204
その後、俺は再びユリィの寝顔を見ている以外することがなくなった。正直、ユリィに色々尋ねたいことはあったが、その寝顔はやはりとても安らかで、無理に起こすのは悪い気がしたし。
ただ、今はユリィがそばにいるというだけで、幸せだった。さすがにもう痴漢行為をする気はなかったが、その手を握っているだでも心があったかいもので満たされていく気がした。俺やっぱこいつのこと好きなんだなって、えへへ……。
夜がすっかり明けて外から鳥の声が聞こえ始めたころ、ユリィは目を覚ました。
「……お前、勝手に人の隣で熟睡してんじゃねえよ」
ユリィと目が合ったところで、俺は笑いながらこう言った。
「あ……はい」
と、ユリィは一瞬、いかにも寝起きらしいぼんやりした目つきでうなずいたが、直後、はっとしたように大きく目を見開き、いきなり俺に飛びついてきた!
「わっ!」
不意打ち過ぎて、俺はユリィに押し倒される形でベッドの上にあおむけになってしまった。
「な、なんだよ、急に?」
「どこか、痛いところはないですか?」
ユリィは何やら探るように、俺の体を両手で触りまくっている。とても心配そうな顔をして。
「いや、俺の怪我ならもう治って――」
「だって、トモキ様はゆうべ、先生にすごく危険な呪術をいっぱい使われたそうじゃないですか」
「あ、ああ……」
「だったら、どこか体の具合が悪くなってるかもしれないじゃないですか」
と、言いながらも俺の体を触り続けるユリィだった。ぺたぺた。ぺたぺた。その長い髪が俺の首筋にたれてきて、くすぐったくなってくる。
「いや、マジで大丈夫だから」
ユリィに馬乗りになって体を触られまくるのは正直うれしかったが、さすがにずっと心配させているのも悪い気がしたので、すぐにこう言って、体を起こした。ユリィも自然と起き上がり、俺から少し離れた。
「本当に、大丈夫なんですか?」
「ああ、どこも悪くなってないし、痛くもないよ」
「……本当に?」
ユリィは心配そうな顔をしたまま、こくんと首をかしげて、俺をじっと見つめた。俺は改めて「本当だってば!」と、強く念を押した。
すると、ユリィは今度はいきなり泣き出してしまった。
「……よかった、です……。トモキ様がご無事で……本当によかった……」
ユリィは目に涙をたたえたまま俺を見つめ、笑った。はずみでその目じりから涙がこぼれ、それは宝石みたいにキラキラ光って見えた。
ああ、そうか。俺はこいつを、こんなにも心配させてたんだな……。
とたんに、胸がぎゅっと痛んだ。俺はなんて悪いことをしてしまったんだろう。こいつを、こんなに泣かせてしまって。女を泣かせる男なんて、最低じゃないか。
「ごめん、ユリィ。お前に心配かけちまって、その……」
「し、心配なんかしてません!」
と、今度は突然むきになったように言うユリィだった。
「え? いや、今お前、泣いて――」
「泣いてません!」
と、大急ぎで涙を指でぬぐいながら言う。証拠隠滅か?
「わ、私が心配なんか、する必要ないじゃないですか! トモキ様はすごく強いんですから! 相手が誰だろうと負けるわけないって、わたし信じてました!」
「……そうか?」
さっきと言ってること違うんだが? なぜそこまで必死になって、俺のこと心配してなかったアピールするんだ、お前は。なんだかおかしくなって笑ってしまった。
「じゃあ、お前は何で、俺にべったりくっついてここで寝てたんだよ」
「そりゃあ、もちろん、トモキ様に文句を言うために決まってるじゃないですか」
「文句?」
「そうです。トモキ様ひどいじゃないですか。実はハリセン仮面だったなんて。それであんな、すごく悪いことしちゃって」
「……う」
そのことを責められると、そのう、返す言葉がないでござる……。
「す、すまん、ユリィ。あれはその、勢いというか……」
「わたしに謝ってもしょうがないでしょう。それに、今さら何か言い訳するのもダメですよ」
「そうだな……」
俺はベッドの上で正座し、頭を下げてショボーンとなってしまった。うう、つらい。
「今はその、本当に反省している。あんなことは、もう二度とやらないって」
「本当ですか?」
「ああ、約束する! 俺は、明日からは完璧にきれいな俺になる! 無添加無漂泊のどこに出しても恥ずかしくない俺になる! 信じてくれ、ユリィ!」
俺は顔を上げ、ユリィに必死に訴えた。
「……わかりました。もう二度と、あんな悪いことしちゃだめですよ」
ユリィは怒ったようなふくれっ面だったが、俺と目が合うと、すぐにまたやさしい笑顔になった。
そして、俺のほうに手を伸ばしてきて、俺の頭を自分の胸元に抱き寄せてきた。うお、何この、とてつもなくいい感触! いいにおいもするし。
「トモキ様はとてもお強いです。でも、その強さは、誰かを傷つけるためのものじゃないと思うんです。これからは、その強さを、何かを守るために使ってください。お願いします」
頭の上から聞こえてくるその声はとても穏やかで、俺の心にじんわりしみ込んでくるようだった。俺は「ああ」と答え、うなずいた。
「……あと、もう一ついいですか?」
「なんだ?」
「今回みたいに、急にわたしの前からいなくならないで……」
瞬間、ユリィの声が弱弱しく震えた。また泣き出したようだった。
「わたし、ダメなんです、やっぱり。心が弱いんです。だから、トモキ様が急にわたしの前からいなくなってしまうと……すごく、心細くなってしまいます……」
「わかったよ、ユリィ。俺はどこにも行かない」
俺はきっぱりはっきり言った。ユリィにもうこんなふうに泣いてほしくなかった。
「約束するよ。俺はずっとお前のそばにいる」
「……ありがとうございます」
ユリィはさらに俺をぎゅっと抱きしめた。そのぬくもりが、心地よく俺の体を包んだ。
そして、そんななか、俺はぼんやり考えた。こいつは俺のことを強いと言うけど、今回の戦いに関してはそうでもなかったなあと。そう、俺はリュクサンドールとの戦いで、ほとんど何も手が出せない状態が続いてて、何度も弱気になった。らしくないくらいに。そして、ユリィのことを考えると、その都度なんだかんだ立ち直ることができた。もちろん、魔剣に急に現れた
「ユリィ、俺のほうこそ、今までずっと一緒にいてくれてありがとな」
なんだか自然に、こんな言葉が口から出てきた。ユリィはそんな俺にとても照れ臭そうに「は、はい」と答えるだけだった。
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