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その後、俺たちドノヴォン国立学院の生徒はそのホテルで昼食をとり、お待ちかねの水泳実習を受けることになった。
泳ぐのはホテルのすぐ近くにある浜だった。ベルガドは温暖な気候でほぼ年中泳げるそうで、普段はそれなりに混んでいるそうだが、今はスカスカだった。おかげで俺たちのほぼ貸し切り状態だった。
水泳の実習を受けるにあたっては、学校が用意した水着か、自分で用意した水着かのいずれかを着用することになっていた。まあ、ほとんどの生徒はマイ水着は持ってないらしく、学校指定の水着だったが。
そして、その肝心のデザインだが……男子は普通の海パン。これはいい。いいんだが、女子のがそのう、思っていたのとはちょっと違ったわけで……。はあ。
そう、俺が期待したのはスク水的なやつだったが、実際はちょっとラフな部屋着のような水着だったのだ。タイトなショートパンツに短い袖のシャツ、みたいな? それが女子の水着のデザインだったのだ……。
自室で海パンに着替えて、ウキウキで集合場所の浜に向かったところでその事実を目の当たりにした俺は、ショックで軽く石化してしまった。俺の
瞬間、俺の脳裏にとある美少女スパイアニメの最終回がフラッシュバックした。その最終回って水着回なんだけど、十九世紀のロンドンが舞台のせいで、水着のデザインも当時のものをそのまま持ってきやがったんだよな。そう、昔の水着だから美少女たちが着てもサービス感ゼロ。まあ、あれはあれでかわいらしかったが……。
しかし、ショックを受けたところで女子たちの水着の露出度が上がるわけでもない。あの美少女スパイアニメの最終回よろしく、「これはこれでいいんじゃない?」と、あきらめて、俺は素直に授業を受けることにした。
水泳実習の授業の担当は、おなじみドノヴォン国立学院の武術担当教師フェディニ先生と、ベルガド在住の水泳インストラクターにして水の精霊アンダイン、セレナ先生の二名だった。
フェディニ先生は普通に海パンスタイルだった。おっさんだが、武術担当というだけにそれなりに引き締まった体つきをしている。海パンはなぜかアロハなデザインだったが。
そして、セレナ先生は水の精霊なので半液体状の人型で、半透明でスケスケだった。一応女性のようでそれっぽい体型をしていた。
「みなさん、はじめましてー。水の精霊やってる、セレナって言います。今日はみなさんと楽しく水泳の勉強ができたらいいカナーって思ってまーす」
整列している俺たちの前であいさつするセレナ先生は妙にノリが軽かった。まあ、精霊だし、人間の礼儀作法とかどうでもいいんだろうが。
「これからみなさんに湖の中に入ってもらうことになるんですけどぉ、みなさんはたぶん、ほとんどの人が泳いだことないんじゃないカナ? ドノヴォンの国の人は、お風呂以外お水に浸かったことがない人ばっかりらしいもんね? なのでぇ、まずは泳ぐっていうより水に慣れてもらいます。今日は、人間は基本的に水に浮くってことをしっかり体感してくださいね」
話し方といい、なんか幼児向けの水泳教室みたいだ。
「あ、でもぉ、まずは泳ぎのお手本を見せてもらったほうがいいかな。そこの、派手な海パンのオヤジさーん」
「おうよ!」
と、夫婦漫才のような阿吽の呼吸でフェディニ先生は相槌を打つと、いきなり浜から湖に飛び込んでしまった。そして泳ぎ始めた。クロールでも平泳ぎでもない、体を横向きにして水をかいている独特の泳ぎ方だった、この世界では一般的な泳ぎ方なんだろうか、前に動画で見たことのある日本の古式泳法にかなり似ている気がする。
やがてすぐにフェディニ先生は浜に戻ってきた。
「あ、言い忘れていたが、水に入る前に準備運動はしっかりやるんだぞ。俺はさっき済ませてたから問題なかったがな」
と、みんなのところに戻ってきたところで、言い訳のように言うおっさん教師だった。ほんとに準備運動したのかなあ。
「今日だけであそこまで泳げるようになるのは無理ですけどぉ、水に慣れておくのはすごーく大事にです。急に水に落ちちゃったとき、溺れたら大変でしょ?」
セレナ先生の問いかけに、みんなは素直に「はーい」と答えた。
「よし、まずは準備運動だ」
と、フェディニ先生は言い、俺たちの水泳実習は本格的にスタートしたわけだった。
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