218
ルーシアの家は、学院から歩いてニ十分ほどのところにあった。予想通り、バカでかい豪邸だった。兄貴は聖騎士だし、きっと名門の貴族様なんだろう。あんなクソ高い暗黒魔法の本もぽんと買えるわけだ。
その豪邸の門の前に着いた時は、時刻はすでに夜七時過ぎくらいで、日はすっかり落ちてあたりは暗くなっていた。リュクサンドールも赤い目の夜モードだ。やつは今、ルーシアからもらったという、パリッとした高そうなコートを着ている。
なお、俺とリュクサンドール以外のメンバーは、ユリィ、ヤギ、フィーオだった。一年四組で呪術の選択授業を受けているメンバーを大急ぎで集めた結果だ。人数が多いほどあの女が邪魔臭いと感じるだろうし、本当は女帝様もお呼びしたかったが、あいにくすでに王宮に戻られていたらしく捕まえられなかった。まあ、これだけいればお邪魔虫としては十分か、フフ。
「……トモキ様、本当にわたしたちも一緒に来てよかったんでしょうか?」
と、ほくそ笑んでいると、ユリィが小声で尋ねてきた。
「ルーシアさんはきっと、先生と二人きりになりたいんじゃ……」
「いいんだよ、こういうのは大勢のほうが楽しいもんだ」
事情を察しているらしいユリィの言葉を華麗にスルーする俺だった。あいつらを二人きりになど、させるものか!
門のところで呼び鈴を押すと、やがてすぐに玄関からメイドのおばさんが出てきて、俺たちを家の中に招き入れた。家の中もやはりゴージャスで金持ちそうな雰囲気だった。レーナの街で俺たちが滞在した屋敷と同じくらい、金の力を感じる。
「ようこそお越しくださいました、先生」
と、ややあって、ルーシアも屋敷の奥から俺たちの前に出てきた。
そして、当然、
「な……なぜあなたたちもいるのですか!」
リュクサンドール以外のメンバーを見て、ぎょっとしたようだった。見ると、今日のルーシアは制服姿ではなく胸元が大きく露出したきわどいデザインのドレスを着ており、長い金髪の髪も三つ編みにして頭に巻き付けていた。ばっちり化粧もしているようだ。どんだけ気合入れて待ってたんだよ。
「私がご招待したのは、リュクサンドール先生だけだったはず……」
「ああ、みなさんにもぜひあの本をお見せしたいと思いまして、こちらのトモキ君に招集してもらったんですよ」
「トモキ君に……?」
と、その言葉だけで俺の狙いを察したのだろう、ルーシアは俺を強くにらんできた。ふふ、いまさらそんな顔しても、もう後の祭りだぜクラス委員長様ァ! ドヤ顔でその視線を受けた。
「そ、そうですか。しかし残念ですね。あいにく先生以外の方が来られるとは思っていなかったので、人数分のお食事など、おもてなしの準備ができていないのです」
「ああ、それは別にお構いなくー」
お前のそういうイラっとした顔を見るだけで、俺はお腹いっぱいだからあ。ウフフ。
「……そうか、では俺は食事の時間が終わるまで、庭でのんびりしていることにしよう」
と、ヤギはそこで一人で屋敷の外に出て行ってしまった。そういえば、それなりに広いお庭で、おいしそうな草もいっぱい生えてそうでしたね、ここ。ヤギのディナータイムにはちょうどよさそうな。
「アタイも来る前にお菓子いっぱい食べてきたから大丈夫だよー」
フィーオも飯抜きでも特に問題なさそうだ。つか、なぜお前は晩飯前のこの時間に菓子をたらふく食べるんだ。相変わらず本能だけで生きてるのかこの女。
「わたしも、寄宿舎に戻ってから晩御飯をいただくことにしますから、気になさらないでください」
ユリィも同様だった。ただ、フィーオ達と違ってルーシアに対してすごく申し訳なさそうな顔をしていた。まあ、ルーシアは明らかに怒ってる顔だしなあ。
「わかりました。では、リュクサンドール先生にはお食事を用意していますので、奥の食堂へどうぞ。他の方は、そのあいだ廊下やお庭で適当にくつろいでいてください――」
「いやいや! 俺たちもご相伴しますよ! な、ユリィ!」
「えっ」
「せっかくルーシアの家に遊びに、じゃなかった、勉強しに来たんだ。ルーシアも私服で学校とはずいぶん雰囲気が違うし、なるべく一緒にいてそのアットホームな雰囲気を堪能したいじゃないか!」
「はあ」
ユリィは俺の勢いにすっかりたじたじの様子だ。
「そういうわけだから、俺たちも食堂に案内してくれよ。別に何も出さなくてもいいからさ。お前たちのそばにいるだけでいいからさあ」
「わ、わかりました、では、みなさんはこちらへ……」
ルーシアは忌々しげに眉をけいれんさせながら、俺たちを家の奥の食堂に案内した。
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