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「さて、トモキ君! 君に見せたい呪術はまだたくさんありますよ! どんどん行きましょう!」
リュクサンドールは再び高らかに叫び、
「
と、詠唱するや否や、自分自身をすっぽり覆うような巨大な藁人形のようなものを出現させ、その中からいきなり火柱を上げ炎上した!
「あ、あちちっ!」
慌ててやつから距離を取るが、火の勢いは恐ろしく早く、火力も相当なもののようだった。これが、呪術、
「ちっ、うぜえな!」
少しばかり後退しても、燃え盛る炎からは逃れられそうもなかったので、俺は足を止め、その場で大きく剣を横なぎに払った! ひゅんっ、という鋭い音とともにその衝撃波が扇型に広がり、火をかき消した!
「はは、残念だったなあ! こんなハナクソみたいな火力じゃ、俺を焼くどころか、パンだって焼けないぜ!」
火消しをした後は、しっかり煽って追撃の精神攻撃! まあ、正直、普通に俺を焼けそうな火力だったんだが。自爆攻撃もそうだったけど、こいつの呪術の威力、わりとマジでしゃれにならんのだが。
「ほう、さすが伝説の勇者様です。
自ら炎上し真っ黒こげになっていたはずのリュクサンドールは、すでに元の姿に戻っている。相変わらず復活速すぎだろ、このチート野郎。
「いやはや、やはり君は一筋縄ではいかないようです。さきほどの
「必要な負の感情?」
「
「また悪趣味な術だな……」
さっきの自爆といい、各国で足並みそろえて禁術なのも当たり前すぎる。
「僕は今、君に対して強い憎しみの感情を抱いています。それをさきほど、
「憎しみ? ああ、あれか。俺が暴マー倒しちまったことか」
「ええ! あれは本当に、僕にとっては許されざる行為です! 君のおかげで、世界はどれほど平和になり、僕の愛する呪術から遠ざかってしまったことでしょう! もっと世界は荒廃し、人々は負の感情で満ちていなければいけないのに!」
リュクサンドールの赤い瞳は、俺への憎悪でギラギラ光っている。相変わらず頭おかしいというか、もはや完全に悪の科学者みたいなセリフだ。
「うるせえな。終わったこといつまでもグチャグチャ言ってんじゃねえよ。忘れろ」
「いいえ、トモキ君。あなたは僕にとっては本当に許されざる存在です。暴虐の黄金竜マーハティカティさんを倒してしまったこと以外にも!」
「以外にも?」
なんか俺、こいつに恨まれるようなことあったっけ?
「あー、そうか、あのマドレーヌのとき?」
「いえ、それはどうでもいいです」
「廃村で殴ったとき?」
「それも別に」
「毒の呪術の話を長々としてるときに殴ったのは?」
「あ、それはけっこうカチンと来ましたね! 思い出しましたよ! トモキ君、なんで僕が呪術の話をしているときに邪魔するんですか! ひどいじゃないですか!」
「お、お前の怒りのポイントはそこでいいのか……」
こいつマジで呪術以外どうでもいいやつなのか。自分の体の扱いとかさあ。
「じゃあ、他に何に怒ってるんだよ? はよ正解を言え」
「それはもちろん、あの呪術の授業の時の発言ですよ。君は僕にこう言ってたじゃないですか、自分は呪術じゃなくてDIYの授業を受けたいと! 呪術じゃなくてDIYの授業を受けたいと!」
「え、そこ?」
しかも、二回も繰り返しやがって。
「なぜ、君は、いえ君たちは、そんなにも呪術を選ばずにDIYを選ぶんですか! 尊い呪術が学べる機会を犠牲にしてまで、DIYで何を学ぼうって言うんですか!」
「そりゃあ、家具とか小物とかの作り方――」
「それが人生の何の役に立つって言うんですか!」
「立ちまくりだろ……」
なぜこの男、こんなにもDIYを目の敵にしているのか。
「そ、そんな詭弁を弄してまで、君はDIYを支持するというのですか! 他の生徒たちもそうですよね! 最近は何かにつけてDIY、DIYって! そんなに家具や小物が作れるのが楽しいんですか! 形あるものはいつか壊れるんですよ! 若いうちは、形のない呪術こそ学ぶべきものです! 大切なものは目に見えないんですよ!」
どさくさに星の王子様みたいなこと言いやがって。
「……つまり、あんたは、最近のDIY人気をこの上なく憎々しく思っていると?」
「当たり前です! みなさんが呪術の代わりにDIYの授業を選ぶというのなら、DIYなど滅べばいい! DIY派のトモキ君も一緒に!」
と、そこでやつはまた
「あ、あつうっ!」
その火力は明らかにさっきより大幅にパワーアップしていた。
ぐ……。これが生贄の負の感情を最大限に乗せた呪われた炎の力……!
いやでも、なんでこの俺が、DIYに対する恨みつらみ妬みで焼かれなきゃならねえんだよ! それもう、ただの八つ当たりじゃねえか!
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