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 それから、俺たちドノヴォン国立学院の生徒たちはそれぞれの部屋に荷物を置きに行くことになった。聞くところによるとベルガドで一番大きなホテルだそうで、何百人の生徒が一度に泊っても問題なさそうだった。ただ、俺たち以外に客の姿はまばらだった。シーズンオフとかだろうか?


 修学旅行のお約束よろしく、男子と女子の部屋は別々で、フロアも分かれていた。また、生徒たちに割り当てられた部屋は八人程度が一度に泊れる大部屋だった。


 しかし、俺だけは特別な部屋に案内されたのだった……。


「どうぞこちらをお使いください、勇者様!」


 と、支配人が俺を連れてきたのは、最上階の超高級スイートルームだった。そう、広々としてめっちゃ高級感のある部屋。ベッドも天蓋つきだ。


「なんで俺だけこんな部屋なんだ?」

「そりゃあもちろん、伝説の勇者様ですから!」

「ええぇ……」


 気を使ってくれてるのはわかるけど、やだなあこういう特別扱い。俺、修学旅行はみんなで一つの部屋で寝泊まりして、枕投げやってキャッキャ騒いだり、寝る前の恋バナで盛り上がったりしたかったんだが? それに、こんな高級感がみなぎっている部屋では逆に落ち着かないんだが?


「悪いけど、俺はみんなと同じ普通の部屋でいいよ。こういう部屋は趣味じゃない――」

「そんなことおっしゃらずに、どうかこの部屋をお使いください! 私たちを助けると思って!」


 と、何やら必死に俺に頭を下げる支配人だった。


「助けるって何だよ?」

「はい。伝説の勇者様が実際にお泊りになった部屋ともなれば、それはもう、部屋の格がぐーんと上がります。当ホテルも箔が付くというものです」

「はあ、なるほど」


 ようは俺の名前で宣伝したいってわけか。


「……実は、ここ一か月ほどお客様の数がめっきり減っておりまして、当ホテルは何気に経営大ピンチなのでございます」

「え」


 客が妙にいねーと思ったら、実際やべー状態だったのかよ。


「なんで急に客が減ったんだよ?」

「それはもちろん、例の厳格な入国審査が実施されたからでございます」

「ああ、あれか」


 ベルガドに入国するのに最低三か月は審査がかかるってやつだっけ。そんなんやられたら、観光客が減るのも当然か。


「審査が厳しいのは今まで一度もベルガドに来られたことのない方でして、過去に一度でもベルガドに来られたことのある方は、入国審査は数日で終わります。なので、現在当ホテルはほぼリピーターのお客様だけの売り上げです。つまり、新規のお客様がまったく来られない状態でして、経営的にはクリティカルダメージなのでございます」


 支配人は憂鬱そうにため息をついた。


「そうか、大変だな」

「いえ、そんなことはございません。今日ここに伝説の勇者様がいらしたのですから。渡りに舟とはまさにこのことです!」


 支配人は瞬間、かっと大きく目を見開いた。


「勇者様、存分にこの部屋をお使いください! 大事に使われる必要はございません! むしろとことん乱暴に、破壊の限りを尽くしてください! そうして、勇者様がここにお泊りになられたという痕跡を残してください! あ、もちろん、勇者様がここにご宿泊されたという事実は、勇者様が当ホテルをチェックアウトされた後に公にするつもりでございます。この旅のあいだに勇者様をわずらわせることはございませんのでご安心くださいませ!」

「いや、俺はここに泊まるとは――」

「泊まりましょう! めいっぱい汚しましょう! いろんな体液ぶちまけちゃいましょう! 勇者様はまさに歩く観光資源です! その行いのすべてがこの部屋の価値を高めるのです!」

「お、おう……」


 やべえ。このじじい必死過ぎて断れる雰囲気じゃねえ。


「おお、ちょうどこんなところにペンキがありますよ? これで壁に『勇者アルドレイ参上! 夜露死苦!』とでも書かれてはどうでしょう?」

「なせそんなものがここに……」


 用意がいいな、オイ!


「まあ、話はわかった。俺がこの部屋を使えばあんたは満足するんだろうから、そうしてやるよ。ものを壊したり変な汁ぶちまけたり落書きしたりはしないけどな」


 めんどくさいので、しぶしぶ言うとおりにしてやった。


「ありがとうございます、勇者様!」


 支配人は満面の笑みで答えた。

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