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よく見ると、魔剣の刀身からは、小さな光の残滓が白い花びらのように散っていた。そして、その白い花びらが、俺の周りの闇を消し去っているようだった。単に光っていて明るいというだけではなく、周囲の空気がすごく清らかになっていく感じなのだ。
これはやっぱり何らかの神聖属性の
と、そこで、
「……これは驚きました。その剣のたった一振りで、五体いたツァドが二体に減ってしまいました」
少し離れたところから、リュクサンドールの声が聞こえた。見ると、さっきまで俺のすぐ間近に迫っていた影の蛇、ツァドは、やつのところに戻っているようだったが、やつの言う通り、今は数が二体に減っているようだ。
この剣であいつらを一気に三体も消したのか……。
胸にわずかにわだかまっていた恐怖や不安が、とたんに無くなった気がした。なんで俺の魔剣がこうなったかはさっぱりわからんが、この神聖属性がついた剣ならあいつらを、いや、あいつを倒せる!
よし、このまま一気にあいつに斬り込んで――と、改めてやつのほうに向きなおったところで、さっきまでそこにいたはずの二体の影の蛇が消え失せているのに気づいた。あれ、俺はまだ三体しか倒してないはずですけど?
「お前、残った二体をどこに隠したんだよ?」
「あの拡散した状態では、君のその剣に対抗できそうもなかったので、いったん術を、プロトタイプ版のツァドβにダウングレードし、
「リ、リブート? もうちょっとわかりやすく説明頼む」
「ツァドβは、術師の体に直接ツァドを憑依させて使う術です。つまり、僕は今、彼らと一体になっているというわけです」
ふうん? ようはこいつ、あの二体と合体したってわけか。
「はん! ベータ版だか製品版だかよくわからんが、合体したところで、まとめてぶった斬るだけだぜ!」
俺は魔剣を握りしめ、即座にやつのところに踏み込み、斬りつけた。
だが、その攻撃はすべて、やつに命中することはなかった。最初のやや大ぶりの斬撃も、返す刀での最小限の動きの二回目、三回目、四回目の斬撃も、すべて紙一重で回避されてしまったのだ。俺がやつを舐めて手を抜いていたわけではない。やつが、俺の想定外の素早い動きをしてみせたのだ。
どういうことだ? なぜこんなに動ける? こいつは「インドア派」の学者先生じゃなかったのか?
反撃で蹴りが飛んできたので、とっさに後退してそれをかわしたが、やはりそのキレキレの動きには疑問を感じずにはいられなかった。闇の翼で素早く動けることは知っていたが、今の動きはどう見ても、闇の翼によるものじゃない。身体能力そのものが大きく向上しているような?
「おい、お前が今使っている、ツァドβってのは、急に誰でも格闘ができるようになる術なのか?」
と、ダメもとで聞いてみたら、
「それは正確な認識ではありませんね、トモキ君。ツァドβは、それまでにツァド自身が取り込んだあらゆる情報を、術者の体で利用できるようにするものです」
という答えが返ってきた。が、よくわからん。
「つまり、どういうことだよ?」
「今戦っている僕は、君自身ということです」
「え」
「……さきほど、君はツァドに飲まれてしまったでしょう?」
と、それだけ言うと、今度はやつのほうから、俺のほうに急接近してきた!
「わっ!」
その動きはやはり敏捷そのもので、俺はやつの拳や蹴りをかわすのでせいいっぱいだった。
だが、同時に、俺はやつの言葉の意味を理解することにもなった。そう、やつのその動きは、まさに俺の格闘スタイルとまったく同じだったからだ。
つまり、この男は今、俺の戦闘能力をそっくりそのままコピペしてる状態だってことだ。おそらく、あの影の蛇に右手が触れたときに、能力を吸われちまったんだろう、俺は。
「
カラクリがわかったとたん、怒りがこみあげてきて、再び俺はリュクサンドールに斬り込んだ。だが、怒りにまかせた大ぶりの攻撃では、当然、俺の超戦闘能力を完全再現して使いこなしているやつの体には当たるはずもなく、逆に反撃のパンチを食らいそうになった。
「のわっ!」
まあ、とっさに体を大きく後ろにそらして、それを回避したが、顔のすぐ間近に来たやつの拳を見ると、手のひらから黒いガスのようなものが漏れていた。これはもしやツァド?
「なあ、お前の手から漏れているやつが俺に当たったら、どうなるんだ?」
「僕の拳が君の体に直接当たれば、君は即座にツァドに存在を食われ、絶命するでしょう」
「え」
やべーじゃん! 即死攻撃じゃん!
「もしかして、お前それ狙って、さっきから俺に殴りかかってきてるの?」
「もちろん」
「で、ですよねー」
そうよね。一発殴ったら相手は死ぬんだから、もう殴るしかないよね。
「まあいい! 俺だって、今はこの剣があるんだからな! これからはお互い、どっちが先に相手の体に一発当てるかの勝負ってわけだ!」
俺は魔剣を強く握りしめ、叫んだ。
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