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 さて、次の転生ガチャでSSR引いてユリィと再会することを願った後、俺は、残った手紙に目を通してみた。ほとんどはあまり話したことのない、名前も覚えていないクラスメートたちからだったが、みな、俺こと、ハリセン仮面が捕まって死刑になることを悲しんでいるようだった。


『トモキ君みたいな本当の英雄が処刑されるなんて、こんな世の中まちがってるよ! 滅べばいいのにね!』


 誰だか知らんが、なかなか過激で熱い文章だ。非常によい! よし、転生ガチャで生まれ変わったあかつきには、こんな間違った世の中滅ぼしてやろう! その場合、転生先は、イケメンの魔王あたりがいいな。


『トモキ君、あのときはモンスターから私たちを守ってくれて、本当にありがとう! 大好き、愛してる!』


 おおお! 女子からのラブレターじゃねこれ? こんな愛のお手紙、生まれて初めてもらっちゃった。いや、俺もう死ぬんだけど。


『トモキ君があのハリセン仮面だったことを、僕たちはずっと忘れない! 君がハリセンを持ってあの胸糞騎士団をボコボコにした功績は永遠にたたえられるべきだ!』


 え、いや、それは忘れても……。


『それで、僕たちは話し合って、これからお金を出し合ってハリセン仮面の像をたてることにしたんだ。校舎の屋根よりも高い、大きな像になる予定だよ。もちろん、トモキ・ニノミヤという尊い英雄の名前を刻んで、未来永劫、生徒たちで君の活躍を語り継いでいくことにするよ!』


 ちょ、何その恥ずかしい計画! やめて、そんなマヌケな像作って、俺を永遠に辱めないで! これじゃ恥ずかしすぎておちおち転生できねーじゃねえか!


 とりあえず、俺はラックマン刑事を呼んで筆記用具をもらって、あわててそれらの手紙に返事を書いた。「みなさん、俺への気持ちはありがたいですけども、俺のことは忘れて幸せに生きてください。あと、俺の像はいらないです。像をつくるのに集めたお金は、どこかの孤児院にでも寄付してください。じゃあの」まあ、こんな感じで、素早く全員への返事を書き終えたのだった。


 やがて、二日後、俺は女帝様直々に裁判を受けることになった。話には聞いていたが早い。逮捕されてから数日でもう裁判。


 しかも、モメモ高等法院の第一大法廷というところに連行されるや否や、たった五分ほどですべては終わってしまった。


 そう、俺が法廷の被告人席に座らされると同時に、裁判長である女帝様が俺の罪状を読み上げ、有罪、死刑と宣言しただけで終わったのだった。弁護士とか検察官とかは一切なし。俺が何か言い訳する余地も時間も何もなかった。こ、これが、中世裁判……。やはりここは、転生ガチャで当たりを引いた後に真っ先に滅ぼさなければいけない国のようだな!


 その後、俺は警察署内の留置場から拘置所っぽいところに移送され、処刑の日を待つだけになった。おやつは約束通り毎日出た。それと転生してSSRを引くことだけが、もはや俺の最後の希望だった。


 やがて、裁判からまた二日後の夜。俺はいよいよ処刑されることになったようだった。晩飯(わりと美味い)を食べてくつろいでいると、刑務官が俺を呼びにやってきた。


「そ、そうですか、俺、ついに……」


 さすがに俺も体が震えた。いくら転生できるってわかってても、その、これから殺されるってのは、ねえ? やっぱつれえわ……。


 と、どんよりとした気持ちで胸をいっぱいにしていると、


「囚人番号5889番、これを着ろ」


 刑務官が俺に何か差し出してきた。見ると、それはドノヴォン国立学院の制服だった。その胸元には勲章もついている。


「……そっか。最期くらいは、ちゃんとした服装でいろってことか」


 学校の制服って確か、喪服としても使えるスグレモノだしな……。くうう! 下唇をかみしめながら、囚人服を脱ぎ、制服に着替えた。気を抜くと泣いちゃいそうだった。


 その後、俺はすぐに刑務官と共に拘置所っぽいところを出て、飛竜に乗せられた。これから処刑場に向かうのだという。


 ただ、それにしては妙に長い距離を移動しているようだった。眼下に広がる、モメモの街の明かりはすぐに小さく遠くになっていった。もはや俺たちの目の前に広がるのは、ただの真っ暗な夜の闇だけだった。そう、真っ暗。今日は月のない夜だった。


 やがて処刑場とやらに着き、俺は飛竜から降ろされた――わけだが、


「なんだここは?」


 俺はちょっとびっくりした。そこは古代に使われていたと思しき、円形闘技場の遺跡のようだった。今はその円形のリングの周りに、火のついたたいまつが設置されているが、人気はない。静寂そのものだ。


「……本当にここで処刑なんですか?」


 俺はすぐに刑務官に振り返り、尋ねたが、


「ああ。あとのことは陛下が直々に教えてくださるだろう」


 刑務官はそれだけ言うと、一人で飛竜に乗って、さっさと帰って行ってしまった。


「え、陛下って、ここには誰も――」


 と、俺がきょろきょろ周りを見回した瞬間、


『やっほー、トモキ君! ファニファだよ。聞こえるー?』


 制服の胸の紋章から、あのロリババア女帝の声がしやがった。なんだこれ、通話機能あったのかよ。


「お前、こんなところに俺を置き去りにして何する気だよ?」

『わかるでしょ。そこ、闘技場なんだから』

「わかんねえよ。ただの遺跡だろうがよ」

『じゃあ、近くに何が置いてあるか、よーく見て?』

「近くにって……あ」


 俺はそこで、すぐ近くにキラッと光るものが落ちているのを見つけた。そう、それは俺が昔使っていた魔剣だった。あの理事長室に飾られてたやつだ。


「なんで俺のメイン武器がこんなところにあるんだよ?」

『これから処刑するのに素手じゃかわいそうかなって思って』

「処刑? まさか――」


 そこでようやく俺はピンと来た! なんせ、ここまでの流れ、めっちゃ中世だからな!


「そうか、剣闘士方式の処刑ってわけだな! 俺を何かと戦わせて殺すスタイル!」

『あったりー』

「おおおお、マジか!」


 やべーな。俺、この処刑方法ならまるで死ぬ気がしない!


『トモキ君のために、超強いモンスターを三体用意したから、それ全部倒したら、トモキ君の勝ちで、死刑はなしにしてあげてもいいよ?』

「え、そんな楽勝な条件でいいの? 魔剣もあるのに? お前、マジで神かよ!」


 そうか。こいつは口ではさんざん小憎たらしいことを言ってたが、本当は俺を助ける気があったんだな。なんせ、俺、伝説の勇者様だからな。さすがにこんなところで殺すには惜しい逸材ですよねー。


「じゃあ、早く三匹出せよ。全部まとめて片付けてやるからさ!」

『じゃあ、一体ずつ出すねー』


 と、女帝様が言った直後、俺のすぐ目の前の空間に巨大な魔法陣が現れ、さらにそこから、一つ目の巨人が現れた。その首には例の金属の輪が見える。


『一体目。サイクロプス・ナイトもどき。準レジェンド級の強さのモンスターだよ』

「はいよ!」


 ザシュッ! 俺は一瞬のうちにその巨体を魔剣で屠った。


『うわあ、さすがトモキ君、はやーい! じゃあ、次行くね。二体目、ヘカトンケイル・マークエスもどきだよー』

「はいはい!」


 ズバズバ! 一体目と同じように魔法陣から出てきたところを瞬殺した。


『すごーい! あっというまに残り一体! トモキ君の無罪放免はもう目前だー』


 と、はしゃぐ声はどこかわざとらしい。


「じゃあ、とっとと三匹目も出せよ」

『んー、それが二体目までとは違って、ファニファの魔法で送れないんだよね。なんせ、魔法の能力が高いモンスターだから、誰かのそういう魔法は受け付けないの』

「なんだよ、それ。この場にいねえもんは倒しようがねえじゃねえか」

『大丈夫だよ。今、すごい速さでそっちに飛んできてるはずだから。月のない、真っ暗なお空を見て待ってたら、すぐ来るはずだよ』

「すぐって――」


 いつだよ?と、俺が夜空を見上げた瞬間だった。女帝様の言った通り、そのモンスターがすごい速さでこっちに飛んできたようだった。というか、ミサイルのように飛来してきた!


 ちゅどーん!


 それは俺のすぐ目の前に着弾した。闘技場のリングの石床に大きくめり込みながら。


 そして、直後、


「いたた……。やっぱり慣れないことはしないほうがいいですね」


 と言いながら、その穴から出てきたのは、リュクサンドールだった。

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