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「ふざけんな! DIYに対する恨み言なら、DIY担当の教師に言いやがれ! 俺には関係ねえ!」


 俺は叫ぶと、魔剣を振り回し、ゼルダの伝説の回転斬りの要領で、自分の周りの炎を払った。


「誤解してもらっては困ります、トモキ君。僕の憎しみはあくまでDIYそのものに対してだけのもの! DIYの先生が何も悪くないことは知っていますよ! むしろ、二人ともとてもいい人で、お一人は、お給料日前によくお金を貸してくださいますし、もう一人の方は、よく僕にお菓子をくれます。また、どちらも毎回三十秒ぐらいは僕の呪術の話を聞いてくださるんですよ。いい人でしょう?」

「そ、そうか?」


 お菓子とか三十秒とか、なんでお前、その程度で他人を評価できるんだよ。三十六年間生きてきた結果がそれかよ。


「つまり、DIYを憎んで、DIYの先生を憎まずの精神です!」

「いやそんな、罪を憎んで人を憎まずみたいに、かっこつけて言われても……」


 相変わらず頭おかしいなとしか思わんのだが?


「ご安心ください、トモキ君。僕はDIYに対してだけではなく、君のこともちゃんと憎々しく思ってますよ。そして、今夜はそれを僕の愛する呪術にこめて、君に届けたい!」

「いらねえ!」


 と、丁重にお断りしたにもかかわらず、目の前の男はもう何も聞いちゃいなかった。また再び、呪術で犬たちを召喚し、俺にけしかけてきた!


「またかよ、ワンパターンすぎるんだよ!」


 俺はとっさに後ろに飛び、すぐに迎撃の体勢をととのえた。


 だが、犬たちは俺に接近してくることはなかった。その寸前で、突如として、巨大な藁人形に包まれ、燃え上がったからだ。そう、やつは犬たちを生贄に、火葬の編み細工ウィッカーマンの術を発動させやがったのだ。俺のすぐ目の前で。


「ちっ!」


 また不意打ち過ぎたが、火力はやつ自身が炎上したときよりはかなり弱そうで、少し後退するだけでノーダメですんだ。たいした攻撃でもないくせに、驚かせやがって。


 だが、直後、ふいに何かの気配を感じ、俺は上を仰いだ。すると、そこには、今まさに俺めがけて落下してくるリュクサンドールの姿があった!


「そっちが本命かよ!」


 大慌てで、横に飛び、その直撃を避けた。リュクサンドールは床に落ちるとすぐ爆発した!


「うわっ!」


 またしても至近距離でその爆風を食らい、少し吹っ飛ばされてしまった俺だった。くそっ、またちょっぴりダメージ食らっちまったぜ!


 しかも今度は犬を使っためくらましじゃなくて、犬を生贄に発動した炎のめくらましだった。何気にトリッキーさが加速してやがる。術を紹介した通りに使ってくれるのだけはありがたいが。


「ざ、残念だったなあ。お得意の自爆攻撃が、またしても不発に終わってよ!」


 もはや虚勢を張って効いてないアピールするしかない俺だった。どうすりゃこいつを倒せるんだよ、マジでわかんねえ。こっちが攻撃する前に、積極的に自分から命を投げ捨てるスタイルで特攻してくるし。魔術師系の敵で、こんな狂った戦い方するやつ、いままでいなかったし。


「炎の攻撃だって、ゴミカスみたいな威力だったしなあ!」

「……そうですね。やはり冥府の番犬セルベロスのような動物では、生贄にしてもあまり術の威力は出ませんね。動物を焼いても、たいていは苦痛以外の感情は出てきませんから」


 動物愛護団体がガチギレしそうな発言をかましてやがる。


「ただ、それでも生贄の動物の種類によって、威力は変わるものなんですよ。昔、火葬の編み細工ウィッカーマンの術の研究をしているとき、いろいろ試したものですが、やはり知能の高い動物ほど、情緒が豊かで、炎の勢いも強いようでした。本当は動物じゃなくて人間で試しかったんですけど、募集しても誰も来なかったんですよね。しょうがないから、毎日市場で動物を買ったり、そのへんで魔物を捕まえたりして実験を繰り返してたんですが、気が付けば、火の不始末で、周りの山を五枚ぐらい焼いてました。いやー、その後はすごく怒られちゃいましたね。その山の持ち主の領主さんに、煮えたぎるマグマの中に叩き落されたりして。やっぱりどんなときも、火の後始末だけはしっかりやっておかなければなりませんね」

「お、お前のそういう狂った武勇伝は、まさか術ごとにあるのか……?」


 山を五枚ってのもなんだよ。どんな単位だよ。せんべい焼いてるわけじゃねえだろうがよ。


「まあでも、あの頃は本当によかったですね。僕の愛する呪術の研究が、思う存分できたのですから。今となっては考えられないことです。どうして今の世界は、こんなにも呪術に対して冷たくなってしまったのでしょうか」

「どうしてって、そりゃあ、なあ……」


 お前の迷惑行為のせいとしか考えられんのだが?


「ああ、なんと恨めしいことでしょうか。僕の愛する呪術は、こんなにも迫害され続け、誰にもそのよさを理解してもらえない。そう、呪術を拒み続ける世界など、いっそ滅んでしまえばいいと思えるほどに!」


 と、そう叫ぶと、やつの中にまた負の感情がみなぎってきたようだった。その赤い瞳がまた禍々しく光った。


「さあ、トモキ君! また行きますよ! 僕の呪術にこめたこの恨めしい気持ち、ぜひ受け取ってください!」


 と、やつは再び火葬の編み細工ウィッカーマンで自らを炎上させ、さらにそのまま、高速で俺に接近してきた! うお、燃えたまま動かせるのか、これ!


「だからそれ、ただの八つ当たりだって言ってるだろ!」


 俺はツッコミつつ、その爆炎をかわした。

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