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 リュクサンドールと俺は直後、ほぼ同時に動いた。


 そして、お互い猛ラッシュで攻撃を仕掛けあい、お互い全く同じように空振りしまくった! なんということでしょう。この俺の攻撃が、何一つ当たりゃしねえ!

 ぐぬぬ……さすが俺のコピー、手ごわい……。


 イライラせずにはいられなかった。普通に考えると、剣のリーチがあるぶん、俺のほうが有利のはずだったが、相手は俺より身長が高く、手足が長いうえに、闇の翼で飛んだり超加速したりもしてくるのだ。そう、俺の身体能力をパクった状態で、俺の体にはない便利機能がオプションでついてるのだ! これはズルいでしょう、いくらなんでも! ゼルダの伝説のシャドウリンクが自分だけ鬼神の仮面つけてるようなズルさですよ!


 そこで、俺は試しに上空の何もないところを指さし、「あ、あそこに呪術界のキングが!」と、叫んでみた。だが、前とは違って普通にガン無視されてしまった。おそらく今のコイツは、憑依合体しているツァドとやらに感情と一緒に間抜け成分を奪われているんだろう。おかげでこんなシリアス全開でスキのないキャラに……クソが! この俺のために間抜け具合は残しとけよ!


 ただ、どういうわけかやつは格闘しながら呪術を使ってくる気配は全くなかった。この近接戦闘能力の高さ(俺のコピーだから当然!)で、さらに自爆やらレーザー攻撃やらされたら、手に負えないところだったので助かったが、なぜ使わないのかは気になった。


 気になるので……思い切って聞いてみることにした。


「お前、もしかしてその状態だと、他の呪術使えないの?」


 と、まあド直球で行ったわけだったが、


「そうですね。使えないと言っていいでしょう」


 あっさり答えてくれた。とりあえず聞いてみるもんだな。


「使えないってことは、今はそのツァドとやらと合体してるのでせいいっぱいってことか?」

「いえ、原因は僕にあるわけではありません。僕としてはむしろ、さっきから積極的に他の呪術は使用していますが、すべて不発に終わっているだけです」

「? つまりどういうことだよ、わかりやすく言え」

「君のその剣が、僕の呪術をすべて打ち消しているということですよ」


 リュクサンドールは俺の持つ魔剣を指さした。それはやはり、白く神々しく光っている。


「なぜ君の剣に突然そのようなものが現れたのか、僕としてはまったく分かりませんが、それは間違いなく最上級の神聖属性の付与魔術エンチャントです。おそらくは陛下の大いなる祝福エル・グレイスと同等、いやそれ以上と言ってもいいくらいに」

「これが……?」


 確かに、握っているだけでも聖なる力をとても強く感じるが、あのチート女帝の神聖魔法と同じレベルなのかよ。


「ただ、その剣に付与された神聖魔法は、そう長くはもたないようですね」

「え」

「さきほどから少しずつですが、その力が弱まっていくのを感じます」

「言われてみれば……」


 確かに。よく見ると、最初に見たときより光が頼りなくなってきているような? 光の花びらも散る量が減ってきているみたいだ。


「おそらく、強力な魔法なだけに持続時間も短いのでしょう。ゆえに、この戦い、長引けば長引くほど、僕が有利になると言っていい」

「ちょ、マジかよ!」


 ただでさえ戦いにくい相手なのに、時間制限付きかよ!


「ま、まあいい! どっちにしろ俺のやることは変わらねえ! お前をこの剣でぶった斬るだけだ!」


 俺は再びやつに斬りかかった。うおおお! この剣が勝利を導くと信じて……! 二宮智樹先生に次回作にご期待ください! って、打ち切り漫画のアオリかーい!


 まあしかし、そんな猪突猛進の雑な攻撃は当たるはずもなく、先ほどと同じように軽やかな動きでかわされた後に、また反撃のパンチを浴びせられた。まあ、それはなんとか避けたが、はずみ体勢が大きく崩れてしまい、そこですかさず腹に蹴りをもらってしまった!


「ぐあっ!」


 俺は三メートルぐらい後ろに吹っ飛ばされた。うかつ! 我ながら圧倒的にうかつ! 相手は俺のコピーなだけに、少しでも隙を見せるとこれだよ。うん、俺やっぱ強いね……。


 ただ、食らったのが即死効果のついたパンチではなく、普通の蹴りだったのは幸いだった。痛いし、ヒットポイントがまたそれなりに削れたのは感じたが、すぐに体勢を立て直し、相手からの追撃をかわした。


 そして、さらに俺のほうから攻めるが、やっぱり空振り祭りだ。一発当たれば終わるのに、なんで全然当たらないのよ、もー!


 ぐぬぬ……早く倒さないといけないのに……!


 次第に焦りで胸がいっぱいになってくる。手に冷たい汗もにじんでくる。早く倒さないと、俺はマジで負けてしまう。でも、今のコイツには俺の攻撃は当たらない。いったいどうすればいい? 何か……何かないか?


 と、焦る気持ちが俺の中で最大限に高まった瞬間だった。握りしめている魔剣から、とてもあたたかく心地よいものが体の中に流れ込んできた気がした。


「……あ、あれ?」


 とたんに、俺の心は羽のように軽くなった。追い詰められ、焦りで凝り固まっていたのが嘘のように。


 今のはもしかして、この剣にこめられたユリィの気持ちだろうか? 俺をはげましながら、同時に落ち着けと言ってくれているような?


 そういえば、神聖魔法というのは、術者の気持ちが強いほど効果が高くなるんだっけ。あのツァドとかいうのを一瞬で三体も消したんだから、この剣に込められている気持ちも相当強いんだろう。だから、俺にもそれが伝わってきて……?


 なんだか次第に、剣を持っているだけで、ユリィがそばにいるような気がしてきた。そして、それは俺の心をとても強くした。


 そうだ、ちょっと攻撃が当たらないくらいで何を弱気になっていたんだ、俺は! まだ全然やれるじゃないか! 闇を払う光はまだ俺の手の中にあるんだから!

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