな。全裸で。おっぱいを俺の胸に押し付けに。あれは本当に、とてもいいものだった。


 そして、その時に比べると、今の俺たちの間には布が一枚あって邪魔だな。いや、これはこれで素晴らしい布切れなんだけどさ。こうやって抱き合っている二人の間にはもはや不要のものだってばよ?


 どうすれば、この障害を取り除くことができるんだ? 考えろ、俺! 上から見ると、ユリィの乳は俺の胸板で押しつぶされ、ますます魅惑的な谷間を作っているじゃあないか。こ、この乳の感触をダイレクトに味わいたい……。


「……ユリィ、聞いてくれ。俺はお前に、とても大事なことを言わなくてはいけない」


 俺はいったんユリィから離れ、その肩を両手でつかみ、強い口調で言った。ユリィは相変わらずとても恥ずかしそうに顔を赤くしている。


「俺は前から思っていた。このルーンブリーデルという世界において、女性のおっぱ、胸はなぜこんなにも恥ずかしいものとして隠されているのだろうと!」

「え?」


 ユリィは瞬間、不思議そうに小首をかしげた。おそらく、こいつ何言ってんだろうみたいに思ってんだろう。わかるわかる。俺も正直、自分でも何言ってんだろうって思ってるもん。


 しかし、ここはあえて、言わなくてはならない!


「聞いてくれ、ユリィ。実は俺が前いた日本という国では、女性の胸は別に恥ずかしいものでもなかったんだよ。みんな、普通に胸をさらけだして街を歩いていたものだったんだよ!」


 まあ、江戸時代あたりの話なんですけどね。


「しかし、この世界じゃどうだ? 男の胸はこうやって普通にさらされているのに、女の胸は恥ずかしいものとして隠されている。これって男女不平等じゃないですか? おかしいでしょう、ねえ?」

「そ、そうでしょうか?」

「そうですよ! 世界は丸いんですよ! みんな平等で人間らしく生きる権利を持って生まれてきたはずなのに、かたや胸をさらしていい人たちがいて、かたや胸を隠して生きなきゃいけない人たちがいる。これっておかしいでしょう!」


 俺はユリィの肩をゆさぶり、さらに強い口調で言った。はずみでユリィの胸がぷるぷる震えた。実にいい眺めだ!

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