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 だが、直後、火葬の編み細工ウィッカーマンの中心で生贄となっているリュクサンドールは、血液爆弾ブラッディスマイルを使ったようだった。突如、それは燃えながら派手に爆発した!


「もう何でもありかよ!」


 さすがにまっすぐ直進してくるだけのそれを回避するのはたやすかったが、自ら燃えながら自ら爆発するいうヤケクソすぎる特攻には、度肝を抜かれた。常人には到底不可能な領域だ。


 というか、あの状況で血液爆弾ブラッディスマイルを使えたということは、燃えながらも笑顔は作れたってことか。顔の皮膚は黒こげじゃねえのか。血液だって熱で蒸発してねえのかよ。ほんと、攻撃方法がいちいち予想外というか、デタラメなやつだ。さっきはいきなり空の上から落ちてきて自爆だし……。


 ん? 空の上? 笑顔?


 俺はその瞬間、ピンときた。閃いた。この勝ち筋の見えない戦いにおいて、もしかしたら俺が勝てるかもしれない、唯一の方法に。


「ふう、さすがトモキ君です。これぐらいでは致命傷を与えることはできないようですね」


 と言うリュクサンドールはすでに元の姿に戻っている。だから、復活早すぎるって言ってるだろ、このチート不死族野郎。


 まあいい。俺のこれからの作戦には、関係のないことだ。フフ……。


「あ、あれ、何だ?」


 と、俺はわざとらしく上を見て、指さした。


「あれってもしかして、呪術の神様じゃね?」

「え!」


 予想通り、リュクサンドールは俺にホイホイ釣られて、俺の指さすほうに振り向いた。バカめ! こんな幼稚なトラップに引っかかりやがって!


 俺は直後、魔剣を握りしめ、リュクサンドールの懐に一気に踏み込んだ。そして、少し身をかがめ、リュクサンドールのあごの下から刃をつきたて、一気に上に切り裂いた。そう、顔だけを体から引きはがすように。魔剣でスライスしちゃったのだ。


 もちろん、それで俺の仕事は終わりではない。そのスライスした顔のパーツを、すぐに魔剣で夜空の向こうに打ち上げた。野球のノックのように。よし、こいつは笑顔を作れなくなった。つまり、今はどれだけこの男の体を刻んでも血液爆弾ブラッディスマイルは発動しない!


 俺はさらに残った体のほうも高速で切り刻み、その肉塊を夜空の向こうにノックし続けた。グロい、血なまぐさい、とびだす内臓――でも今はこれしかない! この男の存在を! 俺の前から! 完全に消し去るためには!


「はああああっ!」


 作業はほんの数秒で終わった。リュクサンドールの姿は完全に俺の前から消え、あたりには血だまりだけが残った。よし、勝った! アイツはもう消した!


「はは、どうよ、女帝様? 俺の戦う相手、いなくなっちまったぜ?」


 ドヤ顔ならぬドヤ声で、勲章に向かって話しかけてみたが、


『えー、ほんとにー?』


 女帝様信じてらっしゃらない。まさか、音声しかあっちに届いてねえのかよ。


『どうやって先生を倒したの?』

「ああ、分解して空の向こうに打ち上げてやったぜ」

『ふーん? それじゃ、トモキ君が勝ったことにはならないかなー』

「え、なんで? あいつ、現に、もうここにいない――』


 と、俺が言った直後だった。いきなり空の向こうから高速で何かが落ちてきた!


「のわっ!」


 とっさにそれをよけたが、見るとそれは、俺が最初に打ち上げたリュクサンドールの顔のパーツだった……。


「な、なんで戻ってきたの、お前……」

「そりゃあもちろん、闇の翼で」


 と、答える顔のパーツからは、よく見ると確かに闇の翼っぽい黒い影がついていた。


「まさかそれ、お前の体のどこにでも生えるの?」

「ええ、まあ」

「き、気持ち悪っ!」


 と、俺が叫んだ直後、今度は他のパーツが次々と俺たちのところに飛来してきた。超高速で!


「これ全部さっき俺が打ち上げたやつかよ!」


 まるで流星群だ。素早く身を伏せ、それらをよけた。


 それらは落下してくると同時に、闇の翼で動き、一つに集まり始めた。そして、まるでスライムが集まってキングスライムになるかのように、一人の男の姿に変わってしまった。くそっ、またしても完全復活かよ。ついでに服も元通りだ。これもたいがいチート性能かよ。


「それにしても、さっきはひどいじゃないですか、トモキ君。呪術の神様なんてどこにもいなかったじゃないですか!」

「お、おう……」


 しかも復活して最初に言うのがこれ。もっと他に言うことあるだろうがよ。


『そうだよ、トモキ君。せっかくの処刑なんだから、場外はなしだよー』


 と、女帝様の声が聞こえた直後だった。俺たちのいる闘技場の遺跡の周りに、うっすら金色の、半透明のドームのようなものが現れた。遺跡そのものを覆うように。


『とりあえず、ここから絶対守護者エル・ガーディアン使っておいたからね。遠くからの術式起動だから、あんまり強い壁じゃないけど、二人とも、勝負がつくまで、そこから出ちゃいけないよってことで。わかったー』

「はあ……」


 もう相手を場外に放り出すのは無理ってことか。


「まあいいさ、だったらこのままサシでやりあうだけだぜ!」


 と、威勢よく叫んでみたものの、やはりどうすりゃやつに勝てるのか、さっぱりわからなかった。唯一勝てそうな方法、場外強制ログアウトも速攻でふさがれてしまったし……。


 いや、待てよ? こちらの攻撃は効かないにしても、今のあいつに、まるっきり弱点がないわけじゃないな? そう、新月の夜補正とかでどれだけパワーアップしていようと、あいつの頭の中はいつも通りの残念なままだ。そこをつけば、あるいは……。


 よし、いちかばちかだ、やってみるか!


「あのう、先生、一ついいですかー」


 俺は揉み手をしながら、リュクサンドールに近づいた。最高の笑顔とともに。

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